九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。
2011年7月26日、食品安全委員会「放射性物質の食品健康影響評価に関するワーキンググループ」の審議終了後、臨時の食品安全委員会が開催され、その後、記者会見が行われた。会見は、食品安全委員会 小泉直子委員長、ワーキンググループ座長の山添 康・東北大学大学院薬学研究科教授、同専門委員の川村 孝・京都大学環境安全保健機構健康管理部門長の3名が行った。
記者の質問に先立ち、小泉委員長が食品安全委員会小泉直子委員長からのメッセージを読み上げ、その後質疑応答が30分間行われた。概要をお伝えする。
質疑応答
(A新聞) 今回は内部、外部を含めた数値で出したわけだが、これでは食品健康影響評価がまったく行われていないと判断せざるを得ない。本来、食品安全委員会が判断を行うべきものではないと思うが、どうか。
(山添座長) 今回の評価が、食品健康影響評価を超えて外部被曝を含めて全体の数値を出しているではないかというご質問だと思うが、確かにそのとおりになっている。これは低線量における過去のばく露データをみた場合、食品だけの影響をとらえて評価をしている論文がほとんど見当たらなかった、ということが一点。また、被ばくの直後は大気の影響が非常に大きな影響を及ぼすが、長期にわたっては、周辺住民が汚染された食品をとることで、食品を経由したばく露が長期にわたって持続したと考えられる。
この2点から考えて、現時点では単独で食品だけを区別して評価することは非常に難しいと判断した。緊急時の今回のように大気のばく露はあるが、その食品の健康影響評価を考えると、平時に誤って何かの放射性物質が入ることも考えられることに対応できるよう、主眼は食品において評価をしたつもりである。
(B通信) 100mSvの中で、どれだけ食品に当てはめるかという話になるのか。
(山添座長) 以前、チェルノブイリ事故後に汚染された鹿の肉等が輸入をされたことがあったが、その当時は平時であり、100%は食物が占めるという仮定もできる。しかし、今回の事態を考えると、どの割合を当てはめるか、いろんな状況が考えられて、それに対応することになる。
(C新聞) 100mSvの割合について、汚染のひどい地域とそれ以外、子供と大人といったように、リスク管理側が細かいカテゴリーが考えられるということか。もう一つの質問は、100mSv未満は影響が見られないが200mSv、500mSvの場合はどうか、リスクの比較はできなかったのか。
(山添座長) 100mSvを累積線量として出したので、いろいろなことが考えられると思う。もっとも鋭敏な影響は、長い潜伏期間後に現れるがんの発症率の増加だ。今年に摂った線量が、ただちにリスクを直線的にあげるのではない。累積線量がある程度以上になって発がん率が増加するという形をとる。今後、できるだけ放射能を摂取しないほうがいいに決まっているので、どういう形で食品からの放射線を下げられるのか。避けられる部分と避けにくい部分があるが、食品はある意味で、自分たちで下げることができるものなので、できるだけ内部被曝を下げるということが今後、大事なことだろうと思っている。これからわれわれの社会の状況が変化していくだろうし、いろんな食物に検出されている中で、どういう姿勢をとるのかは管理機関がお決めになるが、いずれにしても、ばく露というものを下げる施策を今後とることが大事だと思う。
それから100mSvという数値を出したが、200mSvはどうか、リスクが2倍にあがるのか、ということではない。いずれの範囲においても、1000mSv以下は確率的な影響ということで、生活の環境によってあるチャンス、確率でなるということを示している。今後どう生活をするかによって個人差がでてくる。線量が2倍に上がっても、あくまでもチャンスが増えたということで理解してもらいたい。
(D新聞) 今回の累積線量をもとにすると、年間数mSvということになるということだが、今後パブコメして食品安全委員会が答申として出すまでは、現在の暫定規制値が使われることになる。とすると、国民からこれまで食べたのは大丈夫か、現在の規制値に不安が出ていると思うが、どのように思うか。
(小泉委員長) この件に関しては1カ月間、パブコメに入るが、それ以外に意見交換会を開催したり、安全ダイヤルで大筋の回答を差し上げて対応する。
(山添座長) 様々なお考えのもとに、不安を持っている方がいるだろうと思っている。暫定規制値が生きているじゃないか、という人もいるだろうが、暫定規制値については、3月の時点で限られた論文の中で評価をしたが、事実上、数値を見直しても年単位として評価すれば、直ちに変える必要はないとわれわれは考えている。今後、長いスパンの中で、対応させていけば、現状の案が出ていくまでに、リスクを増大するようなものになっていないと考える。
(D新聞) 暫定規制値を下回ったものについては、そのまま食べてもいいというメッセージを出されるのかどうか。
(山添座長) この数値を、個々の食品の摂取量の目安に按分していった時に、現在の数値が全体の枠組みの中で問題になれば、リスク管理機関で対応を決めることだろう。私がどうこういうことではない。ただ、現在の数値は、既にかなり厳しいものになっているので、極端な数字の変更はなく、現状は変わらないだろうと思う。
(E新聞) 小児については甲状腺がんと白血病により大きな影響を与える可能性があるとされているが、小児に関してはこれから規制値をつくるのであればハードルを上げることになるのか、上げるとしたら何割くらいか。
(山添座長) 今回の事故が起きた当初は、ヨウ素131がかなり広い範囲で出ていったが、ヨウ素の半減期が短いということ、生体内での半減期がさらに短いということがあり、現時点のばく露量は、新たに追加される分は無いだろう。当初のばく露は、どれだけ影響するかということだと思っている。管理機関では牛乳はすぐに規制され、チェルノブイリと同じ状況にはならないと理解しているが、そうであっても当初はヨウ素が出たわけだから、甲状腺がんの場合は発症率が高いことがわかっているので、考慮頂ければと思う。
(Fテレビ) リスク管理の話になってしまうと思うが、生涯累積線量を個人で確認するための手段があるだろうか。
(山添座長) 個人個人が容易に累積線量を見るのは難しい。自然界からもばく露も受けているし、今回、事故による追加の線量を区別することはできない。放射性ヨウ素を大量に浴びた場合は甲状腺で計れるが、セシウムはどのくらい出てくるかは尿中の放射能を計らない限り、個々人が知ることは難しい。
(G新聞) 作業グループで検討された閾値があるかないかについて、220ページの修文で、直線モデルの検証は困難であったという部分は残るのか。
(山添座長) 今回の議論の一つが直線仮説モデルである。現実にこれまでに多くのデータをみても、低線領域で具体的にがんの発症率、がん以外のものも含めて明確にリスクが高いと示すことができない。100mSv未満ではなかなか、単独の文献に信頼性をおいて評価をすることは難しいという見解である。しかしながら、これらのデータを無視するという考え方ではない。それ以外の方法で、低い線量におけるリスクを示す方法が現時点ではない。これらの数値を横目で見ながら、正しい現実の数値のデータを見ながら、安全の数値をどのへんで判断したらいいのかを示したと、ご理解頂きたい。モデルの検証が困難という書き方は残る。
(Hテレビ) 先ほど山添先生が、既に暫定規制値はかなり厳しいものになっていると話されたが、現在はヨウ素で2mSv、セシウムで5mSv、2つ合わせると7mSvになってしまう。私は暫定規制値をかなり厳しく見直さなくてはならないと思ったが、間違っているか。
(山添座長) ヨウ素の被ばくは、半減期を考えると、現実には下がっていてもう検出されていない。現在では積算するほどのものではないと考えている。セシウムや他の物も実際には規制されているので、かなり少ない量になっているだろうと理解している。
(B通信) 今回100mSvという数値で、先ほどまでの議論ではこれを閾値にしないということだったが、より低線量のリスク評価をどうするか。たとえば避難基準には20mSvが学校の基準として用いられて議論になったが、根拠となるような論文があるのか。また小児に対して安全側に立って、いろいろな論文に瑕疵があったとしてもそれでも具体的な数値、大人の2分の1とか、出すことはできなかったか。
(山添座長) 20mSvという数値は放射線作業に従事する人の年間許容量として、過去に使われてきた。この数値は、いろんな経験的な事実に基き、20mSvでばく露しても、トータルがこの中に収まっていればリスクはあがらないだろうとする過去の経験的データに、多くは基づいている。あくまでも管理側の数値であり、これを超えれば小児であっても何か影響がでるというデータは、われわれは見出せていない。
また、小児の問題はわれわれの議論を聞いて頂いておわかりだと思うが、サイエンティフィックに出せるものではない。甲状腺がんについても、もっとも低い論文はどれか、と思うあの論文(編集部注:チェルノブイリに関連して被ばく時の年齢が低いほどリスクが高かったことを報告している文献)を出した。しかし、そのままの結果をフェアに出しているかどうかについて、なかには首をかしげるポイントがあった。かといって、打ち消すこともできていない。ということでリスクが、大人と子供では違うことも考慮して、できるだけ安全側に立った判断をしてもらいたいという含みがあるということを理解してもらいたい。
(I新聞) 内部被ばくと外部被ばくのリスクについて、内部被ばくの方が影響が大きいと判断する人もいるが、そこを検討されたのか。
(山添座長) これはワーキングでも議論になった。当初は内部被ばくと外部被ばくでは、生態に与える影響は同一ではないのではないかという議論もあった。しかしながら、広島・長崎のデータも含めてみていくと、必ずしもそうではないという結果が多い。また、内部被ばくと外部被ばくとは、明確に区別できないということもある。実際に過去の大きな事例では、最初は外部被ばくを受けているが、水や食物からその後、内部被ばくをしている。両方がミックスされた形として出てきている。単独で医療事故等で内部被ばくを受けた事例、外部照射だけの事例、そういうものを検討していくと、両者を区別するほどの明確な違いは見当たらなかったので、現時点では両者を区別して判断する必要は無いと考えている。(文責・森田満樹)
九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。