九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。
第4回目の議題は、前回に時間が足りず議論ができなかった「加工食品の原料原産地の表示拡大について」に加えて、「食品表示の適用範囲」「消費者意識調査の設問(案)」について検討が行われた。
○「原料原産地表示の拡大は問題」とする意見が大勢
原料原産地表示については、「拡大が当然」「原料原産地の拡大は決まっていたことと理解している」という意見が2名の委員から出されたものの、それ以外の委員については「拡大を続けることは問題だ」とする意見が大勢を占め、拡大という言葉をタイトルに上げることすら反対の意見もあったほどだった。そのため、拡大路線を踏襲するものと予想していた事務局には戸惑いもみられた。
拡大に反対する意見としては、(1)「消費者の商品選択に役立つか」「わかりやすさ」「実行可能性」などをポイントとして原料原産地表示を考えると、「役立つか」「重要度を占めるのか」は疑問である、(2)むしろ「風評被害につながるのではないか」「安全に関する情報と誤認される」という問題も発生する、(3)そのうえで「原料原産地表示を拡大させていく緊急性はあるのか」「一元化の議論のブレーキになりかねない」など、様々な観点からの指摘があった。
東京都の田﨑達郎委員は、「東京都は条例で調理冷凍食品について、原材料の上位3位などの要件で原料原産地表示が課せられる厳しいルールを定めているが、これらは国産のみで実行されているもので、そもそも大手企業が多いから実行できた」と説明した。
また、「事務局資料で『中間加工食品について海外産の食品の原料原産地を企業は把握していない』としているが、実際には企業は把握している」「食品に対するテロ等の防止について、フードディフェンス対策に熱心なアメリカでは完全トレーサビリティを求めているそうだが、わが国では業務用には原料原産地表示が義務化されていないので、実現するためには、川上から原料原産地表示を伝達していく仕組みがないと実効性も伴わない」という意見も出された。
2番目の議題は「食品表示の適用範囲」について、中食や外食、インターネット販売などのこれまで表示対象の適用外だった分野を対象とするかどうかについて話し合いが行われた。中食や外食の加工について、どこまでを調理とみなすかにより違いが生じる。外部の工場で製造を行ない店舗で温めるだけの場合には包装食品と同等の表示は可能との意見もあり、表示の実行可能性については、大手から個人営業まで一括りで決めるのは難しい。
また、中食や外食のように、そこに食品があって手に取って実物を見て、ある程度の確認ができて問合せが可能なものと、インターネット販売のようなものとは、分けて議論をする必要があるという意見には説得力を感じた。
3番目の議題のアンケート調査については、調査項目も多く、調査結果が妥当かどうかについて疑問を呈する委員が多かった。事務局からは1000人くらいを対象にインターネット調査を行うとの説明が事務局からあったが、「対象が偏るのではないか」「第1回目の会議で資料に掲載された内容で十分ではないか」「設問が多すぎる」「答えがない質問項目がある」「義務表示と任意表示が混在していてわかりにくい」という意見が出た。しかし、事務局としては、調査は面談調査なども加えて3段階で行う予定で、今回はプレ調査の位置づけとして予算消化の面からも年内にも実施するという回答があった。
検討会の大まかな流れは以上のとおりだが、そもそも食品表示の目的を明らかにしてからの議論でないことが、話をややこしくしているように感じた。それでも議論が全くかみ合わなかったこれまで3回の議論に比べると、一歩前に進んだ印象はあった。
○優良誤認からの観点から原料原産地表示の議論が必要
今回驚いたのは、原料原産地表示の議論の際に「消費者団体の不安が、一般消費者の不安と必ずしも一致していない」と考えている委員が多数いることだった。しかし、企業や消費生活相談窓口の問合せ等をみると、現在は放射性物質についての問題との関係で原産地を知ろうとする消費者も多い。委員として参加している人たちは積極的に情報を集め、放射性物質に限らず、さまざまな安全性について、原産地では判断できないということを知っているからであろう。
しかし、安全であろうがなかろうが、知りたいという欲求に応えるもの(知る権利)として、避けるための情報をほしいという消費者も多いので、どこまで、消費者の要望に重きを置くのか、舵取りが難しい問題である。表示の中身は時代の要請も反映されるところからみると、これから行なうアンケートには、昨年の原発事故の影響は色濃く反映されるものと思われる。
もっとも、表示義務化がどれほどの意味を持っているかを考えると、黒糖や昆布巻の原料原産地は消費者よりもむしろ生産者の要望で実現したものである。今後の更なる表示拡大の一歩として消費者サイドも賛成して作り出した歪な形の規則はこのままになるのだろうか。次に進む前にこれまでの原料原産地の表示をレビューしてみることも大切だと思う。
原料原産地に関する消費者の不満をみると、土産品を購入したら原産地が他のところだったとか、強調表示されているものが予想と違うということがある。したがって原料の産地によって価格に大きな差異が生じていることが明らかなものや商品名に特定の原材料を付した冠表示については、原材料の割合にかかわらず優良誤認という観点から表示対象としてほしいところだ。ただし、景品表示法を事務局が入れないつもりでいるようなので、どう整理が出来るのか気になるところでもあるが。
○義務化かガイドラインか
今回の検討会では委員である日本惣菜協会の二瓶 勉委員から、当協会で定めた表示ガイドラインと自主的な取り組みについて紹介された。提供形態ごとに実効性のある情報提供形態を定め、可能なことからやっていこうというところからスタートしているそうだが、健康被害や問い合わせの多さなど考慮して、原材料表示、原料原産地表示、アレルギー表示などが優先されている。実行可能性については商品規格書の整備なども重要で、惣菜管理士の育成なども必要ということだ。食品表示の議論においては、義務化が必要なのか、ガイドラインに留めるのか、あるいは放置しておいてもよいのか、整理をしておく必要があるということも含めて、内容にはなるほどと思われる点が多々あった。
ガイドラインが出ているものなら、消費者は事業者に要望しやすい。中小の事業者には、自主的に対応できるような環境や制度の整備が必要であり、消費者には情報を適切に利用して取り組んでいる事業者を応援する姿勢が求められる。検討会の結論がどう出ようと、今後、ガイドラインなどで任意表示を増やしていく取り組みは、ぜひ業界としても進めてほしいと思うところである。
九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。