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執筆者

瀬古 博子

消費生活アドバイザー。食品安全委員会事務局勤務を経て、現在フーコム・アドバイザリーボードの一員。

今月の質問箱

遺伝子組換え表示、どう変わる?

瀬古 博子

キーワード:

 遺伝子組換え食品の表示について、検討会が設けられ、議論されてきた。3月に報告書が出されたことは、森田満樹さんが記事に書かれたとおり。

 検討会の報告内容について、4月19・20日、消費者庁主催の説明会が東京で開かれた。報告書では、表示対象品目等は原則変わらず、表示の方法について、これまで
 (1)遺伝子組換え(義務表示)
 (2)不分別(義務表示)
 (3)遺伝子組換えでない(任意表示)
の3通りだったもののうち、(3)「遺伝子組換えでない」を変えていく方針が示されている。

 現行制度で、「遺伝子組換えでない」と表示するには、適切に分別生産流通管理(IPハンドリング)を行い、大豆・とうもろこしの場合「混入率5%以下」であることが条件だが、この部分が厳格化される。「遺伝子組換えでない」と表示するには、「不検出」レベルであることが必要となる方向だ。

 では、「不検出」とまでいかなくても、分別生産流通管理をして「混入率5%以下」となっている食品、つまり今「遺伝子組換えでない」と表示されている多くの食品はどうなるのか。この場合、“分別生産流通管理が適切に行われている”旨の表示を可能とする。

 つまり、(3)が二つに分かれて、
 (1)遺伝子組換え(義務表示)
 (2)不分別(義務表示)
 (3-1)分別生産流通管理が行われている←5%以下で管理されている(任意表示)
 (3-2)遺伝子組換えでない←不検出(任意表示)
となることが想定される。

 検査法については、国立医薬品・食品衛生研究所に依頼し、現在開発中だ。また、具体的な表示方法については、Q&Aを作成するという。事業者側はスケジュールについて関心が高いようだが、移行期間も含めて十分な余裕をもたせるようにするという程度で、具体的な回答はなかった。

 また、義務表示対象品目はこれまでどおりだが、それ以外の品目で「遺伝子組換えではない」という表示もよく見かける。これらは食品表示基準の対象外となるが、どうなるのだろうか。こちらも明快な回答はなかった。

「遺伝子組換えのない飼料」といった表記はどうなるのか?

「遺伝子組換えのない飼料」といった表記はどうなるのか?

 実際の表示制度がどうなるかは、今後、検査方法が確立されて消費者委員会の意見を聞くことになり、消費者委員会の下部組織である食品表示部会で議論されるのだろう。

●「遺伝子組換えでない」の表示はなくなるか?

 質疑応答で目立ったのが、「遺伝子組換えでない」表示を厳格化することにより、分別生産流通管理したものが少なくなるのではないか、「遺伝子組換えでない」との表示がなくなるのではないか、それが心配だ、といった声だ。

 このような意見が、非組換え食品を求める消費者側の立場から多く出てくるのか、それとも非組換え食品を扱う事業者側から多く出てくるのか、よくわからなかった。

 表示厳格化の方針は、最大5%混入していても「遺伝子組換えでない」とする表示は誤認を招く、との意見が背景にある。

 私も、知人に遺伝子組換え表示の説明をして、「『非組換え』と書いてあっても、5%入っていていいのか。知らなかった。」と驚かれたことがある。

 消費者にとっては、表示はより正確なほうがよい。表示の信頼性向上の点でも、表示厳格化は歓迎されるのではないか。

●遺伝子組換えの表示が誤解を招くわけ

 「不分別」といった言葉が何を意味するのか、わかりにくいとの消費者の意見もある。遺伝子組換え農産物・非組換え農産物が、海外でどのように生産され、分別または不分別で輸送されてくるのか、知っていればわかることだが、そのような情報も乏しい。

 もう一つ、遺伝子組換え食品に関して、不足しているのは、国が審査し、安全なものだけが輸入や流通を認められているという情報だ。

 遺伝子組換え食品は、申請があったものについて一つひとつ安全性の審査が行われ、環境への影響も含め、問題のないものが許可され、公表されている。

 2018年2月23日時点で、遺伝子組換え食品318品種等が「安全性審査の手続を経た」ものとして、厚生労働省のホームページに記載されている。

 日ごろ「遺伝子組換えでない」という表示ばかり見ていると、何か危険なものであるかのような誤解が生じてしまう。誤解を少しでもとくような、表示の工夫はないだろうか。

(参考)
遺伝子組換え表示制度に関する検討会報告書

執筆者

瀬古 博子

消費生活アドバイザー。食品安全委員会事務局勤務を経て、現在フーコム・アドバイザリーボードの一員。

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