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米国は官・民一体で電車道だが〜上院聴聞会とBio2005

宗谷 敏

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 6月13日、GreenpeaceによるGMイネの違法販売が中国南部で拡大しているとの再告発、同じくGreenpeaceの要請を受けたケルンのドイツ法律裁判所がMonsanto社に対しMon863 Rat Studyの資料公開を命じた15日の報道、16日の日本はBt10の飼料への微量混入を認めることを検討などが、先週目を引いた。しかし、今回はBio2005年次大会を控えた米国を覗いてみよう。

 6月14日、米国上院の農業・食品及び林業委員会により「未来の農業とバイオ工学食品開発のレビュー」に関する聴聞会が開催された。USDA(農務省)、EPA(環境省)およびFDA(食品・医薬品局)の3規制当局と、BIO(全米バイオ産業協会)、ASA(アメリカ大豆協会)およびWFPF(世界食糧賞基金)の3民間組織からの代表者が各々意見を陳述した。

 聴聞会冒頭、議員側からの質問は本質を突いたものだった。「rDNA(遺伝子組換え技術)は、本来は他の目的のために作られた法律のネットワークで統制されている。これはバイオ工学農作物が本質的に在来農産物と同等であるという仮定に基づいている。その仮定は正しいのか?–バイオ作物は、既存の法令と規制当局の下で適切に管理されているのか?」

 これらに対する規制3当局からの陳述は、当然ながら遺伝的組換え作物を規制している現在の連邦規則は、国民の公衆衛生と環境を守ることができるというものである。民間3機関も、バイオ産業、農家、食糧援助関係者という立場から、バイオ作物に対し肯定的陳述を行った。

 茶番劇だ!と、Greenpeaceなどの反対派は怒りそうだが、ともかくも議会としてのレビューがなされたという実績は残る。そして、結果的にこのイベントが、直後に開催されるBio2005に対する強力な政治的サポートになっている点にも注目したい。

 BIOが主催するBio2005 年次大会は世界最大のバイオ産業国際見本市であり、6月19日から22日までペンシルバニア州フィラデルフィアで開催される。米国以外の33カ国から6,000人を含めた合計18,000人もの参加が見込まれている。因みに日本もJETROなどが中心となり「日本パビリオン」を設置し、多くの関係者が出展するようだ。

 このBio2005については、米国内で非常に広範囲にわたりカバーされた6月17日付AP通信の記事がある。

 「ヒトの幹細胞研究でリードする韓国、GMイネの商業化が見込まれる中国、これらは米国が支配し、成長しているバイオ工学産業の小さい2つの部門に過ぎない。『世界中の国がバイオ工学活動を引き付け、発展させるために熾烈な競争を繰り広げている』

 製薬企業は、研究開発部門強化のために、バブルがはじけて今は株価の安いバイオ工学企業の買収に熱心だ。幹細胞研究は、もう1つのバイオ工学のホットエリアだ。ブッシュ大統領が倫理上の理由からにこの分野を制限したが、韓国政府は研究を支持する。スウェーデンとシンガポールも同じく幹細胞研究に熱心だ。

 オーストラリアから英国まで27カ国が、商機に期待する。一方、米国の州と市が、雇用や経済推進のためバイオ工学企業を誘致しようと競い合っている。昨年はバイオ工学による20の新薬が認可された。230の製薬や関連製品が市場に出ようとしており、03年には365の新薬が開発の最終段階にあったから、バイオ工学が全体としては09年までに利益があるであろう。

 いつもの通り、このイベントへの抗議者も押し寄せてくるだろう。彼らの大部分は、GM作物の開発に反対する、しかし、高い薬価格と特許問題について怒っている人々もいる。」

 昨年のBio2004では、脂肪酸組成を変えた作物などが話題をさらったが、どうやらBio2005ではさらにヘルスケアや製薬が中心主題になるようだ。ますます多様化するバイオ工学のフィールドでは、除草剤耐性・害虫抵抗性などのアグリ・バイオは、もはや発酵食品並みにオールド・バイオの地位に収まりかねない勢いである。

 主にアグリ・バイオを対象とした今までの規制に米国は揺るがぬ自信を持ち、それは理由のないものではないだろう。しかし、薬品などに見合った規制はまた別だろうし、両者の接点としての製薬植物も存在する。そこにクロポリネーションやコンタミネーションが起これば、今までの権威は失墜しかねない。

 こうしてバイオ工学産業は第2期の発展を迎えるのかもしれないが、作用・反作用の法則で、殆ど無風地帯だった米国国内にも反対派が勃興する可能性もある。一部から指摘される「知らないでGM食品を受け入れている米国民」という図式も好ましいものではない。Bioの祭典は一般国民の理解を深めるチャンスでもあり、内輪企業の自己満足だけに終わって欲しくはない。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)