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執筆者

森田 満樹

九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。

食品表示・考

「遺伝子組換えでない」表示がなくなる?第7回遺伝子組換え表示検討会の行方

森田 満樹

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「大豆(遺伝子組換えでない)」などと表示されている豆腐、納豆、しょうゆ

「大豆(遺伝子組換えでない)」などと表示されている豆腐、納豆、しょうゆ

 消費者庁主催の第7回「遺伝子組換え表示制度に関する検討会」が2017年12月18日に開催され、「遺伝子組換えでない」と表示する条件を厳しくした方がよいとする意見が大勢を占めました。一方で、「遺伝子組換えでない」表示がなくなると反対意見も出ています。検討会のポイントをまとめます。

●「意図せざる混入率」5%と、「遺伝子組換えでない表示」α%

 検討会第6回までの概要はFOOCOM「遺伝子組換え表示検討会 『遺伝子組換えでない』表示の見直しが論点に」で紹介したとおり、この日は残る論点4の検討となりました。

 論点4「『遺伝子組換えでない』表示をするための要件」は、消費者庁の当日資料で2つの考え方が示されています。1つめは「混入率を引き下げること」、もう1つは「遺伝子組換えではない表示が認められる混入率を引き下げること」です。同じ「混入率」ということばですが、意味が違います。わかりにくいので、図にしてみました。前者は図の右側の赤字の5%*の「意図せざる混入率」、後者はその下の赤字のα%**でこれ以下であれば「遺伝子組換えでない」と表示できる数値で、新しい概念です。
遺伝子組換えでない
意図せざる混入率5%」は、遺伝子組換えでない大豆やトウモロコシを輸入する際にきちんと分別管理をしていても、どうしても遺伝子組換え作物が混入してしまうため、その混入率を5%までと認める数値です。5%を超えると「遺伝子組換え不分別」の表示が対象品目に義務付けられます。
 「遺伝子組換えでない表示が認められるα%」は「意図せざる混入率」よりも低い数値で、諸外国では厳しく定めており(ドイツ・フランス0.1%、韓国0%)、日本も新たに厳しい数値を設けようという消費者庁の提案です。

 ここで新たにα%を設けると、5%以下の部分に新しい区分(スキマ)が出てきます(図の黄色い部分)。この「α%超~5%以下」の区分では「遺伝子組換えではない」と表示ができなくり不表示となります。そして、α%以下だけが「遺伝子組換えでない」と表示できます。第7回検討会では、この2つの混入率について話し合われましたが、途中でごちゃごちゃになってしまう委員もいて議論がかみあわない場面がみられました。

●意図せざる混入率5%の引き下げは可能か?

 第7回検討会は、まず国立医薬品食品衛生研究所の専門家から[分析法の問題点]について説明がありました。遺伝子組換え食品の検査方法については、現在のスキームとして最初にスクリーニング検査が行なわれ、陽性であれば粒検査法またはグループテスティング法で定量検査をします。

 分析技術は向上しており、各種スクリーニング検査の定性検査で一定の要件が揃えば,組換えの混入があるかどうかピコグラム(1兆分の1グラム)の精度で検出ができます。しかし、高感度ゆえに定量には向いていません。定量検査では2つの検査法がありますが、最近はスタック品種の増加などもあり正確な混入率を出すのは困難になっています。

 ここで前者の「意図せざる混入率5%」を3%、1%と下げていくと、定量のための必要なサンプル数が急激に増加して分析の負担もコストも相当に重くなります。また、検査中はクリーンベンチ内などでコンタミが起こらないように十分注意をしなければならず、混入率が下がるほど特殊な環境が必要となります。定性、定量ともそれぞれ課題があり、「科学的検証」と簡単に言うけれども実際は難しいのです。とはいえ、最終的に社会的検証で確認をするにしても、科学的検証と社会的検証は車の両輪です。

 また、事業者委員からは昨年の米国のIPハンドリングの現地調査の結果(NON-GMトウモロコシで最大4.1%、大豆で0.3%の混入)のも踏まえ、特にトウモロコシは種子段階からの混入、風媒花であること、スタック品種が多いことなどもあり、意図せざる混入率5%のさらなる引き下げは難しいと説明しました。学識者の委員も引き下げを困難としました。

 ちなみに日本は、大豆・トウモロコシとも遺伝子組換え栽培国からの輸入が9割ちかくを占めるため、多くの流通工程を経るほどに混入の可能性が高くなります。EUのように非栽培国ばかりで自給ができる環境にはありません。その現状の中で意図せざる混入率5%が定められ、運用されてきた経緯があります。

 もし、これを3%、1%と引き下げると、分別流通管理をしていてもこの数値を超えて混入してしまうため、義務表示「遺伝子組換え不分別」が必要となります。これを避けようとして分別管理を厳格にしたり、コンテナパックでもってくると輸送の形態が変わります。さらに表示が正しいかどうかを確認する分析にも、膨大なコストがかかります。数値の厳格化を求めることで発生するコストや輸送における環境負荷も踏まえると、5%の現状維持は妥当だと思います。

●「遺伝子組換えでない」と表示するため混入率α%の行方は?

 続いて、後者の「遺伝子組換えでない」表示のための新たな数値(α%)の検討です。消費者委員3名の意見は、現状の制度では遺伝子組換えが5%ちかく含まれているのに「遺伝子組換えでない」と表示するのはおかしいとして、正しい表示を求めるためにも引き下げるのであれば「0%」を求めることで一致しました。

 ある消費者委員は、民間団体であるバイテク情報普及会で行ったアンケート調査を紹介して、「遺伝子組換えでない」という表示について「遺伝子組換え農作物が全く含まれていない」と理解している人が74%いることに触れました。そのうえで「遺伝子組換えでない」という表示を見直し「全く含まれていない」ものだけに表示するよう求めました。

 一方、事業者委員(製造者・流通)からは「現在、表示を行っている事業者が表示できなくなり、消費者は遺伝子組換え原料を使用するようになったと誤解して問い合わせが殺到するのではないか」「遺伝子組換え非栽培国からの輸入を頼ることになると、IPハンドリングの仕組みが崩壊し安定供給が難しくなるのではないか」といったデメリットを示し、現状維持を求めました。

 また、奈良県立医科大学教授の今村知明委員は、「先ほど説明の分析の問題点からもわかるように、定性試験は高感度のため、遺伝子組換えではない原材料を使っていてもコンタミ等で出てしまう。ゼロにするのは難しい。そうなると『遺伝子組換えでない』と表示できる商品は無くなり、消費者の手もとに届かなくなるがそれでもいいのか」という問いかけます。

 これに対して、消費者委員は「『遺伝子組換えではない』という表示ばかりあることが、遺伝子組換えの悪いイメージを持つ根源になっているのではないか。そのことがバイテク情報普及会のアンケートでもわかる。消費者は事実を知りたいだけだ」と答えています。学識者、事業者委員の意見は分かれましたが、大勢は「遺伝子組換えではない」と表示できる数値α%を設けて厳しくする方向に賛成でした。

 しかし、ここでα=0%まで厳しく引き下げるとなると、科学的検証は無理ではないかと思います。社会的検証もあわせて概念的なゼロを定めるこのかもしれませんが、ゼロだけでなく、0.9%(米国の民間認証団体の閾値)、0.1%(ドイツ・スイスの閾値)などを参考にしながら、現状維持(5%)とも比較しつつ、実行可能性、規制影響について丁寧に議論をしてもらいたいと思います。

●α~5%の混入率の「遺伝子組換えでない」に代わる新たな表示方法は?

 α=0%では、身の回りの「遺伝子組換えでない」と表示されている豆腐、納豆、味噌など義務表示対象品目の多くから、この表示が消えるでしょう。国産やオーガニック(輸入を含む)、一部の非栽培国からの原材料ではできそうに思われるかもしれませんが、分析をするとごく微量のコンタミも検出してしまいます。よほど厳格な管理が必要です。

 一方、最終製品に組換えDNAが残っていない食品はどうでしょうか。しょうゆの「遺伝子組換え大豆不使用」や、牛乳の「遺伝子組換え飼料を使っていません」などの表示をよく見かけます。これら加工品は分析不可能で、原料まで遡って調べようとしても難しく、社会的検証に留まります。公正性という観点から、この点も検討してもらいたいと思います。

 そして、小さな豆腐屋、味噌屋さんへの影響をどう考えたらいいでしょうか。これまでどおり分別流通管理された非組換え大豆を高い価格で購入しているのに、「遺伝子組換えではない」と表示できなくなります。検討会では事業者団体の委員から、α%から5%以下の混入率でも無表示ではなく、これまでの事業者の努力に報いるような新たな表現が必要ではないかという意見も聞かれました。

 「遺伝子組換えでない」に代わる新たな表現といえば、たとえば「原料大豆はできるだけ遺伝子組換えが混ざらないよう分別流通管理されたものを用いています」といった一括表示枠外表記でしょう。ここで、第4回検討会で紹介されたハウス食品の事例が参考になります。スナック菓子「とんがりコーン」は、原材料名のコーングリッツに「遺伝子組換えでない」という表示はなく、枠外に「遺伝子組換え原料の混入を防ぐため、分別流通されたとうもろこしで作ったコーングリッツを使用しています」と表記されています。こうした表示が消費者を誤認させることなく、「ありのまま」を伝えていて良いと思います。

ハウス表示

 表示制度ができて15年、この間に世界の遺伝子組換え栽培面積は急速に増大し、IPハンドリングが構築されて今に至っています。検討会を通して日本の流通実態、分析の問題点も踏まえると、根本的な制度の見直しが難しい状況も明らかになってきました。一方、15年前に表示制度ができたときに遺伝子組換え食品のリスクコミュニケーションも進めるように宿題も出ましたが、宿題は忘れられたままです。

 検討会は2018年3月まで続きます。論点ごとの検討が終了し、論点1から4までを総合的に議論することになります。制度変更による規制影響と消費者のメリット・デメリットを天秤にかけながら、十分に議論を深めてもらいたいと思います。(森田満樹)

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森田 満樹

九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。