斎藤くんの残留農薬分析
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
食品に残留する農薬など、化学物質は基本的には増えたり減ったりはしない。しかし、細菌は温度条件などが揃うとあっという間に増殖する。また、ウィルスは通常食品では増えないが、体内で爆発的に増えて食中毒になる厄介な微生物である。最近、ホテルや人の集まる場所などへ行くと必ず気にかけるのが、トイレの手洗い場所である。多くの場所が自動式になり、さらにお湯(温くて良い)が出るところが多い。冬は寒くてあわててトイレに行くことも多く、手洗いで冷たい水が出ると相当いい加減な手洗いとなるのは、私だけではないだろう。
そんな時、暖かいお湯が出るとほっとして、しばらく手を差し出している。癒された気分になる。その時に思ってしまうのは、ここはお客様に対するサービス対応を考えているが、その気配りは職員が使うトイレの手洗いや調理場の洗面場にもちゃんと行き届いているのだろうか、ということだ。
大体が日の当たらない寒い場所にある。そういった作業場にある洗面所を、冬の寒い作業の折に使うと、水しかでないので、冷たさを十分実感させてくれる。お客へのサービス面ではよいだろうが、従業員に対する衛生管理では配慮が不十分。本当は逆であるべきではないだろうか。
今年の冬はノロウィルスが原因と思われる食中毒事件が多発して、従来のカキなどの2枚貝が原因と思われる食中毒から、ヒトからヒトを介する感染症的な様相を呈してきている。いわば常態化してきているといえるかもしれない。亡くなる方もいて、食品や食材を提供する者に対して、手洗い励行などのよりいっそうの衛生管理が求められている。
頻繁に行う手洗い、ブラシなどを使ったきめ細かい手洗いの仕方など厳しいマニュアルが決められて実行されているところも多い。特に今回のノロウィルスの場合は糞便、吐物を介した感染も多く、実際の食中毒の原因を想定すると、手からの汚染によりパンなどの食材に移ったとしか思われないような事例もある。
文献によるとノロウィルスの糞便中の存在量は多いときには10億個とか100億個とか天文学的数字になるという(食品衛生研究55巻4号19−24p、2005)。これだけ多いと、下痢便を拭いた手に付着するリスクは相当高い。ノロによる食中毒は100個位でも発症するといわれており、通常ではなかなか感染を防げない。
そんな手で触るドアノブも有力な汚染源となる。感覚的には、汚い話で申し訳ないが、ノロによる食中毒の人が大きなお風呂で少し汚したら、お風呂全体に充分量が広がってしまう計算となる。また、ノロに感染しても症状が出ないという方もある程度いらして、それが感染を広げている一因にもなっている。これからは冬限定という食中毒ではなくなるかもしれない。
ノロウィルスの感染予防には手洗いの励行と繰り返し言われているが、石鹸で手を洗うことでノロが死ぬわけではない。手の表面に付着したノロを、洗剤が表面の汚れや油と一緒に落としてくれるからである。
そういった面では、ルミテスターという手などの汚れの程度を測定してくれる簡易な装置(めん棒で手に残っている汚れをふき取り、試薬と反応させ汚れが多いと測定数値が高くなる。私たちも店舗の衛生管理に使用している)で、それぞれの人の手の洗い方などを洗う前と洗った後の差を比較して、ちゃんと洗えているか、洗い方がよいかを日常的に確認しておくことは大切である。
汚れが残りやすい部分は指先、指の間、親指、手首やしわなどが多く、手をぬるま湯でよく濡らし石鹸をつけ、腕から指先まで、先ほどのよごれが残りやすい部分に注意して、丁寧にこすり、もみ洗いをする。充分にぬるま湯で洗い、石鹸を洗い流す。後はペーパータオルや清潔なタオルで手を拭く。これがきちんと出来ていると先のルミテスターの数値がたちどころに下がる。
乾燥肌やひび割れの多い人は、ぬるいお湯で入念に温めてから丁寧に洗う必要がある。かく言う私も、自分で洗った後の数値もかなり高い時もあり、自分の洗い方がいかにズサンか分かり、がっくり来ることがある。そんな時、これは悪い洗い方の例ですよと言う。
職場でのノロへの有効な対策として、正しい手洗いをきちんと実行することの大切さは認識されている。今現場では職員の体調管理、ルールを守るしつけ、衛生教育などがかなり厳しく行われているだろう。食中毒事故を一度でも起こせば管理者の責任でもあるから、管理者も必死であろう。
さらに、職員に自覚をもって守ってもらえる職場環境を整備することも、同時に大切なことである。そのためにも、寒い、暗い場所に多いトイレや洗い場でお湯が出ない場合、ウォシュレットの簡易版のようなお湯出し器を設置するとよい。手の甲でボタンを押すとシャーとお湯が出て、充分濡らしてから石鹸をつけてお湯で手を洗うことが出来る。
手を洗おうという意欲を持てる環境作りがとても大切である。守れる環境を整備する、これが守らせることよりも大切な管理者の責務であり、管理者自身の身を守ることもである。(東海コープ事業連合商品安全検査センター長 斎藤勲)