目指せ!リスコミ道
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
ヤクルト本社の販売子会社が昨年、売れ残って賞味期限が迫った乳酸菌飲料などを回収、別の取引先に納品していたことが昨日14日の新聞報道で明らかになった。奇しくも、私が前回の不二家問題(3)の中で触れているように、「大手食品企業」が「売れ残り」「期限切れ(今回は期限間近だが)」「再利用」とメディアが好きそうな4つのキーワードを満たした問題であった。まず、昨日の朝刊で一紙が「売れ残り回収・再納品」と大見出しで他紙をすっぱ抜いて報道、他紙も夕刊で続々と同様の内容を掲載した。でもちょっと待って。この報道、何か似てませんか?
昨日の第一報となる朝刊報道には、資料としてチャート図のコピーが掲載されており、そこのキャプションは「ヤクルトの販売子会社が作成していたチャート(コピー)。値札ラベルをきれいにはがす方法などが記されている」とある。つまり、販売子会社の社内向け内部文書がメディアに流出して、そこから取材を進めてスクープ記事にしたのだ。そのチャート図を読んでいくと、回収した製品の再利用する様子が事細かに表現されている。
こうやって内部文書は外部に漏れる。内部統制の問題である。不二家問題の始まりに似ている。健康被害は出ていない点も似ている。さて、あとは初動体制だが、こちらは似て欲しくないものだ。今のところ、報道によれば「賞味期限内に販売しているものの、商品の鮮度管理上、適切ではなかった(広報コメント)」として、子会社を指導しているということである。でも、これだけの情報だと、回収から再度納品に至るまでの温度管理等が適切ではなかったのか?と、新たな疑問が出てくる。「再商品化した取引先や商品の数量は現在調査中」ということであるが、保健所対応やメディア対応も含めて、今後の同社のリスク対応が適切に行われることを切に願う。
それにしても、期限間近・期限切れ商品の再利用問題は、メディアにとってこれからもスクープであり続けるのだろうか。ここ数年、「もったいない」思想が広がって、食べられる商品を廃棄することを、社会全体で再考されていたのではなかったか。家で期限切れの食品を食べると、「ワンガリマータイか」と突っ込まれるのは、我家だけだったのか。
もちろん、「もったいない」思想が広まったからといって、食品企業が期限間近食品を販売、再利用することを消費者がすぐに受け入れるわけもない。そこにはたくさんのステップがある。様々な条件をクリアしてから初めて議論する問題であろう。その前提条件とは(1)賞味期限設定の食品(消費期限ではない)で、しかもその賞味期間が比較的長く定められていること(2)食品衛生法およびJAS法の期限表示設定のガイドラインに基づき、科学的根拠をもって可食期間が設定されており、適切な安全係数が定められていること(3)賞味期限までその期限を担保する前提となる保存条件を満たしており、安全性が確保されていること(4)期限間近商品であることの情報開示が行われていること—-である。
今回のヤクルトの件は、(3)と(4)が今のところ不明なので、何ともいえないが、これらの前提をクリアしていれば、期限間近食品の再利用はそう目くじらを立てることでもあるまい。そういえば、ちょっと前の話だが、子供の学童クラブで、ヤクルト販売員のお母さんから子供達に、当日賞味期限の製品を分けてもらっていたっけ。その時はちゃんと専用カートに氷を詰めた上に冷えた製品をもってきてくれていたので、上記の(3)(4)はクリアしていたわけだ。むやみに捨てるのではなく、ありがたく頂く。食育上も子供達にとっていい経験ではなかったか。
食品をむやみに廃棄すべきではないという議論において、上記の必須前提条件に加え(5)賞味期限であれば安全係数が乗じられていることから、期限が過ぎてもすぐに捨てるものではないことを認識しているか(6)科学的根拠の安全を安心して受け入れられために、企業と消費者の間に信頼関係が成り立っているか—-という点も重要となる。実はここからがリスコミの出番ではないかと思う。
たとえば、私が期限表示について消費生活センターで話すときは、上記(5)のコミュニケーションのために、期限表示の設定が科学的根拠に基づいて行われること、微生物検査、理化学検査、官能検査などから可食期間を定め、さらに安全係数をかけて期限表示を定めることから説明した。さらに総菜のように微生物の増殖が早いものは消費期限、5日以上は賞味期限として、製品別ケーススタディを紹介、例えば同じ牛乳でも低温殺菌牛乳では消費期限で、通常のUHT牛乳は賞味期限であること、消費者として取り扱いをどうするかといったことを図解で細かく説明した。それによって、期限が切れてもすぐに廃棄するものではないことが、ようやくわかってもらえたような気がした。時間がかかる。企業のお客様センターにも、期限表示に関する問い合わせが多いと聞くが、企業からも期限表示に関する情報を常日頃から発信をすることで、消費者の理解も進んで上記(6)の信頼関係を築いていけるのではないだろうか。
ところで話は飛ぶが、食品廃棄の問題といえば、不二家において今年3月の再開宣言以前の製品がどうなったのか、再開前の2月にはすべて廃棄するといった誤った報道も一時期伝えられた。1月に問題になったのは洋菓子工場だが、一般菓子工場についても1月中旬からほとんどの流通が取り扱わなくなり、同社では2月の段階で大量の在庫を抱え込むことになってしまったのである。問屋の倉庫に山積みになった製品をいったん引き取った後、それについてどうするのか。再生にあたって、新しい不二家をアピールするために、これらは基本的には廃棄処分するという判断がいったんは下された。
しかし、再開前に製造された一般菓子については、安全性に問題があるわけではなく賞味期限もずいぶん先である。しかも大量である。そこで不二家の労組が加盟する日本食品関連産業労働組合総連合会(フード連合)が窓口になり「品質上は問題がないのでもったいない。有効活用したい」として、個人ではなく活動を行っている団体や労組などを対象に4月初旬より無料配布を行った。詰め合わせセット(17万円相当)を1000個以上用意したが、申し込みが殺到し、すぐに予定枠を超えてしまったという。
食品廃棄の問題は、このように個々の会社単位で解決できる問題ではない。再利用やリワークといった環境負荷からみると良い行為でも、消費者から見ればただの詭弁に過ぎない場合もある。会社の常識は社会の非常識、業界の常識は社会の非常識となってメディアに叩かれるのが今の現状である。
食品廃棄による経済的損失や環境負荷、リサイクルの実態を数字でおさえて「もったいない」と思う気持ちを押し付けるのではなく、消費者問題としてどのように醸成していくのか、せっかく家庭にまで普及していきそうな勢いのある思想である。今後は産官学のステークホルダーとともに議論する場がもっと増えていくことを望みたい。(消費生活コンサルタント 森田満樹)