科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

瀬古 博子

消費生活アドバイザー。食品安全委員会事務局勤務を経て、現在フーコム・アドバイザリーボードの一員。

今月の質問箱

「トランス脂肪酸、マーガリンよりもバターのほうが多い」は本当か

瀬古 博子

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2021年の「東京栄養サミット」、あっという間に終わってしまいましたが、世界から396のコミットメント(政策・資金の意図表明)が発出され、270億ドル以上の栄養関連の資金拠出が表明されたということです。

コミットメントを追跡し、世界の栄養改善状況を報告する「世界栄養レポート」を見ると、国別の栄養政策と財政についてのチェック項目が10あり、例えば「食品ベースの食事ガイドライン」とか「減塩政策」とかなのですが、トランス脂肪酸にかかわるものも2項目あることに、興味を引かれました。

●トランス脂肪酸対策、二つの「No」

一つは「工業的に生産されたトランス脂肪酸を排除する政策」で、日本の国別プロフィールを見ると、日本は「No」。

もう一つは、「飽和脂肪、トランス脂肪酸、遊離糖類、塩の多い食品・飲料の販売が子どもに与える影響を軽減する政策」で、これも日本は「No」。

なお、「食品ベースの食事ガイドライン」や「減塩政策」などは、日本も「Yes」となっており、それなりの予算がついていることがわかります。

トランス脂肪酸については、日本では、もともと摂取量が少なく、さらに食品中の低減も進み、あまり気にならなくなってきていますが、世界としてはまだまだ解決済みとはいえず、取組が進められている状況です。

WHO(世界保健機関)の12月7日付けニュースでも、工業生産されたトランス脂肪酸から人々を保護する規制を持つ国は、過去1年で3倍になったと報告しています。

WHOでは、エジプト、イラン、メキシコ、アゼルバイジャン、エクアドル、パキスタン、韓国、ブータン、ネパール、オーストラリアの10か国をあげ、工業的に生産されたトランス脂肪の負荷が最も高いと推定されるにもかかわらず、WHOが推奨するトランス脂肪酸対策を採用していない10か国だとしています。

●日本の対策

日本のトランス脂肪酸対策としては、2011(平成23)年に消費者庁が情報開示に関する指針を公表。

2012年には、食品安全委員会がリスク評価を行い、「脂質に偏った食事をしている人は、留意する必要があるが、通常の食生活では、健康への影響は小さい」と結論。

2015年には消費者委員会が「含有量の低減や適切な情報提供など事業者の自主的な取組とそれらを後押しする消費者庁等の取組を進めることが重要」との判断を示しています。

●トランス脂肪酸含有量の低減状況

さて、表題にあげた疑問、「トランス脂肪酸、今となっては、マーガリンよりもバターのほうが多い?」ですが、わかりやすい表が日本マーガリン工業会のホームページに掲載されています。

日本マーガリン工業会ウエブサイトより引用

日本マーガリン工業会は、上記の調査結果について、

「この平成26・27年度の調査結果の数値は平成18・19年度に行ったバターの調査結果の数値も下回っています。」としています。

たしかに、マーガリン、ファットスプレッド、ショートニングとも、平成18・19年度はどれもバターよりも高い数値となっていましたが、平成26・27年度には一桁程度低減されています。

●天然由来のトランス脂肪酸、冠状動脈疾患との関係は低い

だからといって、「トランス脂肪酸についてはバターのほうがあぶない」ということではありません。

食品安全委員会のリスク評価書では、トランス脂肪酸の過剰摂取は冠動脈疾患(心筋梗塞、狭心症等)を増加させる可能性が高いとしていますが、天然由来のトランス脂肪酸については、冠状動脈疾患との関係は低いと考えられる、としています。天然由来のトランス脂肪酸は、バターなどに含まれます。

WHOでも、工業生産されたトランス脂肪酸の低減を目指しています。

なお、前述のマーガリン等のデータに戻ると、トランス脂肪酸の数値は中央値であり、農水省の元データの範囲はマーガリンで[ 0.44~16 ]、ショートニングで [ 0.46~24 ] 、つまり多いものではマーガリンは100g中16g、ショートニングは同24gのものがあり、低減されたとはいえないものもあることがわかります。

●よく店頭で見る商品は

メーカーのホームページでいくつか確認したところ、「ラーマ ベーシック」と「明治コーンソフト」は商品10g当たり0.1g、「ネオソフト」は同0.05g、「小岩井マーガリン発酵バター入り」は同0.027g。(1回の使用量として商品10g当たりになっています。)

消費者庁は、100g当たり0.3g未満であれば「0 g 」と表示しても差し支えないとしていますが、上記の小岩井のマーガリンはそのレベルです。

かつては「トランス脂肪酸フリー」などと表示されたマーガリンも見ましたが、すっかり見なくなりました。

代わって、「部分水素添加油脂不使用」と表示された商品が多く見られます。工業生産由来のトランス脂肪酸の元となるのが、部分水素添加油脂です。

●偏った食べ方をしない

トランス脂肪酸が低減されて、飽和脂肪酸に置き換わることが懸念されますが、要は自分の食べ方なので、バターにしてもマーガリンにしても、偏った食べ方はしないことです。

2016年には、揚げ物や調理冷凍食品についても、食品中のトランス脂肪酸が調査されており、揚げ物の約7割、調理冷凍食品の約9割で、食品100g当たり0.3g未満、つまり「0 g」と表示できるレベルでした。

ただし、トランス脂肪酸を含有する自社商品があるメーカーでも、その含有量を把握していなかったり低減の取組を実施していない事業者がいることも、最近の消費者庁の調査でわかっています。

あと一息、行政は事業者の自主的取組が進むように、効果的に支援してほしいと思います。

消費者に対しては、バランスのよい脂質の摂取について、地道に伝えていくことが大事なのではないでしょうか。

(メールマガジンを加筆)

執筆者

瀬古 博子

消費生活アドバイザー。食品安全委員会事務局勤務を経て、現在フーコム・アドバイザリーボードの一員。

今月の質問箱

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