GMOワールド
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
6月23日、「現代の食品バイオテクノロジー、ヒトの健康と発達」と題された報告書が、国連WHO(世界保健機関)から公表された。6月24日、EUの環境大臣理事会は、承認済みGMOを禁止している加盟国のセーフガード措置を解除させる欧州委員会の提案を否決した。先週の二大報道量イベントである。
WHOの報告書は、食品生産のバイオ工学評価のための国際的な「知識ベース」を確立しようとするもくろみであり、WHOと10人の政府規定者とエキスパートによって3年をかけて編纂された。内容的にはさすがにバランスの取れたものだが、それだけに各報道機関の背景や立場によって力点の置き方が割れる。
米国(推進的立場)寄りメディアが、こぞって「市場化されたGM食品は安全、ベネフィットを認める」などと大々的にリードを掲げる中、どちらかと言えばEU(慎重な立場)寄りのAFPをカバーして小見出しを付した記事を見てみよう。
「リスク評価を経て、国際市場で現在利用可能なGM食品は、在来の対照物よりヒトの健康に新しい危険を引き起こすことはありそうもない。健康上の問題は、今まで見いだされていない。Codex委員会が管理するGM食品のリスク評価のための国際ガイドラインが、現在のGM製品の安全性評価に対し『適切』だった。
必ずしも安全ではない未来のGM食品–『しかし、それは将来のGM食品が同じく自動的に安全であることではない』とWHOの食物安全主席担当者Juergen Schlundtは、強調する。『殆どの国で全体的な食品コントロールシステムが不備であり、特に発展途上国は主要な問題を持つ。問題発生時のトレースバックシステムも現在は不備だが、GM食品の長期にわたる影響を扱うことを可能とするために重要である。将来はさらに重要となる。』
ケースバイケースの基礎により算定されるべきだ–GM食品のリスク評価は、『ケースバイケース』の基礎に基づいて算定されるべきだ。公衆の理解、GM食品のコストとベネフィットについての社会的・倫理的懸念と知的財産権の問題は、いっそう真剣に受けとめられなくてはならない。
国際的なハーモナイゼーションを求めろ–GM食品の認められた生産や栄養上の利点を失う懐疑的な国に起きる『遺伝子の分列』を防ぐため、国際的なハーモナイゼーションが求められる。また、食物アレルギー問題に関しては、現在の知識に顕著にギャップがあることも研究は認めている。
必要とされる免疫システムに対する影響のより良い理解–在来の食品とGM食品が特定の健康安全問題を起こすか、もしそうならどのようにかを解読するために、免疫作用を持つ食品の影響と相互作用をより良く理解することが必要とされる。」
さて、6月24日ルクセンブルグで開催されたEUの環境大臣理事会である。この会合では、5加盟国による8件(オーストリア-トウモロコシのT25、MON810およびBt176、ドイツ-Bt176、ルクセンブルグ-Bt176、フランス-ナタネのMS1xRF1およびTopas 19/2、ギリシャ-Topas 19/2)のEU承認済みGMO禁止措置を20日以内に解除させるという欧州委員会からの提案が審議されたため、注目を集めた。
結果的に欧州委員会提案は、大差をもってあっさり否決されてしまった。10月初めに裁定が下る米国などからのGMモラトリアムWTO訴訟の回避に必死の欧州委員会にとって、これは痛手である。
なお、6月24日にEU官報に掲載されたMonsanto社の除草剤耐性GMナタネGT73の認可(Syngenta社の除草剤耐性GMスイートコーンBt11、Monsanto社の除草剤耐性トウモロコシNK603に続くモラトリアム解禁後3番目の認可)は、手違いのため無効とされ、数週間遅れて公表される見込みと上記のReutersは伝えている。
欧州委員会のプレスリリースによれば、環境大臣理事会の否決に対して、欧州委員会側は3つのオプションを持つ。即ち、(1)環境大臣理事会に既存の提案を再提出する差し戻し措置 (2)提案を改正してから、環境大臣理事会に提出(3)欧州憲法に基づいて立法の提案を提出。
参考として、なかなか親切なReutersはGM食品についてEUで大きな動きがあると時系列に整理したログと関連法規の解説を、都度アップしてくれている。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)