科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

森田 満樹

九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。

食品表示・考

2023年4月より「遺伝子組換えでない」表示を厳格化 改正案のポイント

森田 満樹

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 豆腐や納豆などで見かける「遺伝子組換えでない」という表示。多くの方が「遺伝子組換えが全く入っていない」と思うかもしれませんが、現在は5%まで「意図せざる混入」が認められています。消費者庁はこの点を見直し、2023年4月より「遺伝子組換えでない」表示の条件を厳しくする方針をまとめました。その手続きとして10月10日に改正食品表示基準案を公表し、11月8日までにパブリックコメントを募集しています。

 この改正案の内容について、消費者庁は10月中に全国7カ所で説明会等を開催しており、消費者委員会食品表示部会(10月10日開催)でも説明しています。この中から変更点のポイントと今後の課題について考えてます。

●「遺伝子組換えでない」と表示できるのは「不検出」の場合のみ

 今回の改正は、2017年度の消費者庁「遺伝子組換え食品表示制度に関する検討会」の結論を受けたものです。検討会では義務表示の表示対象品目等は現行制度のままとし、任意表示の「遺伝子組換えでない」という表示について、現行制度の「5%以下」から「不検出」とすることを決めました(下図)。

パブコメ関連資料「新たな遺伝子組換え表示制度に係る内閣府令一部改正案の考え方」より

 今回の改正によって「遺伝子組換えでない」という表示の商品はかなり減ることになるでしょう。遺伝子組換え栽培国(米国やカナダなど)から輸入された大豆やトウモロコシは、これまで組換え原材料が混ざらないよう分別流通管理された場合に表示されてきましたが、これらは「不検出」を証明するのは難しいからです。

●「不検出」をどう判断するか、公定検査法が今後の課題

 それではどんな場合であれば「遺伝子組換えでない」と表示できるのでしょうか。具体的な運用方針についてはパブコメ添付の「補足資料」に示されています。たとえば、1)米国等の栽培国で非組換え原料をコンテナに詰めて輸送する、2)非栽培国の原料を組換えが混ざらないように輸入する、3)国産品を用いる等が考えられます。

 いずれも生産・流通工程で厳格に管理されていることや証明書の有無等が条件となります。そんな場合でも、もし行政が行う科学的検証の検査において使用された原材料に遺伝子組換え農産物を含むことが確認されれば、不適正な表示となります。

 となれば、行政機関でどんな分析方法、サンプリング方法で「不検出」と判断するのか、今回の改正では公定検査法がポイントとなります。しかし、現段階で消費者庁はその内容を明らかにしていません。

 消費者委員会食品表示部会(10月10日開催)や、東京開催の情報交換会(10月15日)で、「どこからが不検出か、検査方法を示さないのにパブコメをするのか」「行政機関で現在5%以下として検査しているのに、新たな検査方法にかかるコストはどうするのか」といった質問が出ました。消費者庁は「公定検査法は現在、国立医薬品食品衛生研究所に依頼して作ってもらっている。今回、食品表示では初めて定性検査法をつくることになるが、検査現場の実行可能性も踏まえる」と答えるにとどまっています。

●5%以下に分別管理をしている場合の表示事例は?

 2つめのポイントは、これまで意図せざる混入率5%以下で分別管理を行ってきた商品で「遺伝子組換えでない」に代わる表示をどうするかという点です。

 この点について、消費者庁は添付の補足資料案6pで、次の事例を示しました。
【一括表示事項欄外に表示する場合】
「原材料に使用しているトウモロコシは、遺伝子組換えの混入を防ぐため分別生産流通管理を行っています 」。
「大豆の分別管理により、できる限り遺伝子組換えの混入を減らしています 」等

【一括表示事項欄に表示する場合】
「とうもろこし(分別生産流通管理済み)」
「大豆(遺伝子組換えの混入を防ぐため分別) 」 等
遺伝子組換えの混入がない原材料であると消費者が誤解するような表示(例えば、「遺伝子遺伝子組換えでないものを分別」)は、不適正な表示となる

 以上の事例、どう思われますか?一括表示事項欄外の文章は長くてわかりにくいし、一括表示欄の「とうもろこし(分別生産流通管理済み)」は、遺伝子組換えのことかどうか知知識がなければわかりません。この資料を見て、「事例はこれしかないの?」と思いました。とはいえ、今のところ良い代案も思い浮かびません。

 検討会でも代案は出ず、4月の説明会では参加者から「たとえば『95%以上遺伝子組換えでない』『ほぼ遺伝子組換えでない』といった表示はどうか」「消費者にわかりやすく『意図せざる混入率が5%以下』の表示はどうか」等の意見も出ました。

 しかし、数字を併記する書き方について、消費者庁は慎重な立場を示しています。補足資料には、表示事例の後に、次の一文が記されています。

 「なお、遺伝子組換え農産物の具体的な混入率等を合わせて表示することは可能ですが、実際の商品に使用された原材料に含まれている遺伝子組換え農産物の割合が表示された混入率より高い場合には、商品と表示に矛盾があるとして、不適正な表示となることがありますので、注意が必要です。」

 今回の改正の趣旨が「遺伝子組換えでない」表示の厳格化ということから考えれば、「95%以上遺伝子組換えでない」という表示は誤認を生むでしょう。数字の正しさを担保するのは困難だし、数字合戦が加速するのも問題です。そもそも遺伝子組換え原料が混入していても食品の安全性に何ら影響はないとリスク評価がされているのに、表示が理解を阻んできたのです。

 そう考えると、最も誤認させないのは無表示かもしれませんが、選択のための何らかの情報がほしいという声も聞かれます。今後は容器包装の表示ではなく、ウェブサイトの情報提供もあると思いますが、いずれにしても代わりにどんな表現が考えられるのか、課題として残されています。

 なお、義務対象表示品目以外でしょうゆ等に「遺伝子組換えでない」と表示する場合についても、社会的検証に加え「科学的検証の手法で原材料の大豆やとうもろこしにおいて遺伝子組換え農産物を含まないことを確認する」と補足資料では示されてます。また、「肉牛は遺伝子組換えでない飼料で育てました」という表示も「不検出」のレベルは同じであるとしています。これらの品目でも、今後は正確な表示が求められます。

●施行は2023年4月から 移行措置期間はなし?

 今後のスケジュールについて、消費者庁は改正食品表示基準について来年以降の公布し、表示切替えのための準備期間を経て平成35年4月1日に施行すると説明しています。その日以降に製造・加工・輸入されるものについては、新たな遺伝子組換え表示制度に基づく表示としなければならないとする案が示されています。

 この施行日について、消費者庁は「原産地表示では公布日と施行日が同日でその後に移行措置期間を設けたが、遺伝子組換え食品表示の場合は公布日と施行日が違う。これは新旧表示が併存する混乱を避けるもので、公布後に十分な準備期間を設けて平成35年の4月1日より一斉に施行とする」と説明しています。

 この点について、事業者からは「ここから施行日とすると、ある日から旧表示は一切ダメとなってしまう。猶予期間を設けるべきではないか」といった意見も出ています。思い出せば、4月の消費者庁説明会の時には施行日まで十分な準備期間を設けてほしいという意見が出されており、様々な考え方があるようです。

 これからパブコメで様々な意見が出されるでしょう。それを踏まえて消費者委員会食品表示部会で、2018年12月から年明け後も複数回の審議が行われます。ここで、公定検査法による不検出をどう考えるのか、5%以下で分別生産管理されていることを示す新しい表示事例をどうするか等々、様々な課題が整理されることになります。パブコメの内容によっては、改正案が見直されることもあるかもしれません。どんな表示が望ましいのか、ここは積極的に意見を出していきましょう。(森田満樹)

執筆者

森田 満樹

九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。