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執筆者

瀬古 博子

消費生活アドバイザー。フーコム・アドバイザリーボードの一員。

今月の質問箱

給食牛乳の風味異常にどう対応する?

瀬古 博子

4月26日、宮城県内の仙台市など9つの市と町の小中学校75校で、体調不良や味の違和感を訴える児童、生徒が相次ぎ、590人に上ったというニュースが流れました。

ニュースでは、「牛乳を飲んで3、4時間後、急におなかがいたくなって下痢した」、「バターを入れたクリームのような味がして変だと思った」、「夜になっておなかが痛くなった人もいた」などの児童、生徒の発言が紹介されたので、これは集団食中毒ではないかと思った人も多かったのではないでしょうか。

しかし、仙台市の報道発表は少しニュアンスが違っていました。

学校給食で提供した牛乳について、一部の学校の児童生徒等から「いつもと味が違う」などの訴えのほか、腹痛や嘔吐などの体調不良の申し出があったということです。

味の違和感の訴えが先に書かれており、文書のタイトルにも「体調不良」の言葉はありません。

「市立学校等の給食で提供した牛乳の異味等について」

それでも、「体調不良」を訴えた人数は39校で337人としています(牛乳の提供本数は59,626本)。

●メーカーの対応は「風味差異」が主

メーカー(東北森永乳業)の発表は、「風味差異」を主とした申し出に対する内容(4月26日、初報)。

申し出の内容は「飲用したところ、いつもと違う味がする など」とされており、体調不良については、注意書きで「因果関係不明」としています。

この時点で、メーカーの商品検査結果は、「大腸菌群 陰性、生菌数 0個、官能検査 正常」。官能検査とは五感による検査のことで、これが正常なので、風味についても「正常」との判断。

5月2日の第2報で、「黄色ブドウ球菌 陰性、黄色ブドウ球菌エンテロトキシン 陰性」との結果が追記され、5月8日の第3報で、保健所の調査でも商品、製造工程、流通過程等に問題が認められなかったことが報告されています。

●原因は特定されず

仙台市では、5月13日、メーカー、保健所および第三者機関での各種調査の結果、異常は確認されなかったと発表。牛乳の提供再開を決定しました。

なお、体調不良を訴えた児童、生徒17人の便の検査も行われましたが、原因の特定には至らなかったと報じられています。

●推定要因は「風味のバラツキ」

メーカーが、5月14日の第4報で「推定要因」としてあげたのは「牛乳の風味のバラツキ」。

注意書きで、学校給食で毎日のように牛乳を飲んでいる小中学生は、成人に比べ牛乳の風味差異に対する味覚が敏感とされていると記しています。

牛乳の原料となる生乳は天然のものであり、季節や乳牛、飼料等さまざまな要因の影響を受けます。したがって、風味が常に同じということはありません。

●牛乳再開、検食やサンプル検査の対応強化

仙台市では、給食での牛乳提供再開にあたって、学校側で行う牛乳の検食を強化。これまでの校長1人に加えて、教職員2人を追加し、3人体制で行うことに。

検食では、牛乳について、「異味の有無、異臭の有無、異物混入の有無、冷却の状況」をチェックし、異常が確認された場合は教育委員会に報告する体制を整えます。

しかし、検食については、「小中学生は、成人に比べると牛乳の風味差異に対する味覚が敏感」とメーカーが言っているわけで、人数を増やしても感度に差があるのでは、というのが素朴な疑問として感じられます。

やはりメーカー側の対応が重要と考えられますが、メーカー側はサンプル検査の数量を増やし、専門員(風味パネルマイスター)による風味検査を常時実施するなどの対応強化を行うとのことです。

●わずかな違いを感じる場合も

こうした学校給食の牛乳の事例は、繰り返し起こっています。

例えば2017年9月、新宿区では、小学校で1061人、中学校で240人、異臭等の訴えがあったことが発表されました。

このときも、保健所、メーカー双方の検査で異常は見つかりませんでした

また、2018年10月には茨城県の水戸市など6市町9校で、最近では2023年4月に京都府舞鶴市などの小中学校で、同様の事例が発生。牛乳提供は停止されましたが、調査の結果、問題は認められず、牛乳提供が再開されました。

これらのケースで問題となった牛乳は、

・官能検査でわずかにいつもと異なる風味を感じる検査員がいた

・特定の集乳エリアからの生乳が主に使用されていた

・牛乳に通常含まれる香気成分にわずかに違いがあった

といったことがあったようです。

集乳エリアに関しては、単独でなく、生乳を集めるクーラーステーションで他の産地と混ぜ合わせることで、バラツキの対策になると考えられます。

●7件中4件が「生乳の季節変動による風味変化」の可能性

牛乳の風味は、牛のエサなどさまざまな要因で変化する―そのことがあまり理解されていないという現状があります。

関連業界ではどのような対策を行っているのだろうかと調べたところ、一般社団法人Jミルクが、学校給食の牛乳の風味異常問題について対応マニュアルを作成していました。

このマニュアルによれば、2018年度に発生した学校給食の牛乳の品質事故は、7件中4件が「生乳の季節変動による風味変化の可能性」が原因とみられています。2019年度は4件中1件が該当しました。

(他の原因としては、牛乳に洗浄液が混入、下痢原性大腸菌の食中毒、などいろいろあります。)

こうした事案の防止や原因究明が求められており、学校や教育委員会に対し、「牛乳の風味は変動することを平常時から理解してもらう必要がある」と指摘しています。

実際、食育の一環や工場見学などさまざまな活動を通して、理解促進のための働きかけが行われているものと思います。

また、優秀な官能検査員の養成・活用が重視されています。牛乳の風味差異をゼロにすることはできなくても、きちんとした官能検査で、できる限り対処していくことはできるはずです。

マニュアルでは、官能検査で異常を感じたときの流れを例示していますが、実際にはわずかな風味の違いを感じて何らかの判断を下すのは、なかなかむずかしいことだろうと想像できます。

マニュアルでは、官能検査で製品として出荷できないと判断した場合でも、官能検査員に責任を負わせないようにあらかじめ決定しておくことをすすめています。

学校給食では、教室の中で、集団で牛乳を飲むことになります。風味に敏感な子どもたちが違和感を唱えたとき、集団心理が働くかもしれません。

牛乳を飲む子どもたち自身にも「牛乳の味は変わることがある」と教えていくことも必要でしょう。同時に、違和感を覚えた場合は、「無理に飲まなくていいよ」と言ってあげられたらと思います。

(フーコムメールマガジン第634号(5月16日)を加筆修正したものです。)

執筆者

瀬古 博子

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