九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。
<事務局から>
消費者庁は9月30日、食品表示に関わる法律の一元化に向けた「食品表示一元化検討会」の第1回目会合を、都内で開催しました。編集部ではこの検討会について、会員や読者の皆さまから、様々な視点で論じていただきたく、傍聴メモや感想を募っています。
初回は、消費生活アナリストの板倉ゆか子さんに、第1回会合の議論の概要を報告していただきます。板倉さんは、元国民生活センター調査役で、厚生労働省と農林水産省の「食品の表示に関する共同会議」委員として長年、食品表示に関わってきた専門家です。
○食品表示一元化検討会ができた経緯とこれから
食品表示の一元化は、2009年9月の消費者庁発足後に、2010年度の消費者基本計画が発表された段階で、検討されることが決まっていた。消費者庁は、2010年4月には「食品表示に関する一元的な法体系のあり方ワーキングチーム」を設置し、現行制度の課題の把握などの議論を行ってきた。このほど一定の成果が得られたとして「食品表示一元化検討会」を開催することになった。
今後、会合を月1回、計10回にわたって開き、消費者や事業者、学識者など16名の委員からなる検討会が来年6月をめどに報告書をまとめ、2012年度中に表示に関する新たな法案を国会に提出し、2013年度からの施行を目指す。初回の概要について報告したい。
初回検討会では冒頭、座長として池戸重信・宮城大学食産業学部長委員、座長代理として中川丈久・神戸大学大学院法学研究科教授委員が選出された。その後、事務局が一元化検討会開催要領(案)について説明を行い「検討項目は、食品表示の一元化に向けた法体系のあり方、消費者にとってわかりやすい表示方法のあり方、表示事項のあり方」等であることの確認を行った。
引き続き、事務局が配布資料の説明を行い、食品表示の現行の法律の仕組み、一元化に合わせて検討することとされている事項(栄養表示の義務化に向けた検討、健康食品の表示に関する検討、加工食品の原料原産地表示の3点)について紹介した。また、世界各国の食品表示の法律の概要や、現行の表示具体例について、あわせて説明を行った。
(配布資料1「食品表示一元化検討会開催要領(案)」および資料2「食品表示制度をめぐる事情」 )
○消費者の必要な情報をまず確保することが大事、という点で合意がみられた
初回ということで、今後の検討の進め方などについて、出席した委員の一人ひとりが順に意見を述べた。各委員のコメントを通じて、消費者、事業者、行政のいずれからみても、現行の表示ルールは複雑でわかりにくく、表示を間違いのないようにつけるのも、その内容を正確に読み取るのも、取締りをするのも容易ではないことが再確認された。
また、表示が本来備えるべき正確な情報を伝えるという機能が発揮されていない。具体的な例としては、一括表示の原材料名表示の中にみられる食品添加物や原料原産地などのカッコつき表示、遺伝子組み換え不使用、糖類ゼロ、無添加といった強調表示やJAS法の個別品質表示基準の原材料表示の不統一性などがあげられた。
一方、表示ルールの遵守の徹底という側面からは、JAS違反の場合は指示・公表段階を経たものについて罰則規定が明確ではない、一方で食品衛生法違反の場合は処分といっても行政処分を発することはなかなかできない、という現状がある中で、この二つを一本化できるのか、という問題点の指摘があった。また、現状では原料の表示順位の記載間違いなど、ペナルティ的に回収されているものも多く、食品廃棄が増えているとの指摘もみられた。
そのほか、表示は使ったものを知らせる本来の基本姿勢を守ることという意見や、表示に求める基本は安全性、栄養性、おいしさ、利便性、経済性、健康・生命に関わる項目を網羅するものである、という意見、一元化すべき法律を食品衛生法、健康増進法、JAS法に加えて、牛トレーサビリティ法、米トレーサビリティ法、景品表示法、不正競争防止法、計量法、酒税法(アルコール飲料)にまで広げるべきだ、とする意見などもあった。
意見の内容を項目別にまとめると、食品表示のあり方としては、消費者が食品の選択に必要な情報を確保することが可能な表示であることが目的、という点では合意があるように思われた。加えて、事業者にとっても、監督する行政にとっても、間違いが起きない表示ルールが求められる。
○わかりやすい表示の為に、食品表示の用語の定義がまず必要
食品のわかりやすさへの方向性という点では、消費者の知りたい情報が見やすく記載されること、見やすさについては、文字の大きさや表示位置も考えていくことなどが挙げられた。また、消費者からみると情報が多すぎるので、簡素化を望むという意見が出た一方で、栄養成分表示や原料原産地表示の拡大、食品添加物の表示拡大を希望する委員もいた。それぞれの立場での思惑もあり、調整の難航が懸念された。
食品表示の用語の定義の必要性や整理についての発言も相次いだ。具体的には「健康食品」等の用語の定義、製造の考え方、生鮮食品と加工食品の区別、製造日の定義の見直しなどが要請された。
表示の範囲という点では、法律に則った義務表示と任意表示の範囲を明確にするべきという意見があり、ウエブサイト、二次元バーコードなど様々な情報ツール、ラベル表示以外の容器包装の表示、カタログ、パンフレット、新聞雑誌等の広告、インターネット広告、店頭での掲示等のどこまでを対象とするかどうかも検討すべきとの意見があった。
検討に際しては、今までに実施された健康食品表示、原料原産地表示、栄養成分表示に関する検討会で懸案となって残した宿題を優先的にやるべきとの発言があり、遺伝子組換え食品表示などについては国際的な視点の必要性も述べられた。検討会の進め方については、工程表の提示、個別項目についての分科会(専門部会)の設定、農林水産省、厚生労働省、国税庁など、表示に関わる省庁の担当者の同席を求める意見もあった。
○10回でまとまるのか 委員から不安の声続出
今後議論すべき検討課題は多い。委員の意見が発表された後、消費者庁の福嶋浩彦長官は「目指すところは一致しているが、その手法はこれから大変な議論になると思われる」とまとめた。果たして10回で期待できる報告書が出来るのか、傍聴する側も不安がいっぱいだ。
それにしても、膨大なリクエストに対応する事務局も大変だろう。それを物語るハプニングが初回早々にみられた。一人の委員が、事務局が提示した市販食品の表示サンプル事例について、不適切ではないかと問い詰めたのだ。サンプル事例は「表示の具体例(原料原産地)」として取り上げられたこんにゃくの表示。「原材料名 こんにゃく粉(国産)、こんにゃく用凝固剤(水酸化カルシウム)」とあり、事務局はアンダーライン部分について原料原産地表示がされているということを示したかったのだが、 「食品添加物として用いられているこんにゃく用凝固剤はルール上存在しないのではないか」という指摘だった。これに事務局は即答できず、回答は次回に持ち越された。それほどまでに、表示ルールは複雑で、法律を作る側の消費者庁でさえわからない袋小路がたくさんあるように思えた。
実はこんにゃく用凝固剤の表示は、間違いではない。任意での用途名表記で認められている。検討会が終わって、こんにゃく用凝固剤の用途名表記についてスーパーでみてみたら、物質名の前に用途名を表示してあるものと、後に表示してあるものがあった。厚生労働省は、食品添加物の任意表示の用途名は物質名の後に( )内に表示することと説明しているが、必ずしもその順序で表示しければならないとはしていないようだ。
しかし、監視指導員の中には、食品添加物の任意表示の用途名は物質名の後に( )内に入れる順序で表示しなさいという指導もあるそうだ。薬事法や優良誤認の判断は、担当者によって異なるという話は以前から聞いていたが、こういうことが他にもあるなら、検討に当たって今の表示ルールではわかりにくいという例を集めるということも必要だろう。
また、わかりやすい食品表示であるべきというところは一致していたが、わかりやすくするということは、実はたいへんなことだ。かつて45回にわたって開催された「食品の表示に関する共同会議」でも、事務局が出してきたわかりやすい表示の在り方がどうしてわかりやすいといえるのか、個人的には疑問に感じた記憶がある。また、 この検討会で議論する表示の範囲をどこまでにするのか、容器包装だけにするのか、あるいは広告・宣伝も含めるのか―細部に入ってしまうとその正解を探すだけでも大変なことだ。10回で終わらせるには、この検討会でどこまでやるのか、共通理解を示しておかないと終わらないだろうと思われた。
最後に事務局より今後の進め方について、本日の意見をもとに整理し、全体的な枠組みを決めてから各論の検討を進めていきたいと説明があった。「食品表示に関する一元的な法体系のあり方ワーキングチーム」が1年半にわたって議論を行った結果が今回は明らかにされなかったが、それは、次回に提出されるのだろうか。今後は、検討会の途中でいったん中間論点整理を発表、意見募集を行った後、それを踏まえて最後の報告書の検討を進めることになるという。また、消費者・事業者等から意見を聴取する場も、適宜設定する予定だそうである。次回は10月25日(火)15時から開催される。(板倉ゆか子)
九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。