科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

森田 満樹

九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。

食品表示・考

第8回食品表示一元化検討会~板倉ゆか子さん

森田 満樹

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 第8回消費者庁食品表示一元化検討会が、5月11日に開催された。事務局作成資料としては「論点についての検討方向(たたき台案)」と、参考資料として前回提出が約束されていた食品表示に関する事業者アンケート調査が配られ、それらをもとに第7回で十分議論が尽くせなかった論点3、,論点4、論点5について、議論が進められた。

 今回の出席委員数は10名で、うち1名は途中からの参加であったが、議論は拡大反対の議論で白熱し、委員の質問に対する事務局の回答にも時間が割かれたので、予定の3時間を超える会議となった。事務局資料に加えて、前回委員の机上に配られた資料も含めて欠席委員2名と出席委員3名からの提供資料が机上配付されたが、欠席委員からの資料内容は話題にのぼらなかった。

 【資料】論点についての検討方向(たたき台案)

【参考資料】食品表示に関する事業者コストに係るアンケート調査

論点3食品表示の適用範囲について

 たたき台では、提供範囲は、①インストア加工、量り売り、外食である対面販売のグループと、それ以外の②自動販売機、インターネット販売、カタログ販売にわけられる。①については、「容器包装並の表示は困難であり、少量、バイキング方式という新しい形態も増えているので、アレルギー表示は、一律的に義務化は難しい」という意見、「外食といっても、工場で製造しパックを開けて簡単な調理で提供する場合など、表示実効性もさまざまあり、ひとまとめに議論できない」「外食企業側の委員がいないので、検討会として現場の事実を十分把握できているか疑問」「アレルギー表示の拡大については別途消費者庁としてアレルギー部会を開いて検討すべき」など、この検討会の議論だけで結論を出すのに反対する意見が続出した。

 ②のインターネット販売等に関する意見も、「ネットスーパー拡大の中、重要な情報の公表は早くに進めてほしい」といった意見がある一方、「取扱商品の膨大な数に実効性があるのか」「ホームページ管理者への行政対応がスムーズに出来る仕掛けがないと監視が難しい」「カタログ販売のカタログページの増加費用の負担に対する利用者の了解が得られるか疑問」といった問題点の指摘が相次いだ。アレルギー物質は数マイクログラムで発症する可能性があり、表示ミスによる回収の多い項目ということもあって、「必要性は認識していても対応が難しいので、義務化でなく、自主的な表示に留める方が良いのでは」との意見も複数見られた。

参考資料 食品表示に関する事業者コストに係るアンケート調査について

 論点4に入る前に調査についての概要が事務局から説明された。その内容は参考資料のスライド3にまとめられている通りで、栄養表示については、基本5項目の表示は全商品アイテムで23.9%であり、栄養成分表示が義務化された場合の既存アイテムの継続的な製造・販売に支障が生じると回答した事業者が23.7%あった。委員からは「『ほとんどの製品について製造・販売を継続できる』が3,4割あるということは、全体の6割は何らかの影響があるということなのだから、先に環境整備が必要ということになる」、「データベースの整備が必要」といった意見もあったが、「実行可能性が低いという根拠がよくわからない」「データベースを利用したり、試験機関を利用すれば、費用がかかっても実行はできるのではないか」という反論も出て、今までの繰り返しともみえる実行可能性をめぐっての意見のやり取りに終始した。

 なお、原料原産地表示についてのアンケートでは、商品アイテムの数は必ずしも企業規模の大小と比例しているわけではなく、原材料の産地切り替えは、平均すると年6回程度で、包材の発注単位は原材料の調達先の多さに影響を受けると考えられる結果であった。このアンケート結果に対する質問の前に関係する論点4について事務局から説明が行われた。

論点4加工食品の原料原産地表示について

 たたき台をまとめると「これまでの拡大の経緯、消費者基本計画において示されている方向性等を踏まえれば、現行の「品質の差異」の観点にとどまらず、原料の原産地に関する誤認を防止し、消費者の合理的な商品選択の機会を確保する観点から義務付けることとし、原料の品質が加工食品の品質に与える影響が明らかでなくても、消費者が当該加工食品の加工地(=原産地(国内))と原料の原産地が同じであると誤認しやすい商品については義務付けの対象とすることとしてはどうか。」と記されている。また、国際規格との整合性については、「コーデックス一般規格において、原産国の省略が消費者を誤認させる又は欺くおそれのある場合は、当該食品の原産国を表示しなければならないとされている」と説明されている。

 これらについて委員からは「表示拡大は消費者の当然の要求であり、最初から決まっていたはずだが、どのようにするかは議論できていない」という意見や「検討会の今までの議論では拡大に否定的な方向だったが、この案はそれを踏まえていない」「原料原産地表示義務化によって生産地の海外シフトが進むのではないか」といった意見が出された。

 また、国際的整合性について「原産国表示は日本ではすでに義務化がされており、原料原産地表示の表示ではないので、日本の原料原産地表示はそれを逸脱しているとすべきで、国際的整合性の点では文章を見直すべき」「消費者は原産国の表示をみて原料原産地と誤認するかもしれない」という意見が複数出たが、事務局は、うなぎ蒲焼では原料のうなぎも国産との誤認が生じる例をあげ、「原料の変更が軽微であって、原産国と原料原産地に誤認が生じる場合は、打ち消す表示が必要という点からコーデックスに触れているので、加工食品の原料原産地と混同しているわけではない」と説明し、「消費者が単に知りたいというだけの理由では表示義務は国際的に認められていないので、誤認の切り口で、整理したい」と述べ、「冠表示については、加工食品の原料=国産と誤認しないはずなので、検証については、個別各論になるが、絶対的な反対がなければコンセンサスを求めていきたい」と加えた。また、「産地名を書かずに誤認という場合は、JAS法で適用できないので、産地名を書かせるようになる。以前からレビューの希望のある黒糖及び黒糖加工品や、昆布巻は、まだ、移行期間中であり、検証は難しい」と弁明した。

 「我が国は40%の自給率で原料が輸入原料である加工食品が多いので、そのような可能性を生む食品は多いのだろうか」という委員からの質問に対して、事務局は「加工度が低い食品の中で品目を指定し、誤認する理由、誤認しない理由をそれぞれ挙げて議論をしていく」と答えたため、「たたき台からは、加工度の高いものまですべて原料原産地義務化になると読めてしまう」との反論があり、それに対して「報告書を具体的な形にするのか、ふわっとした報告書にするのかについては、これから議論したい。論点4は個別議論だが、一元化に合わせて検討するとなっているため、これについて詳しく書けば書くほど前半部分と後半部分にニュアンスの違うも出てくるのではないか」と答えた。

 原料原産地表示の要件に「誤認」を加え、「優良誤認」としない理由について、事務局は「優良誤認は景品表示法上著しく優良という意味である。著しいというのは、広告の場合にはある程度の主張は許されているので、社会的許容が認められると考えられる。食品規則の場合は、正確性が要求されるので、優良誤認ではなく誤認である」と説明し、商品名と表示との関係についても「制度設計する際考えておくべき内容である、強調表示も場合によって誤認に含まれると考えられ、品目選定の対象の選び方は今までの原料原産地のふたつの要件に加える(and)、あるいは、または(or)という考え方もあるが、主要な原材料に対してであり、個別にあたったものが無理となったものまで、無理強いするものではない」との説明を加えた。

論点5 栄養表示について

 たたき台には、「原則として義務表示とした上で、中小事業者等栄養表示が困難な事業者については、義務対象から除外して自主的取組を推奨する、一定の場合に容器包装への表示を省略できる、義務化導入当初は義務付けの対象を限定し、対象を徐々に拡大するといったことを検討したらどうか。対象の栄養成分は現行と同じ5成分のほか、事業者が訴求した成分とし、ナトリウム表示に変わって食塩相当量を義務表示とする」などの記載がある。

 委員の意見は、「事業規模等、事業者の実態を明確に把握して監視指導を行うのは、業務量からみても難しく、実効性が伴わない」という懸念や、表示義務があっても肥満が増加している米国の例をあげ、「健康への効果が薄い上に、数値の正確性の確保が難しいことで消費者にかえって不信を招く」「自主的な取り組みに委ねるべき」という義務化反対の意見と、「義務化を進めてほしい」「食塩相当量を健康に活かしたい」「公的なデータベースを導入して取り組みを進めるべき」「国際的整合性からみても他の国もやっている」「中小企業を除外せず、義務化に取り組むべき」という賛成の意見にわかれた。

(感想)

 素材や配合割合が同じでも、収穫時期、品種、産地の違いで大きくばらついてしまうので、表示に正確な数値を出すのが難しいことは理解できるが、給食は、その日の素材や各自の食べる量が異なっていても、計算で栄養成分値を求め、バランスを考えている。わざわざビタミンやミネラルを添加している「健康食品」なら、それなりの含有量を消費者が期待するのは当然だが、ふつうの食材で作った加工食品の栄養表示が一定でなく、表示値とずれていることに消費者がどの程度目くじらを立てるだろうか。

 食塩の摂取目安量を越える国民が多く、加工食品の食塩含有量が減塩等の強調表示のない食品でどの程度かわからないという不満も耳にするのだが「栄養成分表示は実効性が乏しい」、「栄養表示を義務化するのは消費者の利益にならない」という意見が飛び交うのは、発言している委員自身が栄養成分に関心のない生活を送っているからであろうか。現在、栄養成分表示を生活に活かしている人はごくわずかだとは思うが、今後ダイエットや生活習慣病の予防に利用しようと思ったとき、おおざっぱであっても、目安として使えるような環境があって、はじめて栄養教育の成果が出るということもあるのではないかと思った。

 「前回、今回は検討方向ということで議論をしたが、今回は欠席の委員も多いので、次回も議論をしていく、時間も残り少ないので、効果的に議論を進めていきたい」と座長は締めくくった。しかし、それぞれの論点について、反対と賛成の委員が相対し、以前に出た議論が再燃するなど、会議は相変わらず、効果的とはいえない展開であり、具体的な方法論には進めないままだ。事務局の心づもりは見え隠れしてきているので、次回はそろそろ報告書案の議論に取り掛かれるのだろうか。会議時間が長くなっているのにもかかわらず、かみ合わない意見が蒸し返されるばかりで、落とし所の議論も出来ず、ほとんど進展しない会議の傍聴概要を書くのは、そろそろ御免被りたくなってきた。(食品アナリスト・板倉ゆか子)

執筆者

森田 満樹

九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。