九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。
第10回消費者庁食品表示一元化検討会は6月28日10時から2時間の予定でスタートした。配布資料として【資料1】新たな食品表示制度における加工食品の原料原産地表示についての方向感(案)、【資料2】新たな食品表示制度における栄養表示についての方向感(案)が用意され、また、委員の机上には鬼武委員提供資料と森委員提供資料、森田委員提供資料、山根委員提供資料が配られ、報告書(案)ではなく、原料原産地および栄養表示についての「方向感」について議論が進められた。
開会直後に中村幹雄委員が「この検討会の性格や役割は閣議決定と違うことを決めたりできるようなものなのか明らかにして欲しい」と質問し、福嶋消費者庁長官が「目的自体は閣議決定を踏まえながら、自由に議論してほしい」と回答し、議論がはじまった。
●新たな食品表示制度における加工食品の原料原産地表示についての方向感(案)について
資料1についての説明を事務局が行った。この資料の「これまでの経緯」には「検討会の議論の中では原料原産地表示制度そのものに対する否定的な意見や、その拡大に反対する意見が大勢である」と書かれていた。しかし、「原料原産地表示の義務付けの根拠を明確にして制度設計を行えば、対象品目の拡大についてコンセンサスを得られると考え、たたき台案で、誤認防止を義務付けの根拠とする考え方を示し、それについての委員の意見を踏まえて、具体的なイメージを整理した」として、別紙を参考に議論をすることが提案されていた。
別紙の「義務化の具体的イメージ」には、2つの方式が示されていた。(1)は指定加工食品に原料原産地表示を義務づける方式で、義務付けの根拠は、「国産の加工品で、加工地だけでなく、原料も国産と誤認する場合」となっている。指定のメルクマールとしては、(ア)調味、乾燥など簡単な加工を行ったケース、(イ)原料に価格差があり、その差が加工食品の価格に反映されるケースがあり、原材料に占める重量の割合が最も多い(50%以上と限らない)生鮮食品が対象になる。(2)は指定加工食品のうち、一定の強調表示がされているものに原料原産地表示を義務づける方式で、ある程度加工度の高いものでも原料の原産地を表示することとしている。(1)と(2)は併せて、又はこれに替えての義務付けをするという。
「誤認防止」については、「具体的イメージがわかない」「現実に誤認を把握するケースはどの程度あるのか」といった質問や、不適切な表示や誤認を招いている例が具体的に示されないまま、義務拡大を決めていくことへの危惧も出された。また、「品質の差異に関わらず判断要素として客観的という点で具体的に示したもの」と事務局が説明した「価格差」についても、「高騰しているうなぎのように、変動のある価格はメルクマールにはならない」「偽装の温床になるので慎重に」といった意見など、反対の意見が多くみられた。
また、現行22品目との境界部分にあり加工度が高いため表示が義務化されていないものには実行可能性の点から拡大を検討する余地はある」が、「果実飲料のようにブレンドした輸入原料を使用するなど実行可能性の乏しい食品については、無理に義務付けても混乱を招く」と問題視する意見も出た。また、原材料が国産かどうかを表示する考え方は、外国産原料を差別するという点でWTOでは認められていないとの指摘もあった。原料原産地表示については農水省も一度しかWTOに通報していないのだから、国際的にも通るようなロジックが必要という意見も示された。
一方、義務化拡大賛成の委員からは「原料原産地表示がないから消費者が勝手に想像し誤認を生む」のであり、加工度ではなく誤認惹起の防止から考えるべき、東京都の条例による調理冷凍食品の表示義務化の際に他の食品にも広げるべきとの意見があった、韓国では義務化が258品目に及ぶがコストは0.07~0.25%に過ぎず無理なものではない、表示が進むことで国産原料を選ぶことは良いことであるという意見も出た。
座長は、「今日は方向感の議論だが、品質の差異にこだわらないという点は了解されていると思われる。具体的な個別のものは共同会議のように、日常的な議論の中で何が困っているか、議論していかなければならない部分もあるのではないか」とまとめ、「次回もう一度報告書案という形で示して議論頂く」として、次の議題に入るよう促した。
●新たな食品表示制度における栄養表示についての方向感(案)について
事務局から説明のあった資料2には、除外規定はつけた上で、原則栄養表示を義務化する案が示された。その理由には、最近の国際的な動向として、コーデックス委員会ですべての包装食品への栄養表示義務化の方向性が示されたことがある。
最初に「栄養成分表示は、消費者としては役立てられていないことを書き足すべき、義務化の目的を改めて教えて欲しい」とする発言に対して、事務局は、「具体的な施策として国民のエネルギー過剰や塩分過剰の問題の解決は国民の健康上重要であり、表示を見てよりよい選択に導く教育も併せて行うべきものと認識している」と答えた。また「効果の予測データがあるのか、同じ結果があるなら義務化にこだわらなくても良いのではないか」との反論についても、「加工食品は書いてもらわないとわからない面があり、見比べて買うということが出発点」と説明した。
販売個数の少ないものを義務表示の例外とする線引きについては、実行可能性を疑問視する意見、中小零細の規模に留まらず業態特性や商品特性によって異なる実行可能性・信頼性の確保に不安を呈する発言があった。また、誤差の範囲のあいまいさが制度としての有効性の確保につながるのかとの疑問、加工食品の食品への寄与率は低いので栄養表示効果は期待できない、義務が当たり前の海外と違い日本は健康長寿国であり、義務化はコストがかかるので反対という意見などがあった。
また、義務化が新法の施行後5年以内と示された点については、環境整備が先であり順序が逆、ガイドライン化を進めながら実態を把握し、表示方法の検討を進めるべき、海外の実態を十分分析し、課題をどう超えていくのか事前に調査して義務化の検討をするべきといった意見が多く出た。
しかし、義務化に賛成の意見を出す委員も多く、国際動向を検討会で認識すべきという意見や、ここで義務化しないと環境整備も進まないという意見、カロリーやナトリウムなどは安全性に含まれる表示で全体的にみても優先すべき事項だとの指摘、健康増進法で国民に責務が与えられているのに5年の移行期間は長過ぎるので先んじて食塩の表示義務化を望むとする発言もあった。
座長は、「栄養表示は健康栄養政策とのリンクになる。食生活指針の推進についての閣議決定の中で、ここ十数年間自主的な形で進めてきた経緯がある。さらに効果的に進めるために義務化ありき、ただし条件がセットということだ。環境整備の中身、除外規定、時期は、次回に引き続き議論したい」と結び、加えて、福嶋長官が「栄養成分表示検討会の結論は活用や環境整備してから義務化というものではない。どちらが先というものをまとめたものではない」と発言した。本来なら終わるはずの第10回目に方向感(案)という形の資料が出て、議論も相変わらず蒸し返しが続き、30分以上超過してやっと会議は終わった。
●感想
「検討会は閣議決定を目的とする」という意味は、委員の多くが反対でも、原料原産地表示の義務化拡大は必須ということなのだろうか。しかし、誤認防止はまだ義務付けの根拠としての説得力を十分持たないままである。
一方、栄養成分表示の方は、義務化に賛成意見が多く、例外規定などさまざまな配慮が提案されているにもかかわらず、今もって反対がある。しかも、反対理由に我が国が健康長寿国だからとの意見まであるのには驚いてしまった。「主食、主菜、副菜を基本に、食事のバランスを」という標語が形骸化している現状をみると健康栄養政策は待ったなしの感があるのだが。これでは、報告書も期待はしない方がよさそうだと思いながら会場を後にした。(食品アナリスト・板倉ゆか子)
九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。