科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

宗谷 敏

油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている

GMOワールドⅡ

米国FDAがDel Monte 社のGMピンクパイナップル米国内販売を許可

宗谷 敏

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 2016年12月14日、FDA(米国食品医薬品局)は、Del Monte Fresh Produce (DMFP)社(米国本社フロリダ州)に対し、果肉がピンク色のGM(遺伝子組換え)パイナップルの米国内販売を許す決定 を下した。

 「Rosé」と名付けられたこのパイナップルは、タンジェリン(マンダリンオレンジの一種)由来の導入遺伝子を過剰に発現させ、果肉内の抗酸化作用を持つ成分ピンクの色素リコピンを黄色い色素ベータカロチンに変える従来のパイナップルの酵素を低レベルに抑えるように遺伝子組換えされており、2005年から開発に取り組んで来たDMFP社が特許を持つ。

 FDAとの自発的な協議(consultation)を望んだDMFP社は、この新品種についての特徴、遺伝的変化の特質と影響、遺伝的変化に伴う予想外あるいは意図しない潜在的な影響、栄養性評価などに関してFDAに情報を提出した。FDAからこの新品種が食品として安全であることを保証してもらうための措置である。

 FDAは、連邦食品医薬品化粧品法(Federal Food, Drug, and Cosmetic Act:FD&C Act)に照らして、従来のパイナップルとの比較において、このパイナップルには安全あるいは規制上の問題がなかったと結論したが、consultationは、FDAによる承認(approval)と同義(synonymous)ではないことを強調している。

 しかし、このconsultationで得られた帰結的意味は、DMFP社がこのGMパイナップルを米国内市場で販売(国内栽培は計画されていない)することを可能にする。販売に当たっては2016年7月に連邦議会で成立し、USDA(米国農務省)が2年以内に開発するGM食品表示法の義務表示の対象となるだろうが、現行法制度下では作出法を示すGM表示は不要だ。

 GMピンクパイナップルの識別表示についてDMFP社は、「extra sweet pink flesh pineapple」というタグを付けることを、FDAの食品安全・応用栄養センター(Center for Food Safety and Applied Nutrition, known:CFSAN)に提案している。このタグにより、1996年に発売された品種である金色で甘味の強い「extra sweet pink flesh pineapple」(非GM)とも区別される。

 米国内では栽培されないGMピンクパイナップルは、2012年から中米コスタリカにおいて既に試験的に栽培されており、USDA・APHIS(動植物検疫局)により2013年1月25日に米国への輸入承認(2013年4月26日公表)を得ている。

日本においてももうすっかりお馴染みの果肉の赤いグレープフルーツについて、ペンシルバニア大学Nina Fedoroff教授は、著書(共著)「食卓のメンデル:科学者が考える遺伝子組み換え食品」(2013年4月、日本評論社、原著は2004年9月、Mendel in the Kitchen: A Scientist’s View of Genetically Modified Foods)の中で、次のように指摘している。

すべてのピンクグレープフルーツ(カロテノイドが多い)は、1907年にフロリダで発見された突然変異種のクローンであり、「Rio Red」品種(リコピンが多い)は放射線照射処理により作出された。しかし、このことを気にする消費者はいない。GMとは異なる突然変異誘発などの方法で遺伝子を変化させた多くの植物が毎年栽培されているが、それらの作物が店頭で「突然変異育種」と表示されることはない。

Fedoroff教授の主旨は、GMのように工学的ではなく化学的な突然変異などを利用した作物には規制がかけられないし、表示も問題とされていない、というGMにとっての不公平感を訴えているものと思われる。

因みに、柑橘類には珍しいアントシアニンを多く含む果肉の赤いブラッドオレンジも、突然変異種である。

GMピンクパイナップルは、栄養的にはリコピンの抗酸化作用によるアドヴァンテージ(動脈硬化防止や生活習慣病予防に効果が期待されると言われている)があるとDMFP社によって宣伝されるだろうが、当初は物珍しさから購買されても、将来GM食品表示を付けられた時にどうなるだろうか。米国消費者の受容動向が注目される。

執筆者

宗谷 敏

油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている

GMOワールドⅡ

一般紙が殆ど取り上げない国際情勢を紹介しつつ、単純な善悪二元論では割り切れない遺伝子組 み換え作物・食品の世界を考察していきたい