GMOワールドⅡ
一般紙が殆ど取り上げない国際情勢を紹介しつつ、単純な善悪二元論では割り切れない遺伝子組 み換え作物・食品の世界を考察していきたい
一般紙が殆ど取り上げない国際情勢を紹介しつつ、単純な善悪二元論では割り切れない遺伝子組 み換え作物・食品の世界を考察していきたい
油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている
未承認コムギ発見に目を奪われがちだが、米国においてはこの数ヶ月GM(遺伝子組換え)食品・作物を巡る様々な動きがあった。そこで、2013年5月から6月中旬までの動きを時系列に整理してみたい。尚、各メディアへのリンクは煩瑣となるので、一部を除き省略している。
4月29日 The U.S. Fish and Wildlife Service(米国魚類野生生物局)は、環境保護団体の反対で止められている野生生物保護区へのGM作物作付けに関し可否を問う公聴会 を、6月から南部諸州において計5回開催すると発表した。
5月3日 USDA(米国農務省)・APHIS(動植物検疫局)は、J.R. Simplot社(本社アイダホ州)から、アクリルアミドの発生を低減するGMジャガイモの認可申請を受けたと官報に告示した。同社は、McDonald’s社へのジャガイモ主要供給元でもある。
5月3日 Nestlé USA 社とMead Johnson Nutrition社は、幼児用調整粉ミルクからGM成分を取り除けという反 GMO キャンペーングループの要求を違法性なしとして拒否。同じくSimilacブランドの特殊調製粉乳からGM成分を取り除くよう要求を受けたAbbott Laboratories社が、4月26日の株主議決でこれを拒否した(賛成は3.21%のみ)ことに続いた。
5月10日 USDA・APHISは、Dow Agro Sciences社の2,4-D耐性GMトウモロコシおよびダイズ、Monsanto社のジカンバ耐性GMワタおよびダイズの栽培認可申請に対し、より厳格なEIS(環境影響評価)が必要と認可を延期した(白井洋一氏の解説参照を)。
5月10日 バーモント州議会下院は、5月7日に下院司法委員会を賛成7票-反対4票で通過したGM食品表示法案(H. 112)を、賛成99票-反対42票で可決。上院での審議は次の会期からとなる。
5月13日 最高裁は、GMダイズの収穫物から種子を再播種したVernon Hugh Bowman(インディアナ州ダイズ農家、75歳)の種子特許権侵害には当たらないとする上訴を退け、Monsanto社への特許権侵害を認める判決を下した。
5月14日 Syngenta社とDuPont社は、両者が所有する特定の殺菌剤(成分)に関して相互利用を認めるクロスライセンスを締結。
5月15日 連邦議会下院農業委員会は、GM食品表示をする各州の権利を奪うものとOrganic Consumers Associationなどが解釈しているSteve King下院議員(アイオワ州)提出の農業法案(S- 954)改正案(通称PICA :the Protect Interstate Commerce Act)を可決。
5月17日 連邦第9巡回区控訴裁判所は、GMアルファルファに対するUSDA・APHISによる規制緩和を違法とするCenter for Food Safetyの控訴を棄却。
5月23日 連邦議会上院は、Bernie Sanders上院議員(バージニア州選出)提出の各州にGM食品表示を許す農業法案(S- 954)改正案(S.Amdt. 965)を賛成27票-反対71票で否決。
5月25日 「Monsanto反対行進」が実施され、Facebookを利用した創設・組織者 Tami Monroe Canal 女史(ユタ州ソルトレークシティ在住、2女の母)によれば、52カ国436都市で200万人が行進に参加したという。
5月29日 未承認のGM小麦(Monsanto社のMON71800)がオレゴン州で一農家の休耕地から発見されたとUSDAが発表。本件に関しては、松永和紀氏の解説と白井氏のフォローアップを参照願いたい。一農家の一圃場のみの孤発的事故(事件)と6月14にUSDAはほぼ特定したものの、その後の追跡調査に進展は無く謎は深まるばかり。
6月3日 コネチカット州議会は、GM食品表示法案(H.B. 6527)を可決(法案審議では上・下院で個別に複雑な動きがあったが、最終的に両院が談合した結果、下院は賛成134票-反対3票、上院は満場一致で賛成)した。賛意を示している州知事の署名待ち。但し、自州に隣接する1州を含む他の北東部4州が類似の法案を通過させ、それらの人口合計が2000万人を超えた場合のみ発効する(因みにコネチカット州の人口は350万人程度)という付帯条項を伴う。
6月3日 Ben & Jerry’s社(アイスクリーム販売大手、本社バーモント州)は、2014年までにGM成分を全製品から段階的に排除し、2013年末まではGM成分の自主表示をすると発表 。
6月8日 Syngenta社が保有・管理するオレゴン州の圃場2区画で、GMテンサイ6000本以上が同日と3晩後にわたり破壊されFBIが「経済的妨害行為」として調査中。Oregonians for Food and Shelterが、情報提供に対し1万ドルの報奨金を提供すると発表した。
6月10日 連邦議会上院は、新農業法案(S-954)を、賛成66票-反対27票で可決。
6月10日 控訴裁判所は、有機生産物へのGM混入に関しMonsanto社の特許権侵害告訴を阻止したいthe Center for Food Safetyと有機生産者の集団訴訟で、地方裁判所の判決を支持しMonsanto社の勝訴が確定(なお、同社は1%以下の微量混入に対しては特許権侵害で告訴しないとホームページで声明している)。
6月10日 アリゾナ大学とフランスの研究者らが、世界5大陸の関連論文をメタ解析した結果、Bt作物に抵抗性を発達させた害虫が5種類(ワタ3種類、トウモロコシ2種類)に増加しているとNature Biotechnology誌に発表した。
6月13日 最高裁は、自然状態のヒトの遺伝子に対する特許は認められないと判決。但し、人工的に合成された遺伝子については特許権を認める。
6月13日 メイン州議会は、GM食品表示法案(L.D. 718)を可決(下院は6月12日、上院は6月13日)。但し、他の5州が類似の法案を採用するか、1州または複数の州の人口合計が2000万人を超えた場合のみ発効する(因みにメイン州の人口は130万人程度)という付帯条項を伴い、2023年1月1日までにこれらが実現しない場合には廃案となる。
6月14日 Chipotle (Mexican Grill)社(コロラド州で1993年に創業したメキシカンファストフード・レストランのチェーン店、米国外も含め現在は1400カ所以上に展開)は、自社オンラインメニューにGM成分自主表示を開始。3月11日、全取扱商品に2018年までにGM自主表示をすると発表したWhole Foods Market社(339店舗を保有する食料品スーパーチェーン店大手)とBen & Jerry’s社(上記)に続き3社目、ファストフード・レストランとしては初。
6月19日 連邦議会下院は、新農業法案について投票の結果、賛成195票-反対234票で否決。主な争点は、民主党が提案する改正の一部であるフードスタンプ(貧民への食糧援助)予算カットについて(賛成188票-反対234票)であり、同法案の下院審議は振り出しに戻る。
6月19日 2013年度World Food Prize (1986年にNorman Borlaug博士とGeneral Foods社により創設され、現在は篤志家がスポンサーでアイオワ州在の財団組織、「食糧農業のノーベル賞」と呼ばれる)を、Monsanto社CTO(最高技術責任者)Robert Fraley博士、Syngenta社のMary-Dell Chilton博士とベルギーのMarc Van Montagu博士の3名が受賞。バイテク研究者たちの独占、Monsanto社からの受賞が物議を醸している。
6月20日 連邦議会上院委員会は、GMサケに表示を必要とする文言を歳出法案に加えるLisa Murkowski議員(アラスカ州選出)の提案を賛成15票-反対14票で辛うじて可決。
6月20日 New York Times紙によれば、USDAはGM飼料を与えられずに生産された肉、液状卵製品へのnon-GM表示を認めることを決定した。
以上の出来事を要約すると、FDA(食品・医薬品局)が認めないGM食品表示を求める声と、これに応えようとする各州政府(「みんなで貼れば怖くない」と州政府が表示法案を議決したコネチカット州とメイン州以外にも20州以上が類似の法案を検討中だ。が、違憲行政訴訟のターゲットになる一番籤は誰も引きたくない)、この動きに迎合する一部の食品企業と敢然として闘う企業。
連邦政府でも2013年農業法案に、さまざまな改正や付帯条項を加えてこの動きを阻止あるいは推進しようとする闘い、カリフォルニア州選出上院議員とオレゴン州下院議員が4月24日に提出した全国レベルのGM食品表示法案「Genetically Engineered Food Right-to-Know Act」(S.809)の審議。特許権や環境保護を巡る法廷争議、相変わらず大人気?のMonsanto社・・・と、まるでコンフリクトの展覧会。一つ一つの行く末から、今後も目が離せない。
油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている
一般紙が殆ど取り上げない国際情勢を紹介しつつ、単純な善悪二元論では割り切れない遺伝子組 み換え作物・食品の世界を考察していきたい