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執筆者

畝山 智香子

東北大学薬学部卒、薬学博士。国立医薬品食品衛生研究所安全情報部長を退任後、野良猫食情報研究所を運営。

野良猫通信

この半年間で米国FDAが「達成」したものとは?

畝山 智香子

2025年10月1日以降、アメリカの政府機関は予算案不成立のためにシャットダウンされています。シャットダウン自体は初めてのことではなく、第一次トランプ政権時代にもあったのですが、今回は前回とは異なり、大規模な人員削減が行われる可能性があると予想されていて、既に半年前から減らされてきた政府機関の機能がさらに不可逆的に損なわれるのではないかと心配されています。

現在、各政府機関のウェブサイトのトップには、いろいろな言い方でこのシャットダウンが民主党のせいであると書いてあります。全く更新しないとしているところから重要な任務は継続しているところまで多様ではありますが、前回のシャットダウンではそのような政治的メッセージはありませんでした。

基本的に公務員は政権がどの政党であろうと国民のために働くことを建前としているので、少なくとも表面上は中立を装うものですが、現在のアメリカ政府にはそのような常識的なふるまいは全く期待できないことが改めて明らかになっています。

そのシャットダウンの直前の9月30日にFDAが以下のプレスリリースをトップに掲げました。

アメリカの人々のためにFDAが達成したこと
FDA Accomplishments for the American People | FDA
09/30/2025
最初の6か月に多くのことをした―そして始まったばかり

Accomplishmentを辞書で調べると、業績、成果、達成といった意味で、英英辞書でも何かを成功させた、努力の末に成し遂げた(something that is successful, or that is achieved after a lot of work or effort)、と説明されています。

このFDAの達成リストは色付きの★が付された簡単な文章があるだけで、リンクなどの参照はありません。従って正確に何を指すのかは不明ですが、「達成」とは程遠いものが多いように思われます。少なくともこれまでのFDAの発表からは読み取れないです。

FDA長官の認識と外から見ている私の認識について、現時点の記録として残しておこうと思います。以下、太字部分がFDAの発表、それ以外は私の想像する関連情報と感想です。

なお、とりあげるのは食品分野のみです。

★米国の食品供給から石油ベースの食用色素を排除

・石油ベースの食用色素を排除すると誓った企業の追跡
Tracking Food Industry Pledges to Remove Petroleum Based Food Dyes | FDA
09/04/2025

・FDAは食品中のオレンジBの認可取り消しを提案
FDA Proposes Revocation of Authorization for Orange B in Food | FDA
Sept. 17, 2025
フランクフルトやソーセージの表面あるいはケーシングに150 ppm (by wt)でのみ使用が認められているもので、既に業界での使用実績がないため認可を取り消す

この合成色素の排除はMAHAムーブメントのシンボルともいえるもので大々的に宣伝していますが、規制としては既に使われなくなった色素を削除しただけで特に大きな変更はないです。企業が自主的に排除することを促したことを成果としているものの、別に使ってもいいので企業が方針を変える可能性はあります。当然合成色素を使い続ける企業もあり、それは合法です。

★シードオイルと重金属なしの新しい乳児用調整乳選択肢を推進

・HHSとFDAは乳児用調製乳の栄養素に関する包括的レビューを開始する
HHS, FDA Initiate Comprehensive Review of Nutrients in Infant Formula | FDA
May 13, 2025

これは2022年の供給不安をきっかけにもともと見直す予定だったものです。そして専門家委員会が開催されているものの、動画のみで資料はありません。
FDA Expert Panel on Infant Formula – 06/04/2025 | FDA

具体的に何かが決まったという文書もでていないようですが、Makary長官がメディアでそのような話をしているようです。

★BHT、BHA、フタル酸のような化学物質を精査

・FDAは食品供給中の化学物質の市販後評価を更新
FDA Update on Post-market Assessment of Chemicals in the Food Supply | FDA
August 19, 2025

これはレビュー対象物質リストにBHT、BHTなどを追加しただけです。

★GRASの抜け穴を閉じる

MAHA報告書で言及されていたもののFDAの具体的対応は不明です

★新しい4つの天然食用色素を認可

・FDAはクチナシ(ゲニピン)青色素添加物を認可しFD&C 赤No.3のより早い段階的廃止を促す
FDA Approves Gardenia (Genipin) Blue Color Additive While Encouraging Faster Phase-Out of FD&C Red No. 3 | FDA
July 14, 2025

・FDAは天然由来の着色料3種類を承認する
FDA Approves Three Food Colors from Natural Sources | FDA 
May 9, 2025

これらはもともと申請されて評価中だったものを無理やり許可させたという印象です。おそらく認可に必要な何かのデータ不足などがあったものを「担当者の判断」という形で認めさせたものです。

★超加工食品に対応した新しい食事ガイドラインを作る

大幅改定版を作るとは言っているものの、まだ発表されていません。もともとの期限は今年度中ですが途中で8月中に出すと言ってみたりしていました。

★天然の脂肪を食べることへの70年にわたる戦争を終わらせる

これが一番わかりにくいのですが、おそらく動物性脂肪を食べすぎることは健康上好ましくないという栄養学的常識を覆したとMakary長官が思っている、ことを指すのだと思います。MAHA報告書では学校への全乳の復活という形で記載されていましたが、別に動物性脂肪は禁止されていたわけではないしFDAの管轄でもないと思います。

★超加工食品の単一定義を作る

・HHS, FDAおよび USDAは超加工食品の健康リスクに対応する
HHS, FDA and USDA Address the Health Risks of Ultra-Processed Foods | FDA
July 23, 2025
超加工食品の連邦政府が認めた統一定義を確立するための情報とデータを収集するための共同情報要求(RFI)を発表

現時点では情報収集の段階で定義はできていないと思います。

★米国の生産者を苦しめる時代遅れのオレンジジュース規制を排除

・FDAのMakary長官、USDAのRollins長官がアメリカの生産者に利益をもたらすオレンジジュース規制の近代化案を祝福する
FDA Commissioner Makary, USDA Secretary Rollins Celebrate Proposed Modernization of Orange Juice Regulations to Benefit American Growers | FDA
August 08, 2025
低温殺菌オレンジジュースの最低Brixレベル(溶存糖度の尺度)を10.5%から10%に引き下げる

この手の変更は定期的に行われるもので、成果と言えば成果かもしれませんが、リーダーが誰であろうとあまり変わらないと思います。

★時代遅れの食品基準を見直し

・FDAは食品の52の時代遅れの基準を取り消す
FDA to Revoke 52 Obsolete Standards of Identity for Food Products | FDA
July 16, 2025
52の食品基準が時代遅れで不要であると結論し、食品基準を取り消す、または取り消すことを提案する

これも上の項目と同じです。
以上、どうでしょうか。

ここに言及されていない、食品安全監視に関わる人員や予算を大幅に削減したことの悪影響に比べればどれもあまりにも些細な、あるいは的外れなことばかりです。

アメリカでMAHA運動の成果として売り上げを急拡大させているものがあるのですが、それがオーガニック牛脂フレンチフライ(Organic Tallow French Fries)です。

あるオーガニックレストランで販売されているのは、「オーガニックジャガイモを、オーガニックの牧草を食べた牛の脂で揚げたフライドポテトで、プラスチックの調理器具やシードオイルを一切使わない、グルテンフリーの、最も健康的な食品」だそうです。

Makary長官を含む、この熱狂の中にいる人たちにとっては、FDAが何かを達成したことになっているのでしょう。しかし栄養学や安全性などの学術分野においては、政権が変わったからといって変わったものは特にありません。植物油の代わりに動物性脂肪を摂ることが健康的だと主張する説が主流になったりしてはいません。

結局、科学に基かない主張をいくら政治力で推進しても、良い結果になることは期待できないのです。

Kennedy HHS長官のもとでのオーガニック推進の結果が、このいかにもアクリルアミドの多そうな、アメリカ人の健康にとってあまりよくなさそうなものである、という現実は、日本での非科学的主張に基づくオーガニック給食推進運動の行方を暗示するものでもあると思います。

執筆者

畝山 智香子

東北大学薬学部卒、薬学博士。国立医薬品食品衛生研究所安全情報部長を退任後、野良猫食情報研究所を運営。

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