科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

瀬古 博子

消費生活アドバイザー。食品安全委員会事務局勤務を経て、現在フーコム・アドバイザリーボードの一員。

今月の質問箱

遺伝子組換え食品を3分47秒で語れますか?

瀬古 博子

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 先日、仕事仲間からEFSA(欧州食品安全機関)のツイッターがおもしろいよと教えられ、さっそく見てみた。
アクリルアミドやサルモネラなどさまざまなウエブ記事へのリンクがあったり、学生が研修ツアーでEFSA本部を訪れたといった楽しげな写真も紹介されている。その中には、動画へのリンクもある。見てみると、「科学を理解する」というシリーズで、さまざまな動画が掲載され「、EFSAチャンネル」としてまとめられている。

 このうち、最初に目について見てみたのは遺伝子組換え食品についての動画で、長さは3分47秒。EFSAの研究者であるClaudiaさんが説明者となって出演している。内容は、遺伝子組換え食品とは何か、どんな遺伝子組換え食品が開発されているか、EFSAが何をやっているか、安全性の評価はどのようにして行うのか。もちろん英語ですが、これが中学生にもわかりそうな、やさしい単語と手描き(!)のイラストで説明されている。

 例えば、遺伝子組換え食品と非組換え食品の違いは、害虫抵抗性とうもろこしを例にとって説明される。非組換えのとうもろこしには害虫がつくが、遺伝子組換えのものにはつかない。遺伝子組換えのとうもろこしが、非組換えのとうもろこしと同じ程度に安全か、EFSAが評価するわけだが、その際には、動物や人間が食べるとき、これらは同じ程度に栄養があるか、アレルギーが起こらないかといった、一連の質問によって評価を行う。つまり、やっていることは日本と同じだ。こうした説明では、パワーポイントはいっさい使われない。音声は彼女が語るものだけで、説明を英語字幕でも見ることができる。再生回数を見ると、8,000回を超えている。

 遺伝子組換え食品について説明しようとすると、ふつうは「ある生物から有用な遺伝子を取り出して…」といった技術的な説明ではじまり、遺伝子とは何か、品種改良とはどういうものか、などいろいろ説明することがでてきて、短い時間でコンパクトな説明をすることはむずかしい。しかも、説明しても、具体的にどのような食品なのか、実物を知らない人にはイメージが伝わりにくい。EFSAの動画はかいつまんだポイントだけになっているが、それでも遺伝子組換え食品とそのリスク評価について、やさしい言葉で3分47秒という短い時間で説明していることに感嘆させられる。

 EFSAチャンネルには、これよりももっと人気がある動画もある。例えば、「ヘルスクレーム」についての動画は14,000回以上再生されている。これは事業者の方々が見るのだろうか?
 「なぜハチは脅威にさらされているか」という動画もある。再生回数は約9,900回。環境問題に関心をもつ方々も見るのだろうか。この内容は、西欧、北米、中国で報告されているハチの減少について、ひとつの原因が特定されているわけではないが、ウイルス、農薬、寄生虫など、いくつかの要因が示唆されているとしている。

 これらの動画は、いずれもEFSAの研究者が冒頭に簡単な自己紹介をして、背景の手描きイラストを使いながら、平易な言葉で説明をするというスタイルだ。
 研究者の中には、これまでに来日して講演された方々もいる。外国のこととはいえ、研究者が、一般の人にわかるような言葉で説明してくれることには、頭が下がる思いだ。

 これらの動画を見て感じたことは

・私たちはパワーポイントに頼りすぎているのかもしれない
・“安心してください”といった言葉は、ときに押しつけがましいが、客観的な事実の説明であれば違和感がない
・短い動画は気軽に利用できる
・イラストや手書き文字のデザインは意外と重要だ
・平易な言葉で説明されると、誤解が生じにくい

といったことだ。

 長い動画や詳細な講演録でみっちりと、というのも必要だが、こういった簡便な動画のような例も、日本の科学コミュニケーションの分野にとって、参考となるのではないか。

参考:
・EFSAのツイッターEFSAチャンネル

執筆者

瀬古 博子

消費生活アドバイザー。食品安全委員会事務局勤務を経て、現在フーコム・アドバイザリーボードの一員。

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