新・斎藤くんの残留農薬分析
残留農薬分析はこの30年間で急速な進歩をとげたが、まだまだその成果を活かしきれていない。このコラムでは残留農薬分析を中心にその意味するものを伝えたい。
残留農薬分析はこの30年間で急速な進歩をとげたが、まだまだその成果を活かしきれていない。このコラムでは残留農薬分析を中心にその意味するものを伝えたい。
地方衛生研究所や生協などで40年近く残留農薬等食品分析に従事。広く食品の残留物質などに関心をもって生活している。
先日東京の下町をプラプラと歩いていたら果物を販売する自動販売機があり、中にリンゴやナシが並べてあり、皆、無農薬という張り紙で1個400円であった。通常こだわりの品を食べている方はそれ程高いとは思われないかもしれないが、私には梨、無農薬! 400円!という感じであった。梨については、その頃は150円か200円で購入できる状況だと思ったが、無農薬で2倍、無農薬はそれ程の価値があるものかと考えさせられた。暇だったらその近くに座ってどんな方が400円入れるのかを見たかったが用事があり断念した。
インターネットでの通販も、梨もリンゴも結構こだわり商品があり、そこそこの値段を付けている。しかしそこにはいろいろな顔写真を含め情報が記載してある場合が多い。その努力を実際の商品でおいしさ、鮮度として確認できた時、払った価格に見合った満足が得られるのだろう。
では情報が乏しいが無農薬400円の梨について考えてみよう。
多くの人は、梨は剥いて食べることが多いだろう。剥くということは表面部分がなくなることである。梨やリンゴは栽培期間が長く、いろいろな気象変化の中、病気や虫がつかない時もたまにはあるだろうが、表面がきれいで形の良い商品が市場で求められる現状では栽培中に必要最小限の農薬を使用することはあるだろう。
農薬というとめったやたら散布するというイメージを持って見える方もあるだろうが、農薬はそんなに安いものではなく農家は無駄遣いしない。当然のことだが生産者が収穫前何日という散布期限を守っていれば残留基準を超えることはほとんどないし、残留濃度も基準の10分の1以下の場合が多いのが実情である。そういった面では長期間栽培する果物は隣の作物に散布した農薬が飛散して検出されるドリフトのリスクはあるが、その場合は0.05ppm以下の残留の場合が多い。
どれくらい皮をむくと農薬はとれるのかが知りたい場合、データとしては平成14年に発生した西洋梨などの無登録農薬問題の際に検討した実験なので少し古くなるが、愛知県衛研のHPの「果物を安心して食べるために―残留農薬とナシの皮むき―」 を参考にしてほしい。
この当時使用されていた農薬は水に溶けにくい農薬が多かったので、表面に残留しており、皮むきが有効であったが、最近使用頻度が高いネオニコチノイドのように水溶性が高い農薬では散布後時間が経過してくると内部に浸透していくので皮むきだけでは除去できる農薬量は減少するが、もともとの残留濃度が低濃度であることは理解していただきたい。
話をもとに戻すと、無農薬400円の梨は相当の努力をされた結果であり敬意を表するが、自動販売機だけでは情報が少ないことや、梨の皮をむけば通常に農薬使用している梨でも食べる時にはそれなりの残留になってしまうことも考えるとーーーである。
地方衛生研究所や生協などで40年近く残留農薬等食品分析に従事。広く食品の残留物質などに関心をもって生活している。
残留農薬分析はこの30年間で急速な進歩をとげたが、まだまだその成果を活かしきれていない。このコラムでは残留農薬分析を中心にその意味するものを伝えたい。