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新政権、遺伝子組み換え反対の福島・食品安全担当大臣でどうなる?

森田 満樹

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 消費者庁と新政権がダブルで発足した今月、食品安全行政も大きな転換期を迎えそうだ。全頭検査の国庫補助復活を本当にやるのか。食品安全庁なるものの議論が始まるのか。食品表示はどうなるのか。原料原産地表示はこれまで議論されてきたことがそのまま引き継がれるのか、それとも民主党のマニフェスト通り、「義務付け対象を加工食品等に拡大」するのか。遺伝子組み換え食品の表示も福島瑞穂消費者相になったからには見直しか。既に消費者庁に移管された関連法律は、当面どう見直されるのか。これから一体どうなるのだろう。

 食品安全元年と呼ばれた2003年、内閣府の食品安全委員会が設立して、これからは食品管理行政から独立した中立的な立場で、食品の安全性が科学的に評価されると期待したものだ。それは私だけではなかっただろう。あれから6年、まさか民主党が食品安全委員会の吉川泰弘委員の起用に民主党が不同意し、これまでの食品安全委員会が十分に科学的な判断をしてこなかった、リスク評価機能が果たせなかったと総括されるとは思いもしなかった。そして、その内閣が国民の圧倒的な支持を受けて、本日発足した。

 さらに今朝のニュースでは、消費者相、内閣府特命大臣(食品安全)が、福島瑞穂氏に決まったという。福島氏は熱心な有機農業推進者である、と私は思っている。彼女のホームページには「食の自給率を高めること、食の安全が非常に重要です。有機減農薬農業の振興とともに、地産地消の運動が非常に重要だと考えております」とある。確か10年ほど前に、福島氏の勉強会か何かで、安田節子氏の話を聞いた記憶がある。安田氏は当時からエネルギッシュな遺伝子組み換え食品反対派であり、有機農業について2人で熱く語っているのを聞いた。この場では、彼女達の掲げる食の安全に賛同する消費者団体の方々が多数参加していた。こういう方々がこれからどのように食品安全行政にかかわってくるのか、ちょっと分からなくなってきた。

 福島氏は数年前の国会質問で、「食品安全委員会は、今回の鳥インフルエンザ問題などは、どうすれば防げたというふうにお考えでしょうか」と質問した人である。ほかの質問でもリスク評価とリスク管理がごちゃまぜの感があるが、まあ、もっとも、立場が変われば考え方や発言も変わるだろうし、野党での主張や活動がそのまま引き継がれるとも思えないので、私の杞憂に過ぎないかもしれない。新総理大臣は理系のはずだから、これから日本を率いる偉い方々が、食品安全の基本理念であるリスク分析手法についてきちんと理解したうえで、政策を決定してもらいたいものである。マニフェストの中には「食の安全・安心を確保する」項の政策目的の中には食品安全行政を総点検すると明記されているが、基本理念にしたがって総点検すれば、無駄な策を選ぶわけはないはずだ(期待を込めて)。

 ところで、消費者庁はもうスタートしているわけだが、発足が前倒しされて準備不足なうえに、初代の消費者庁長官起用にはかねてより民主党が反発しており、しかも担当大臣は福島氏ときているから、こちらもどうなるか分からない。組織はまだ固まっていないのに、それでも法律は既に次々と移管されている。食品表示のことを聞こうと厚生省や農林水産省に問い合わせても、「それは移ったので」と消費者庁に回される。消費者庁の担当者は少ない人数で受け持たなければならないので本当に大変だろう。また表示に関する法律の手続きも煩雑になっている。たとえばJAS規格の改正などで品質表示基準が改正される場合、従来は諮問を受けてからJAS調査会部会を経て審議、その後、総会審議というプロセスだったが、その間に消費者庁が入ってくる。

 消費者庁では部会でまとまった品質表示基準改正案について、消費者委員会で審議を経て答申、それを農林水産省に戻して、そこから総会審議を経て決定され、告示となる。これまでも膨大な数の基準を農林水産省の部会、総会で5年ごとに見直ししてきたわけだが、そこにさらに消費者庁の審議が入ると当然時間はかかるだろう。消費者委員会では、もちろん食品表示だけを審議するわけでないし、食品の専門家も多数はないから、さっと審議されることになるかもしれない。でも、もしここで根本から議論が行われるようなことになったら、時間もかかるし、部会案が覆されるようなことも出てくるだろう。それを総会でもとに戻す?そんなことができるのか。

 表示ではさし当たって議論を呼びそうなのが、原料原産地表示の拡大である。実は消費者庁が発足する直前に、食品の表示に関する共同会議が行われ、加工食品の原料原産地表示の拡大に向けた表示の方法と品目の考え方について、報告書がまとめられている。同会議では何年にもわたってこの問題を議論しており、2003年8月に今後の方向について報告書をまとめ、05年にはさらなる推進について報告書をまとめ、今回の報告書は第3弾となる。

 報告書では、加工食品の原料原産地表示における消費者の要望と、事業者の実行可能性という両方の視点から、新たな表示方法として(1)可能性表示(切り替え産地を列挙する)(2)大括り表示(国産・外国産または輸入を表示する)(3)輸入中間加工品の原産国表示の3つについて新たに導入することを検討し、(1)は不適切だが(2)(3)については今後も検討が必要ということでまとめられた。また原料原産地表示の義務対象品目については、これまで通りとして、特に拡大品目を定めていない。

 この報告書を受けて、今後消費者庁は原料原産地表示についてどのように定めていくのだろうか。表示品目を拡大していく場合に、これまでの議論をどう生かすかすのか。民主党の政策の中に「加工食品や外食における原料原産地表示の義務付けを拡大します。ただし、一定規模に満たない中食・外食業者に対しては現実的な対応を行います」とある。この現実的対応についてどう見るのか、大括り表示をかませるのか、とにかく先が見えない。せっかく何年もかけて食品表示共同会議がまとめた原料原産地表示の3つの報告書を生かしてもらいたいものである(期待を込めて)。

 それから表示に関してもう1つ、民主党が掲げる政策の中に「遺伝子組換え食品及びクローン動物由来食品については、その旨の表示等を義務付けます」とある。消費者相が福島氏であることも併せると、遺伝子組み換え食品の表示についても見直しが開始されるのではないか。個人的には、現行の法律では「遺伝子組み換え食品ではない」と言う任意表示ばかりで、消費者の選択の目安となっていないし、そのことがむしろ遺伝子組み換え食品の現状理解の妨げになっていると考えている。問題はどう見直すか、だ。

 いずれの見直しについても、新政権について今後どのように進めていくのかは全く未知数だ。ただ、今回の吉川食品安全委員の不同意問題について言えば、不同意してからその後の世論の反応が予想外で、実は戸惑っているのではないか、とも思う。民主党や社民党がいうところの消費者、つまり全頭検査を求めて、加工食品や外食にすべて原産地表示を求めて、遺伝子組み換え食品の表示を求める消費者が、消費者のすべてではないということが、これから少しずつ分かっていくのではないだろうか(期待を込めて)。これまでは対立軸を明確にするということで掲げてきた政策案が、実は非科学的で非現実的で、消費者のためにもあまりならなくて、不経済であるということに気付いたら……。今後どのように柔軟な政策転換を打ち出すのか、楽しみである。

 ところで私ごとだが、2年間のタイ生活を終えて先月、本帰国しました。帰ってきたら消費者庁はできているし、政権交代で食品安全庁なるものの議論も出てきて、目を白黒させている。この2年間、タイも政治的にゴタゴタして大変だったが、微笑みの国というだけあってタイ人は皆ニコニコしているし、生活はのんびりしていた。短い間だったが、タイFDAの行政官やバンコク保健所の担当者、学識者や食品事業関連者と話することもできたのも収穫だった。日本の常識である食品安全の物差しがいかにシビアか、日本に輸入する際に相手国にいかに負担をかけているのか、彼らが現場でそのハードルを乗り越えるためにどんな努力をしているのか、実感することができた。彼らの食品安全の物差しも、そこに住む生活者として理解できた。理解が進むにつれて、日本の消費者の不安感は、国際的にはなかなか理解してもらえないことも痛感した。そのギャップについては、まだ頭の中はタイ化していて、ぐるぐると混乱したままなのだが、いつかまとめられればと思っている。(消費生活コンサルタント 森田満樹)