今月の質問箱
いろいろな場面で食品安全や食品表示の質問、疑問に遭遇します。自分なりに、気になる質問のコタエを探したい
いろいろな場面で食品安全や食品表示の質問、疑問に遭遇します。自分なりに、気になる質問のコタエを探したい
消費生活アドバイザー。フーコム・アドバイザリーボードの一員。
週刊誌の記事の影響か、カラメル色素の安全性が話題になることがあるようです。
カラメルというと、水と砂糖を加熱してできるカラメルソースを思い浮かべますが、「カラメル色素」は添加物の一つ。
実は、カラメル色素の安全性は、これまでも国内外で関心が高く、米国FDA(食品医薬品局)やドイツBfR(リスク評価研究所)などでもQ&Aを作って情報提供してきました。そんな情報をもとに、ここで基本的なことを整理しておきましょう。
●カラメル色素には4つある
カラメル色素は着色料として用いられる添加物で、既存添加物名簿に収載されています(番号65~68)。既存添加物とは、平成7年の食品衛生法改正時に、天然物由来の添加物で使用実績があるとして使用が認められた添加物です。
カラメル色素は、製造法によって4つの種類があります。
・カラメルⅠ 糖類を加熱
・カラメルⅡ 糖類に亜硫酸を加えて加熱
・カラメルⅢ 糖類にアンモニウム化合物を加えて加熱
・カラメルⅣ 糖類に亜硫酸とアンモニウム化合物を加えて加熱
このうち、問題だといわれるのは、カラメルⅢとカラメルⅣ。つまりアンモニウム化合物を加える製造法のものです。
●副産物4-MEIが生成される
カラメルⅢとカラメルⅣは、アンモニウム化合物を加えて製造する過程で、4-MEI(4-メチルイミダゾール)という副産物が、微量ですが、生成されます。
4-MEIは、2007年に米国の国家毒性プログラム(NTP)の報告で、マウスで発がん性が示されています。
NTPの報告によると
・ラットでの2年間の試験では、発がん性の結論が出ず
・マウスでの2年間の試験では、肺腫瘍の発生率が増加
・この動物試験での4-MEIの投与量は、通常、人が摂取する推定量をはるかに超える量だった
*FDAのQ&Aはこちら
●4-MEIは普通の調理でも生成される
上記のFDAのQ&Aにも書かれていることですが、4-MEIは添加物にのみ副産物として生成されるものではありません。通常の調理のプロセスの中でも生成されます。
たとえば、コーヒー豆を焙煎したり肉を焼いたりするときに、4-MEIが生成される可能性があります。したがって、食事からとる量をゼロにすることは、現実的には無理です
●EFSAの評価は
EFSA(欧州食品安全機関)では、カラメル色素についてADI(一日摂取許容量)を、4-MEIについてもNOAEL(無毒性量)を次のように設定しました。
<カラメル色素のADI>
・4つのカラメル色素 300mg/㎏体重/日(グループとしてのADI)
・カラメルⅢ 100mg/㎏体重/日(単独のADI)
カラメルⅢは、THI(2-アセチル-4-テトラヒドロキシブチルイミダゾール)という物質が含まれるために、ADIが厳しくなっています。
<4-MEIのNOAEL>
4-MEIについては、EFSAのパネルは、NOAEL(無毒性量)を80mg/㎏体重/日としました。
前述の米国の4-MEIに関する報告では、マウスでがん発生率の上昇がみられましたが、EFSAのパネルは
・遺伝毒性はない
・実験に使ったマウスは肺胞/気管支にがんを自然発生しやすいマウスだった
といったことから、発がん作用に閾値があると考え、NOAEL、つまり動物試験において毒性を示さない量を設定したのです。
閾値があるものであれば、基準値を定めて、「基準値内では安全」というように、量でリスクをコントロールできます。
●4-MEIの健康影響は
EUでは、カラメルⅢとカラメルⅣに含まれる4-MEIの基準値を次のように定めました。
・カラメルⅢ 200mg/㎏
・カラメルⅣ 250mg/㎏
EFSAでは<基準値が守られていれば、これらのカラメル色素で着色された飲料や食品の摂取による健康影響はない>としています。ドイツBfRも、同意見です。
米国FDAも、前述のQ&Aのとおり、<差し迫った危険性や短期的な危険性あると信じる理由はない>、<4-MEIへの心配から食事を変えることは勧めない>としています。
*ドイツBfRのQ&Aはこちら
●日本では
日本では、食品添加物公定書で、成分規格等を定めています。EUとは単位が異なり、値も大きめですが、これらが守られる必要があります。
カラメルⅢ
・4-MEI 0.30mg/g以下(固形物換算)
・THI 40µg/g以下(固形物換算)
カラメルⅣ
・4-MEI 1.0mg/g以下(固形物換算)
●コーラを飲むと…量で考える
カラメル色素は、清涼飲料水、アルコール飲料など、多様な飲料、食品に使用されています。
米国の消費者団体が2012年に世界9か国のコーラ類の4-MEI含有量(355mlあたり)を調べたところ、ブラジルがもっとも多くて267μg、日本で販売されていたコーラは72μgだったという話があります。
農薬や添加物のような化学物質の場合、通常、動物試験で得られたNOAEL(無毒性量)を安全係数100で割り、人にとってのADI(一日摂取許容量)を計算します。一生とり続けても、健康に悪影響を及ぼさない、という量です。
4-MEIについては、EFSAが設定したNOAEL(無毒性量)80mg/㎏体重/日を使って、仮に安全係数(不確実係数)を100として、同様に計算すると、人にとっての許容量(耐容量)は、80÷100で、0.8mg/㎏体重/日 となります。体重60㎏の人の場合、0.8×60で、一人あたり48mg/日 となります。
48mgの4-MEIは、日本で販売されていたコーラ(355mlあたり72μg含有)何缶分に相当するでしょうか。単位をμgに直して、48000÷72で、667缶。量にして、コーラ237リットルです。
これは、安全係数を100と仮定した試算ではありますが、毎日とり続けても安全な許容量を超えるには、1日に237リットル飲む(その量を毎日飲み続ける)ことが必要という意味です。私自身は、カラメル色素について、まったく心配していません。
もちろん、添加物中の副産物の量を低減する努力が、メーカーには必要です。
その一方で、添加物を一つ一つ「これは〇」、「これは×」と決めつけるのではなく、ときには量で考えてみることも、大切なのではないでしょうか。安全な量、というものがあるのですから。
消費生活アドバイザー。フーコム・アドバイザリーボードの一員。
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