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食事と体重の見直しで骨粗鬆症予防：食事摂取基準2025のポイント8

児林 聡美

エネルギーと栄養素の摂り方を示した国のガイドラインであり、食情報のエビデンスとして活用できるのが「日本人の食事摂取基準（以下、食事摂取基準）」です。
食事摂取基準そのものに関しては、「食事摂取基準2020年版」を題材にした34回の連載「これでわかった！食事摂取基準」シリーズで解説してきました。
（初回は「基準値なのに大切なのはそれ以外？：これでわかった！食事摂取基準１」）

食事摂取基準は5年ごとに改定されており、2025年4月からは最新版の「食事摂取基準2025年版」（文献1）の活用が始まっています。
この最新版の食事摂取基準の重要ポイントを「食事摂取基準2025のポイント」シリーズでお伝えしているところです。

前回の「食事摂取基準2025のポイント７」では、食事摂取基準の各論の第3節の変更点を解説しました。
第3節には、主要な生活習慣病、そして生活機能の維持・向上にかかる疾患の発症予防と重症化予防のために気を付けたい、栄養素の摂り方が解説してあります。
この3節で扱う「疾患」とはどういうものにするのか、2025年版の3節で、初めてその定義が明確になったことを紹介しました。

その流れを受けて、扱う疾患として増えたのが、骨粗鬆症です。
今回はこの、2025年版で初めて扱われることになった骨粗鬆症を解説していきたいと思います。

●骨粗鬆症とは？

骨粗鬆症は、これまでの4つの生活習慣病とは異なり、介護予防につなげるための「生活機能の維持・向上に関わる疾患」として扱われています。
「骨量の低下と骨質の劣化により骨強度が低下し、骨折のリスクが増大する骨格疾患」と定義されています。

骨粗鬆症は、原発性骨粗鬆症と続発性骨粗鬆症に分類され、このうち続発性骨粗鬆症というのは、別の疾患の影響で起こる骨粗鬆症です。
続発性骨粗鬆症の場合、それを引き起こした疾患によって、気を付けるべき食事のポイントが異なってくるため、食事摂取基準で扱うのは原発性骨粗鬆症のみとなっています。

原発性骨粗鬆症と診断されるときの基準には、骨折の有無や、骨密度が使われています（表1）。

●なぜ骨粗鬆症予防なのか？

実際のところ、骨密度が低下しているだけでは、健康上重大な支障は特にありません。
けれども、特に高齢者が一度骨折すると、身心に重大な障害を与え、寝たきりなどの状態につながりやすくなります。
さらに死亡のリスクも上昇します。

そのため、骨粗鬆症を予防するのは、最終的には骨折を予防して、その後の介護予防や死亡率の低下につなげたい、という考えがあってのことなのです。

●予防のための考え方

骨は、小児期から成長する段階で大きく、強くなり、若年期までは骨密度が上昇してきます。
そして、中年期以降、加齢とともに骨密度は低下します。
特に女性では、閉経後、骨量の低下が加速します。

骨粗鬆症の発症予防としては、若年期までの骨密度上昇の期間に骨量を最大化すること、そして、中年期以降の骨量低下の期間にはその低下を最小化することが重要です。

●栄養素に加えて低体重がリスク

栄養素摂取量と骨粗鬆症の関連は図1のように示されています。

カルシウムやビタミンDといった栄養素に加えて、エネルギー産生栄養素が示されています。
そして、低体重であることが、骨密度の低下、骨粗鬆症、骨折、の流れを加速させる要因となっています。

順に確認していきましょう。

●骨量の維持の役割を担うカルシウム

カルシウムは骨を作る栄養素のひとつで、十分な骨密度を維持するためには必要です。
カルシウムの推定平均必要量、推奨量は、骨の健康を維持するのに必要な量、として策定されています。
まずは、推奨量以上の摂取となるように、日々の食事で摂取しておきたいものです。

それでは、推奨量以上の量を摂ればとるほど骨量の維持、骨密度低下予防につながるか、というと、そういった結果はあまり得られていません。

また、サプリメントで1000 mg/日以上のカルシウムを摂取した場合は、心筋梗塞のリスクが上昇するといった報告もあります。
耐容上限量以上（2500 mg/日）のカルシウム摂取量は危険で避けるべきですし、耐容上限量未満であっても、1000 mg/日以上のカルシウムを大量に摂取することには慎重になるほうがよさそうです。

現時点では、食事からのカルシウム摂取量を多くすればよい、というのではなく、推奨量に比べて不足しすぎないようにすることが骨量維持のためには重要、という考え方でいるのがよいと思われます。

●カルシウム吸収を助けている？ビタミンD

ビタミンDは、カルシウムの吸収や骨の石灰化に関わっている栄養素です。
血中のビタミンD濃度が低下すると、カルシウムの低下や骨量の低下が見られることが分かっています。

ところが、この骨の健康へのリスクが見られる血中ビタミンD濃度は、研究によりばらつきが大きくなっています。

また、ビタミンDは紫外線照射によって体内で合成される栄養素であり、食事からのビタミンDを増やすことが骨の健康に影響を与えるのか、ということは、研究があまりなく、まだよくわかっていません。

このようなことから、ビタミンDはカルシウムに影響を与えると理論的には考えられますが、はっきりとしたことは言いにくいため、図1でもビタミンDからカルシウムに与える影響の矢印は、不確定を意味する、破線で示されています。

現時点では、食事としてビタミンDをどの程度摂取すればよいか、明確には言いにくく、骨粗鬆症予防の観点では、推奨量以上の摂取を心掛け、適切に日光を浴びることが重要のようです。

●避けたい低体重

各種栄養素と骨粗鬆症の関連がまだはっきりしないのに対し、低体重は、比較的エビデンスがしっかりしている、骨粗鬆症や骨折のリスク要因です。
BMIが18.5 kg/m²未満の場合、それ以上の群に比べて骨粗鬆症の発症頻度が高くなっているとの研究結果はいくつもあります。

高齢者の低体重は、低栄養やフレイルの観点からも避けたいことですが、骨粗鬆症や骨折予防のためにも避けるべきなのですね。

とはいえ、過体重や肥満の状態は、別の生活習慣病のリスクが上がりますから、望ましくはありません。
食事摂取基準の目標とするBMIを参照して体重を管理していきたいものです。

8回にわたり、食事摂取基準2025年版の変更点やポイントを解説してきました。
FOOCOMコラムでの食事摂取基準2025年版のポイント解説は「最新版の食事の摂り方ガイドラインが公開！：食事摂取基準2025のポイント」より順にご確認ください。
ぜひこれらのコラムを参考に、栄養関連の実務を進めていただければと思います。

参考文献：

1. 厚生労働省. 日本人の食事摂取基準2025年版. 2024.

※食情報や栄養疫学に関してヘルスM&Sのページで発信しています。信頼できる食情報を見分ける方法を説明したメールマガジンを発行しています。また、食事摂取基準の本文全文を読んで詳しく学びたい方向けに、オンライン講座も開講しています。ぜひご覧ください。