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執筆者

森田 満樹

九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。

食品表示・考

食品表示はこれからどうなる?食品表示基準案のパブコメを出そう(中)―「アレルギー表示」「原材料名表示欄」

森田 満樹

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 現在、パブコメ中食品表示基準(案)について、表示基準案の構成と、パブコメの目玉である製造所固有記号について(上)に、まとめました。(中)は複雑な変更を伴う「アレルギー表示」を中心に考えます。

3)アレルギー表示の変更がとても複雑

【基準案の概要】
 現在のアレルギー表示は、表示を義務化する「特定原材料7品目」と、表示を奨励する「特定原材料に準ずる20品目」に分けられます。(これら品目は「アレルギー物質」とされてきましたが、食品表示法の公布時に「アレルゲン」とされ、表示基準案でもそれに準じており、今後は「アレルゲン」と表記されます)
特定原材料の考え方や品目は変わりませんが、今後の表記方法はいくつもの変更点があります。主なものを抜粋して、下記にまとめました。

1) 【特定加工食品廃止】
 代替え表記は引き続き存続するが、特定加工食品(例:マヨネーズ)及びその拡大表記(例:からしマヨネーズ)が廃止される

⇒マヨネーズ、からしマヨネーズ、オムレツ、チーズオムレツ等は、(卵を含む)の表示が必要に
⇒卵黄、卵白は「卵」という字が含まれているが、(卵を含む)の表示が必要に
⇒パン、うどん、ロールパン、焼きうどん等は、(小麦を含む)の表示が必要に
⇒生クリーム、ヨーグルト、アイスミルク、ラクトアイス、フルーツヨーグルト等は、(乳成分を含む)の表示が必要に
⇒醤油、みそ、豆腐、油揚げ、厚揚げ、豆乳、納豆等は(大豆を含む)が必要に

2) 【乳の代替表記】
 ミルク、バター、バターオイル、チーズ、アイスクリームの5種類は、代替表記に分類される(「乳成分を含む」の表記は省略できる)
3) 【乳の表記】
 アレルゲンの「乳」については、「乳成分を含む」表示のみとし、これまで使われてきた「乳を含む」や「乳製品を含む」は使えなくなる。
4) 【個別表示が原則】
 消費者の商品選択の幅を広げるため、個別表示(一つひとつの原材料名にアレルゲンを表示)を原則とするが、使用している原材料が多く、表示可能面積の制約がある場合や、表示量が多いためにかえって消費者にわかりにくい場合は、一括表示を可能とする
5) 【個別表示繰り返し表記可】
 個別表示で、繰り返し出てくるアレルゲンは省略可能(現行制度と同じ)だが、最新の知見を踏まえて仕組みの一部改善をはかり、繰り返し表記不可の例外を設ける。これは、醤油に含まれる「小麦」「大豆」のような事例を念頭に置いたもの。醤油に含まれる「小麦」「大豆」のように抗原性が低い場合は、摂取可能な患者が存在するため、今後は国として調査研究を行い科学的知見が得られた場合に、醤油の「小麦」「大豆」について繰り返し表記不可とする
6) 【一括表示は全て表示】
 一括表示については、アレルゲンそのものが原材料に使用されている場合や、代替表記等で表示されているものも含め、一括表示欄に全て(原材料の一部に…を含む)と表示する

 これらの見直し案を反映した表示例を、消費者庁は概要版に次のとおり示しています。
*個別表示の例
個別表示

*一括表示の例
一括表示

【基準案の課題】
 アレルギー表示は、基準案の本体8~9p、第3条第2項別表十三に示されています。ここには個別表示に関する記述があるだけで、上記の主な変更点である一括表示や代替え表記に関する記載はありません。説明会では、参加者から「なぜ一括表示の記載がないのか」という質問が寄せられ、消費者庁は「個別表示を原則とするため」と回答しています。

 個別表示と一括表示のどちらを選ぶかは、これまで事業者の判断にまかされてきましたが、今後は「個別表示が原則」と明確にされました。表示可能面積などの制約がある場合のみ、一括表示ができるようになります。一括表示が使える場合は今後、表示可能面積など条件が制約されることになります。説明会では「一括表示のほうが患者さんにとっては分かりやすい製品群もあるので、業界としても一括表示ですすめてきた。今後も認めるべきではないか」という意見も聞かれました。

 消費者庁は制度の見直しにあたって患者団体のヒアリングを行っていますが、「個別表示は分離可能なものであればこれだけ抜けば大丈夫という判断が可能なので便利だが、一括表示は忙しい中でそこだけ見ればいいので便利、というように一長一短ある」「個別表示をするのであれば繰り返し表示の省略はやめて全て書く、そのスペースがないのであれば一括表示にするというように、どちらかにした方が良い」「症状が重い人は個別表示、そんなに重くない人は一括表示が良いという声がある」など、確かに患者も様々です。

 お弁当のおかずのように分離可能なものは個別表示の方がいいのかもしれませんが、原材料が混ざり合っていて分離できないような場合、たとえばパンやクッキーなどは一括表示の方がわかりやすい場合もあるでしょう。そう考えると、一括表示を可能とする要件は、表示可能面積や表示量以外にもあるのではないか、とも思います。

 また、一括表示が使えるのは表示スペースが狭い場合とされていますが、上記の表示事例でわかるように、個別表示の上の事例と下の一括表示例を比べると、一括表示例の方が文字数が多く、解決にはなっていません。一括表示が全部表記となったため、文字数はそんなには減りません。

 もし、患者の見落としがないようにするという観点で表示を考えれば、個別表示でも一括表示でも、一括表示枠内の原材料名の下に「含まれるアレルゲン」という欄を追加して、原材料とは別にアレルゲンを全て表示すればよいのではないかという意見もあります。一括表示とは別に、任意表示として枠を設けて「アレルギー物質(推奨品目を含む) 小麦、卵、鶏…」など、わかりやすく表示している製品もたくさん見かけます。これら任意表示は表記方法がバラバラですが、一括表示欄に枠を導入すれば統一することができるかもしれません。

 いずれにしてもアレルギー表示の変更は、今回発表された基準案の中で、もっとも複雑な変更を伴います。一時期は個別表示の繰り返し表記が不可という消費者庁の案も出ましたが、それは取り入れられませんでした。しかし、個別表示、一括表示ルール変更の他にも、特定加工食品の廃止や乳成分の表示の変更など多岐にわたっており、事業者は基準案をよく理解していないと、事故や間違いが起こる可能性もあります。アレルギー表示の欠落や間違いは人の命に関わることですから、今後、十分な周知が求められます。

【パブコメの際の留意点】
 アレルギー表示、特に一括表示の考え方については、説明会で様々な意見が聞かれ、消費者庁担当者は「ぜひ意見をパブコメに出してください」と述べていました。意見を出す際に記入様式を使う場合は、頁は本体8~9p、条番号は第3条第2項、表題名は「アレルゲン」となります。

 この表示基準案は個別表示についてのみの記載で、変更点は概要版の参考資料27~37pに記載されています。消費者庁は詳細について今後、Q&Aや通知で示すとしていますので、詳細についてもこのパブリックコメントで意見をしていきましょう。

(4)原材料名表示欄―個別品質表示基準と複合原材料の行方

【基準案の概要】
 原材料名の表示の方法に関する変更点は大きく2つ。1つは個別表示基準の統合に伴うもの、もう1つは複合原材料の見直しです。前者は、食品表示基準案で基準が1本に統合されるので、JAS法の46の個別の品質表示基準で定められていた義務表示のルールを、この際一部見直そうというものです。

1)【個別品質表示基準の見直し】
 現在、パン類、食用植物油脂、ドレッシング及びドレッシングタイプ調味料、風味調味料の4つの個別品質表示基準は、原材料名欄で食品と添加物を区別せずに多い順で記載することになっています。これを他の食品と同様、食品、添加物それぞれ多い順に記載するように変更されます。

ドレッシング

 他にも、プレスハム・混合プレスハムの原材料名中のでん粉の表示で、現行では「でん粉含有率」を併記していましたが、「ソーセージ」や「混合ソーセージ」と同様、「でん粉含有率の項目を立てて表示する等、現行の個別品質表示基準を見直しています。

2)【複合原材料表示の見直し】
 現在の複合原材料のルールは、2種類以上の原材料からなる複合原材料を使用した加工食品について、その名称を記載して構成する原材料をまとめて書くことになっており、個々に分割して表示できません。この点を見直し、複合原材料を構成する原材料を分割して表示した方が消費者にとって分かりやすい場合に限り、分割表示が可能となります。
 その要件としては、「条件案1 中間加工原料を使用した場合であって、消費者がその内容を理解できない複合原材料の名称の場合」「条件案2 中間加工原料を使用した場合であって、複数の原材料を単に混合(合成したものを除く)しただけなど、消費者に対して中間加工原料に関する情報を提供するメリットが少ないと考えられる場合」です。消費者庁の概要版の表示例は次のとおりです。

複合原材料

【基準案の課題】
 現在の加工食品の個別品質表示基準が統合されるということで、食品ごとに定められた細かい義務表示ルールが見直されることが期待されましたが、今回の見直しは大幅な変更には至らず、一部に留まりました。個別の品質表示基準で定められていた表示ルールは、基準案の別表十八に移行されており、その内容をみると現行の基準をほとんどそのまま、引き継いでいます。チルドぎょうざの皮の率など本当に必要なルールか検討する時間もないまま、基準案にごっそりと移行しています。このあたりを見直せば基準案はもっとスリムに、シンプルになるのではないかと思います。

 また、現在の複合原材料のルールは、国際的には、複合原材料として表示をすることはできるという規定はなっていますが、必ずしも必須とはしていません。日本の現行制度では複合原材料の表記のみとしているので、重量の順番が正確に表示されず極少原料が前の方に記載されたり、一部の原材料を「その他」と表示できるため使用しているのに隠れた表示になってしまったりと、様々な問題がありました。

 今回の見直しで表示基準案に「ばらして書く」ことが明記されています。第3条第1項・原材料名の下欄1・二で、「ただし、単に混合しただけなど、当該複合原材料の原材料の性状に大きな変化がない場合は、原材料に占める重量の割合の高いものから順に、そのもっとも一般的な名称を持って表示をすることができる」との一文です。
 複合原材料の規定が変わったことで、国際的にも整合性があり、消費者にとっても正確な情報を得ることができるようになるでしょう。また、事業者側もばらして書くことで、文字数が少なることも可能となり、今後の取組みに期待したいと思います。

【パブコメの際の留意点】
 以上の原材料名欄の表示変更は、製造所固有記号や、アレルギー表示の変更ほど注目されていませんが、食品によっては大幅な表示の変更を伴うことになります。

 意見を出す際に記入様式を使う場合は、加工食品の個別の品質表示基準の見直しについては、頁は本体22p、条番号は第4条、表題名は「個別的義務表示」となります。品目別で意見を述べたい場合は、頁は別表第十八(44pあります)の該当頁、表題名に食品名と表示事項を記載して、意見を述べます。
 また複合原材料について、「ばらして表示ができるようになる」に該当する頁は、本体3p、条番号は第3条第1項、表題は「複合原材料」になります。

 続いて「栄養表示」と「表示レイアウト」について(下)にまとめます。(森田満樹)

執筆者

森田 満樹

九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。