新・斎藤くんの残留農薬分析
残留農薬分析はこの30年間で急速な進歩をとげたが、まだまだその成果を活かしきれていない。このコラムでは残留農薬分析を中心にその意味するものを伝えたい。
残留農薬分析はこの30年間で急速な進歩をとげたが、まだまだその成果を活かしきれていない。このコラムでは残留農薬分析を中心にその意味するものを伝えたい。
地方衛生研究所や生協などで40年近く残留農薬等食品分析に従事。広く食品の残留物質などに関心をもって生活している。
「コロッケのコロモの2.6%、中身の0.4%がマラチオンだった!!」本来ならばこのような形で表現すべきものではないだろうか。㈱アクリフーズ群馬工場製造のコロッケから検出された、マラチオンの濃度である。1月7日のメディアの見出しには、コロッケのコロモ部分から260万倍、中身が40万倍のマラチオン検出となっているが、何の260万倍かもわからないし、その異常さも伝わってこない。
農薬の残留基準は、適用作物に使用する際の適正管理として基準が設定されている。その基準値を使って、それぞれの食べる量をかけて全てを合算にした値が、1日摂取許容量(ADI)を下回っていれば、安全性は保たれているので、その基準値で管理しましょうということになっている。ある作物で少し残留基準を超過したものが見つかった時、基準の何倍検出!とよく騒がれるが、1つくらい1回くらい食べても全体の安全性からはほとんどが問題ないので、これらを○○g毎日食べても健康には影響がありませんというただし書きがつくことが多い。では食品衛生法11条2項の基準違反で回収廃棄させるのかといえば、決まりを決めてトータルとして安全性を保とうとしているのに、イレギュラーなことを見逃していると全体としての規範が取れないので、ペナルティを課しているのである。
今回の冷凍食品のような場合、いろいろな原料が混ざって調理加工されてくるので、農薬残留は通常考えられないか、あっても極微量であろう。一律基準0.01ppmを適用しているが、本来はもし0.01ppmを超える農薬が検出されたら原材料でのチェックを行い、その原料段階での残留状況を把握して、適合であれば製品は不問に付す、原材料で基準違反ならば駄目という話になる。
農産物の場合の基準超過で、基準の3倍とか5倍とかいうのは、明らかに使用方法のミスがあったという証明であり意味がある。しかし、一律基準の場合はもともと使い方の目安があったわけでもなく、何も判断基準がないから便宜上0.01ppmを採用しているところが多い。しかし、不検出基準を持つ農薬を除けば、ADI(場合によってはARfD:急性参照用量)を持っている農薬が大半だから、一律基準を超過した事例が発生した場合はその農薬のADIやARfD(後者が望ましい)でその食品の安全性を評価するのが本来の姿だと思う。いつもの口癖になるが、食品衛生法第11条3項の「販売の用に供してはならない」がある以上、どうしようもない。
こういった便宜上の基準値の260万倍といっても、その緊張感は伝わってこない。むしろ、皮の部分に農薬成分として2.6%と聞くと、べったりついた感じが想定され、溶剤もありぷんぷん匂って食べられないなあという実感もわいてくる。こういった事件の場合は、1,000ppm(0.1%)を超えることも多いので、それ以上は%で表示した方が消費者には理解しやすいのではないだろうか。
毎日いろいろな回収報道もあるが、出来るならば検出された物質名とその検出された濃度(絶対量)は必ず併記してもらえないだろうか。それを併記したら、高濃度で発生する健康影響症状などを載せても、冷静に理解できるだろう。比較するものがないのに、物質名と発がん物質などと健康影響だけを報じられても困ってしまう。
地方衛生研究所や生協などで40年近く残留農薬等食品分析に従事。広く食品の残留物質などに関心をもって生活している。
残留農薬分析はこの30年間で急速な進歩をとげたが、まだまだその成果を活かしきれていない。このコラムでは残留農薬分析を中心にその意味するものを伝えたい。