GMOワールドⅡ
一般紙が殆ど取り上げない国際情勢を紹介しつつ、単純な善悪二元論では割り切れない遺伝子組 み換え作物・食品の世界を考察していきたい
一般紙が殆ど取り上げない国際情勢を紹介しつつ、単純な善悪二元論では割り切れない遺伝子組 み換え作物・食品の世界を考察していきたい
油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている
2013年1月2日~4日、英国では新春恒例のオックスフォード農業会議 (OFC: Oxford Farming Conference) が開催された。メディアの注目が集中したのは1月3日に登壇した環境活動家で作家のMark Lynas氏によるスピーチ。GM(遺伝子組換え)反対の活動家・論客として世に知られていたLynas氏が、それは誤りだったと公に謝罪し、一転してGMへの支持を熱く語ったからだ。
地球温暖化を懸念する立場から、国連気候変動枠組条約締約国会議にも顔を出し積極的に情報発信してきたLynas氏は、複数の気候関連著書を持つ。だから、英国の気候変動研究者と紹介されることも多い。
OFCにおけるLynas氏の転向を、様々な角度から伝える記事や、それへの賛否を述べ立てる論説にはことかかないが、なぜ、氏がそのような考え方を持つに至ったのかはかなり興味深いし、それを知るためにはともかくスピーチ原稿を読んでみるべきだろう。しかし、1時間の演説原稿はものすごく長いので、(上)、(下)2回に分けて筆者の抄訳というか超訳を掲載する。
先ず私は、GM作物のことを貶めた数年と、1990年代半ばからのGM反対運動立ち上げに手を貸したことをお詫びすることから始めます。環境に役立つ重要な技術的オプションを悪者に仕立てる手助けをしたことを遺憾に思います。私は今それを完全に後悔します。
私の変化を不思議に思われるでしょうが、答は単純です。私は科学を理解し、その過程でより良い環境保護主義者になることを望んだからです。
Monsanto社のGMダイズを知った時、私たちに知らされずに、新しい、実験的な何かを私たちの食品に入れている不快な米国大企業があり、種を超えて遺伝子を混ぜることは不自然で、遺伝子の汚染が拡散すると私は考えました。それらは悪夢でした。
これらの怖れは、ヨーロッパでGMが原則的に禁止された数年以内に、山火事のように広まりました。私たちの心配は、GreenpeaceとFriends of the EarthのようなNGOによって、アフリカ、インドとアジア諸国に輸出されました。これは、私が今までに係わったうちで最も成功したキャンペーンでした。
これは、同じく明白に反科学の動きでした。私たちは、マッド・サイエンティスト(訳者注:この言葉は直接使われていません)のイメージや、フランケンシュタイン食品のタグを利用しました。その時、私たちが理解しなかったことは、本当のフランケンシュタインの怪物がGM技術ではなく、それに対する私たちの反応であったということでした。
私にとって、この反科学の環境保護は、気候変動に関する私の科学支持の環境保護とは一致しなくなりました。2004年に地球温暖化現象に関する最初の本を私は出版しましたが、エピソードのコレクションよりむしろ科学的信頼性に重きを置こうと決心しました。
そのことは、私が科学的論文を読む方法を学び、基本的な統計を理解し、海洋学から古気候まで、私の政治学と近代史の学位が全く役に立たない、非常に異なった分野を理解しなければならなかったことを意味しました。
気候学者に耳を貸さず、気候変動の科学的現実を否定する反科学な人々と、しばしば私自身が議論していることに気付き、ピアレビューの価値や、科学的なコンセンサスの重要性、唯一の事実が最も卓越した学術ジャーナルで発表されるものであることについて、彼らに講義しました。
私の気候に関する2番目の本、「Six Degrees」はすぐれて科学的だったので、王立協会優秀科学図書賞を獲得し、親しい気候科学者から、彼らよりこの問題について私がもっと知っていると冗談さえ言われました。それにもかかわらず、信じがたいことに2008年、GMの科学を攻撃する冗長話を、「Guardian」紙に私は書いていました-私は、このトピックについて学術研究をせず、かなり限定された個人的な理解しか持っておらず、この段階でさえバイオ工学あるいは植物科学についてのピアレビューされた論文を読んでもいませんでした。
この矛盾は、明らかに受け入れがたいものでしたし、私を打ちのめしたのは「Guardian」紙の私にとって最後となった反GM記事に寄せられたいくつかのコメントでした。特にその一つ:なるほど、あなたは大企業が市場化しているという理由からGMに反対している訳ですね。では、あなたは大きな自動車会社が販売しているという理由で、車輪にも反対するのでしょうか?
そこで、私はいくつかの論文を読みました。そして私は、GMについて私が大切にしてきた信念が一つずつ、緑の都市伝説以上の何ものでもないことを見いだしました。
GM作物は、農薬の使用を増やすだろうと私は想定していましたが、 害虫抵抗性ワタとトウモロコシは、より少ない殺虫剤しか必要としませんでした。
GMが大企業群だけに役立つと私は思い込んでいましたが、より少ないインプット(コスト)によって農民が何十億ドルもの利益を生みだしていたことを知りました。
ターミネーターテクノロジーが、農民から自家採種権をすでに奪っていたと私は思い込んでいました。ハイブリッド種子がずっと以前からそれをしており、ターミネーターは実用化されなかったことを知りました。
私は、誰もGMを欲しなかったと思い込んでいました。実際に起きたのは、農民がGMを使うことを熱望したため、インドのBtワタやブラジルのラウンドアップレディダイズでは海賊版種子が横行したということでした。
私は、GMは危険だと思い込んでいました。GMは、例えば突然変異誘発を使う在来育種よりも安全で、より正確であることが分かりました;GMは、たった1組の遺伝子を移すだけなのに対し、在来育種は試行錯誤方式でゲノム全体をいい加減に扱います。
では、異なる種の間での遺伝子混ぜ合わせはどうでしょうか?魚とトマト? 分かったことには、ウイルスが常にそれをします。同じことが、植物と昆虫、私たちでさえも起きます-それは遺伝子流動と呼ばれます。
しかし、これはまだほんの始まりに過ぎませんでした。そこで、私の3番目の本「The God Species」では、すべての環境保護主義者的な正統信仰をまず捨て去り、惑星規模のより大きい全体像を見ようとしました。
それは、私たちが今日直面する挑戦です:急速に変化している気候を背景としながら、私たちは、現在利用しているのとほぼ同じ耕地面積で、限定された肥料、水と農薬を用い、2050年までに95億人の願わくはもっと貧しくない人々を食べさせていかなければならないでしょう。
少し詳しく見てみましょう。去年のこの会議では、人口増加のトピックが講義されました。この分野も、神話によって悩まされます。一般に、発展途上世界の高い出生率が大問題であると思われています-言い換えれば貧しい人々が、あまりに多くの子供を持つから、家族計画か一人っ子政策のような過激な何かさえ必要だと。
現実では世界の平均出生率は、およそ2.5人まで下がっています-そして、もし自然な世代交代が2.2人であると考えるなら、この数字は大きくそれを超えていません。では、大規模な人口増加の原因は何でしょう?それは乳児死亡率の低下です-多くの子供たちが、今日では予防可能な幼児期の病気で死なず、彼ら自身が子供を持てるまで成長しています。
乳児死亡率の速い低下は、ここ10年の最も良いニュースの一つです。この素晴らしいサクセスストーリーの中心地は、サハラ以南のアフリカです。そこには、産まれつつある子供たちの大群がいるのではありません-事実、Hans Roslingによれば、既に「子供の数の頂点」に私たちはいます。つまり約20億人の子供たちが現在生存しており、出生率の低下から、決してもっと多くはならないでしょう。
けれど、これら20億人の子供たちの多くが、彼ら自身の子供たちを持つ成人期まで生き残るでしょう。彼らは2050年の若年成人の親です。それが2050年95億の人口予測の源です。
さて、これらすべての人々はどれぐらいの食物を必要とするでしょうか? 去年、全米科学アカデミー紀要に発表された最近の予測によれば、今世紀半ばまでで100%をはるかに上回り世界的需要が増加します。これは、特に発展途上国で顕著ですが、ほとんど完全に国内総生産が下がっているためです。
言い換えれば、人口に追いつくばかりではなく、広域にわたる栄養失調と約8億人が空腹のまま毎夜床に就くことを意味する貧困を徐々に撲滅していくためにも、もっと多くの食物を私たちは生産する必要があります。豊かな国に居ながら、貧しい国の国内総生産増大が良くないことだと言う誰とでも、私は闘うでしょう。
しかし、この成長の結果として取り組むべき非常に重大な環境上の挑戦があります。土地(農地)変換は温室効果ガスの大きい源で、おそらく生物多様性損失の最大の原因です。 これは単収増大がなぜ不可欠かというもう一つの理由です-雨林と残っている自然生息環境を耕作から救うために、より限定された土地に栽培しなければなりません。
同じく、限定された水に対応しなければなりません-帯水層だけではなく、気候変動のために大陸の農業の中枢地域で増大すると予想される干ばつに対しても。河川からの採水を増やせば、脆弱な環境における生物多様性の喪失を加速します。
同じく、窒素使用をより良く管理する必要があります:人工肥料は人類を養うために不可欠ですが、非効率的使用は真水の生態系への富栄養化と同様、メキシコ湾や世界中の沿岸海域の貧酸素化を意味します。
手をこまねいて、技術革新が問題を解決するだろうと希望するだけでは十分ではありません。私たちは、もっと積極的に行動し、戦略的でなければなりません。最も必要とする人たちのために、技術革新が急速に、正しい方向に動くよう保証しなければなりません。
一面では、以前から私たちはここにいました。1968年に人口爆発を唱えたPaul Ehrlichが書きました:「人類すべてを食べさせる戦いは終わっています。今着手されているどんなプログラムにもかかわらず、1970年代には何億という人々が餓死するでしょう」 。アドバイスは明快でした-インドのように正常な判断ができない国では、人々がむしろ早く餓死する方がましですから、人口増加を減らすために彼らへの食料援助金は削減されるべきです。
Ehrlichが間違っていたことは、前もって定められてはいませんでした。もし、誰もが彼のアドバイスに従っていたら、何億という人々が不必要に死んだでしょう。しかし、結果的に栄養失調が劇的に減らされました。そしてインドは、Norman Borlaugと彼の緑の革命のおかげで食料の自給自足国になりました。
BorlaugがEhrlichと同じぐらい人口増加を心配していたのを思い出すことは重要です。 彼は、それについて何かをする価値があり、出来ることをしようと信じたから、彼は実務家であり理想主義者でした。
そこでNorman Borlaugは何をしたでしょう?彼は科学技術に方向転換しました。人は道具を作る種です-技術とは私たちを猿から区別するものです。そして、主要食用穀物のゲノムに重点が置かれました-例えば、背の低い丈夫なコムギは、収益を改善し、倒れることによるロスが最少になるでしょう。
2009年に亡くなるまでBorlaugは、政治的、イデオロギー的な理由から農業の近代的革新を拒否する人たち反対して何年も過ごしました。引用:「もし拒絶派が農業バイオ工学を止めるのに成功するなら、飢饉と彼らが40年近くも予測してきた世界的な生物多様性の危機を実際に引き起こすかもしれません」。
そして、豊かな国から広められた環境キャンペーンのせいで、私たちは今この状況に危険なほど近いです。バイオ工学は止められませんでしたが、超巨大企業以外のすべてにとって法外に高価にされました。
異なる国々の規制システムに一つの作物を通すには、今や何千万もの費用がかかります。 実際、最近のCropLife の計算では、新しいトレイトの作物のフル商業化までには1億3900万ドルの費用がかかるそうです。これでは、オープンソースや公共部門のバイオ工学にはチャンスがありません。
このような状況を招いたことに誰よりも貢献した反バイオ工学運動家たちが、GM作物は大企業によってしか市場に出されないと文句を言うのは、気が滅入るような皮肉です。
EUでのシステムは停止状態で、多くのGM作物が10年かそれ以上承認を待たされてきたし、フランスやオーストリアのような反バイオ工学国のひねくれた国内政治によって永久に棚上げされます。世界全体の規制上の遅延は、2002年の3.7年から、今や5年半以上にまで増加しました。お役所主義的な負担も悪化しています。
それが米国からの輸入であったため、フランスは長い間ジャガイモを受け入れることを拒否しました。ある解説者が言うように、ヨーロッパは食物博物館になる寸前です。十分に食事をしている私たち消費者は、過去の伝統的農業へのロマンチックな郷愁によって目をくらませられます。私たちは十分に食べているから、美学的な錯覚を満たす余裕があります。
しかし、Jonathan Foleyらによって先月「Nature Communications」誌に発表された研究によれば、同時に世界中で多くの主要食用作物の単収の伸びが低迷しました。もし単収の伸びを立ち直らせないなら、私たちは人口増加と結果的な需要増に遅れずについていくのに困難を生じるでしょう。そして価格が高騰し、自然から農地への土地変換がもっと進むでしょう。
(1月21日掲載の下に続きます)
油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている
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