科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

森田 満樹

九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。

食品表示・考

原料原産地表示検討会が迷走中 提案された3つの表示方法を考える

森田 満樹

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加工食品を購入する際に「原料原産地名」を参考にしますか?―こう問われれば、多くの消費者が「参考にする」と回答するだろう。しかし、実際には食品によって知りたい度合いは違うのではないだろうか。「梅干しの梅」「アジの干物のアジ」の原産地は知りたいけれども、「マヨネーズの植物油」や「サンドイッチのパンの小麦」の原産地までは知らなくてもいい…。

そんな細かい話をすっとばして「全ての加工食品の原産地表示」を義務付けようと、検討が進んでいる。その場が、2016年1月より消費者庁と農林水産省が共催する「加工食品の原料原産地表示制度に関する検討会」だ。2016年秋までに報告書がまとめられる予定で、検討会は山場にさしかかっている。

8月23日に開催された第7回検討会では、「全ての加工食品を対象」に実行可能な表示方法として、事務局が「可能性表示」「大括り表示」「中間加工品の加工地表示」の3つを示した。この3つは、過去の検討会でさまざまな問題があって見送られてきたものだ。

表示事例をみると、問題は多い。それでも検討会が「全ての加工食品を対象」にこだわるのは、既に2015年10月に農林水産業のTPP対策の自民党方針として、また、2016年6月には政府の骨太の方針として閣議決定の中で定められているからだ。

9月1日のNHK総合「くらし☆解説」では、合瀬宏毅解説委員が3つの表示方法が消費者にとってわかりにくいと問題提起している。そのうえで、検討会の様子を「自民党や政府に先にきめられてしまっては、委員としてはなかなか反対しにくい」「本来は消費者にとってのわかりやすさや、事業者の実行可能性を最優先に考えなければならなかったのですが、全ての加工食品を対象と先に決めたものですから、議論が迷走している。そんな印象です」と伝えている。

●3つの表示方法は、いずれも消費者にとってわかりにくい

それでは、検討会の事務局が示した3つの表示方法について、みていこう。

1つめの「可能性表示」は、原産国が時期によって切り替わるような場合、過去の取り扱い実績などを根拠にして「A国又はB国又はC国」と、使用する可能性のある産地を列挙して表示するものだ。たとえば、しょうゆであれば「原材料名:大豆(アメリカ又はカナダ又は国産)…」などとなる。その商品がカナダ産だけしか使っていない場合でも、この表示ができる。

2つめの「大括り表示」は、原産国が複数の外国の間で切り替わるような場合、外国の産地を一括して「輸入」と表示するものだ。しょうゆであれば「原材料名:大豆(輸入)」や、「原材料名:大豆(輸入、国産)」などとなる。後者の場合、国産の割合が少なくても表示できる。

3つめは「中間加工品の加工地表示」で、「輸入中間加工品」と「国内製造中間加工品」の2つの事例が示された。輸入中間加工品は、たとえばチョコレートビスケットの原材料チョコレートの加工地を「チョコレート(ベルギー加工)」と表示する事例である。

「国内製造中間加工品」の事例は、最終製品の原料が国内で製造・加工されているもので、たとえば食パンの小麦粉について「原材料名:小麦粉(国内加工)、…」となる。原料の小麦の産地を生鮮原材料まで遡ると「原材料名:小麦粉(小麦(アメリカ、カナダ、オーストラリア、日本))、…」となるはずだが、これは大変なので、「国内加工」ならば表示できるだろうという提案である。

以上の3つの表示方法は、それぞれメリット、デメリットがある。事務局はメリット、デメリットを整理して示しているが、これをみると、消費者、製造流通業、生産者の立場によって、あちらを立てればこちらが立たず、という様子がよくわかる。

●消費者団体の意見は割れている

食品事業者代表の委員は、全ての加工食品を対象にすることについて反対している。しかし、座長のお茶の水女子大学大学院教授の森光康次郎教授は「全ての加工食品について対象とすることは決まっていること」として取り合わない。その様子を食生活ジャーナリストの佐藤達夫さんが「消費者の利益と食品産業振興の両立のために、 加工食品の原料の原産地表示はどうあるべきか。」としてyahooニュースにまとめている。

第7回検討会では、消費者団体の意見は2つに分かれた。まずは、事務局案の賛成意見として「現状の国別表示が望ましいが、より一歩前進するためには3つの方法とも容認することで、全ての加工食品を対象とすることができるので皆で歩み寄るべきだ」というものだ。

一方、反対意見としては「事務局提案の3つの表示方法は消費者の知りたいという希望を満たすものではなく、表示と中身がずれており、誤認にもつながる恐れがある。特に加工地表示にあっては、本当に適切な情報なのかという疑問が生じる。22食品群+4品目ルールとは別のルールを作って、ダブルスタンダードになることも問題だ」と懸念している。

●中間加工品の「国内加工」表示は、消費者の誤認を招かないよう慎重な議論を

今回提案された表示方法を見て私が驚いたのは、3つめの「中間加工品の加工地表示」の「国内加工」の提案だ。

「中間加工品の加工地表示」といえば、これまでは「輸入中間加工品」のみ検討されてきた。海外で最終的に加工された原料は原産地を特定できないことが多く、原産地のかわりに(加工地:A国)と表示することは、消費者に一定の大まかな情報を提供することができると整理された(2009年食品の表示に関する共同会議報告書より)。しかし、ここでは日本で中間加工した場合に「国内製造」など強調表示することは、消費者の誤認を招くとして盛り込まれていない。

韓国の原料原産地表示でも、輸入中間加工品の加工地表示を認めているものの、韓国国内で製造された原材料を用いた場合の国内加工地表示は認めていない。国内加工の中間加工品を使用した場合は、原料の原産地を表示するルールになっている。輸入と国内、分けて考えているのだ。

そもそも現在の食品表示基準では、表示禁止事項として「産地名を示す表示であって、産地名の意味を誤認させるような用語」は禁止している。たとえば、ノルウェー産のアジを沼津で加工した「アジの開き」は、「加工地:沼津」や「沼津加工」などと強調表示する場合があっても「原料原産地ノルウェー」という情報があることが前提であり、表示方法も留意するようにQ&Aで定められている

「国内加工」表示を認めれば、最終加工工程の一部だけを国内にもってきて表示する事例もでてくるだろう。たとえばあんパンやおしるこは、中国で小豆をあんに製造しても、日本で糖を加える工程があれば「こしあん(国内加工)」となる。ミートソースは「豚肉加工品(国内加工)」、清涼飲料水の「りんご果汁(国内加工)」など、様々な事例が考えられそうだ。こうなってくると「原料原産地表示」ではなく「原料加工地表示」で、表示の意味合いが異なってくる。

それに実態はもっと複雑だ。パンやめんなどは、国内製造の小麦粉と、輸入調整品の両方使われることも多い。その場合は「小麦粉(国内加工、インドネシア加工)」などと書くのだろうか。食品によって国内加工地表示を導入することで何が起こるか、慎重な検討が必要だ。

一方、現行制度で既に国内加工地表示が原料原産地表示として認められているものがある。「かつお削りぶし」だ。食品表示基準では、原料となる「かつお」の原産地ではなく、「かつおのふし」の加工地を原料原産地表示と定めている。「かつおのふし(国産)」と表示され、消費者の選択の目安になっている。このように加工地表示が役立つこともあるが、それは食品の加工特性によって異なるだろう。

●「原則全ての加工食品で」で、表示が無理なものは例外として外す

これまでは、いくつかの消費者団体が原料原産地表示をめぐって義務対象品目の拡大を行うことを要望してきたのは、22食品群+4品目の近くにある食品である。たとえば表面をあぶった牛肉は対象で、ローストビーフが対象外というのは消費者にはわかりにくい。原料の食品としての形が残っているもの、想像できるものは、原料の原産地を知りたいという要望は高く、まずはそこから拡大してほしいという意見が大半だった。

第7回検討会で示された「資料7 加工食品の原料原産地表示に対する要望」をよく読んでほしい。6つの消費者団体が「原則として全ての加工食品原料原産地表示の義務化を」「義務表示対象品目の拡大・強化を」などと要望しているが、例外なく全ての加工食品を求めている団体はいない。加工度(調理、調味、精製、抽出、混合等)が高いものほど、原産地情報のニーズは低くなり、表示の実行可能性も低くなる。事務局が事例で示した炭酸飲料の「果糖ぶどう糖液糖(国内加工)…」という情報を必要とする消費者は、どれだけいるだろうか。

しかし、第7回検討会では「22食品群+4品目に追加するということはなく、全ての加工食品が前提だ」と座長が言っている。後戻りはできそうにない。そうであれば、全てに網をかけて、実行可能性の低いものは例外として義務化の対象品目から外して、自主的な表示に取り組みやすいようガイドラインを作ってはどうか。

過去にはガイドラインの成功事例もある。2006年に定めた「豆腐・納豆の原料大豆原産地表示ガイドライン」だ。現在、豆腐と納豆は表示対象品目以外だが、ほとんどの豆腐には原料原産地表示がされているのは、このガイドラインがあるからだ。ここでは「アメリカまたはカナダ」といった可能性表示を認めており、多くの豆腐がこの方法で表示しており、消費者の選択の目安となっている。現実的な対応といえる。

原料原産地表示は、食品によって消費者の知りたい度合いも違い、事業者の実行可能性も異なる。様々なアプローチがあるはずだ。それを例外なく「全ての加工食品」の原料原産地表示を求めると、無理が出ることが今回の検討会でよくわかった。小さな表示スペースに表示するためのコストもかかる。検討会の委員が「ムリやムダのある表示は、消費者、事業者、生産者の双方のためにならない」と発言している。

しかし検討会では、食品ごとの丁寧な議論は行われない。例外なく全ての食品に表示させる勢いは止まりそうにない。NHKの「くらし☆解説」で合瀬委員が述べたように「消費者の選択のための表示が、政治家主導の結論ありきで迷走している」のであれば、ここで十分な議論をしておかなければ、禍根を残すことになる。

食品表示における世界共通の原則は「誤認を招かないこと」だ。国際規格であるコーデックス一般規格にも、一般原則の最初にそのことが記されている。任意表示ならまだしも、義務表示の一括表示の中に誤認を招くような表示項目が入れば、一括表示の信頼性が損なわれる。秋に報告書がまとまるまでに、まだ間がある。再考を願いたい。(森田満樹)

執筆者

森田 満樹

九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。