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斎藤くんの残留農薬分析

農薬への不安感は改善傾向に、食品安全モニター意識の調査から

斎藤 勲

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 この年末年始は10日以上の休みとなる人もいれば、2、3日の休みという人も多く、一種の格差社会のようだが少しでも休養がとれたらと願う。今回は少し前になるが、昨年11月20日に食品安全委員会から出された、食品安全モニターの課題報告 「食品の安全性に関する意識等について」(2009年7月実施)を取り上げたい。この報告書は、食品安全委員会の創立以来6年間にも及ぶ食品安全モニターの意識調査をまとめた貴重なもので、農薬、食品添加物、汚染物質、BSE、有害微生物などに対する食品の安全性についてどのように感じているかをモニターに質問している。昨年秋に実施したインターネット調査も加えて比較できるようになっているが、少し概要を加えながらコメントを述べていこう。

 報告書では、特に5つの点について注目した。まず一つ目は、「食の安全性の観点から感じている不安の程度」だ。報告書を要約すると、今回の調査は08年に調査したものと比べて、BSE以外の全ての要因で「非常に不安」「ある程度不安」とする回答割合が増加したとある。確かに09年度は3〜9%増加はしている。しかし、6年分の結果がのっているので時系列でみてみると、07年の調査結果が全体の中で特に低い傾向にあって、調査を始めた04年頃からみれば、有害微生物を除き全体的に不安を感じる人の数が10〜16%ぐらい減少してきている。すなわちそれなりのリスクコミュニケーションが進んできていると善意に解釈して良いのではないだろうか。科学実験ではない不確実性の高いアンケート調査結果の評価は、年度比較に惑わされるよりも時系列での減少か増加かの傾向分析が適している。自画自賛ではいけないが、今回の調査結果では「食の安全性に関して食品安全モニターの人たちでは理解が進んできている」と要訳すべきであろう。

 続いて二つ目は、「農薬への不安について」。04年の調査では、「非常に不安」「ある程度不安」を合わせると、89.7%の人が不安に感じていた。それが09年では73.1%と、15%以上の人々の不安が解消されている。特に「非常に不安」が20%近く(44.7→24.1%)減少し、逆に「余り不安を感じない」が20%を超えたのはとても良いことである。ただし「ある程度不安」と答えた人も半分近くいるので、もう少し継続的な努力は必要であろう。

 農薬に不安を感じている理由で最も多かったのは、「事業者の法律遵守や衛生管理が不十分」というもので3人に1人が挙げている。三笠フーズの汚染米横流し事件や小さな生産者レベルでの事件など、ちょこちょこと残留農薬基準値違反の報道がなされるのでそういった印象が強いのであろう。 5月21日のコラムでも紹介した、農水省の「平成19年度国内農産物における農薬の使用状況及び残留状況調査結果について」からも分かるように、普通に管理されていればほとんど基準違反もなく、高い検査費用を払って検査をしなくても安全性は担保されている農産物が大半だ。ごく一部を除いて、それほど不安に思う必要はないのが農薬残留問題だろう。

 次に、残留農薬の基準について正しいと思うものを選ぶ設問があり、そこには4つの文章が提示されている。「問1、人の健康を損なうおそれのない量の農薬の食品中への残留が認められている」は79.8%の正答率、「問3、残留農薬に対する規制は加工食品も対象である」は52.7%の正答率だった。08年度のインターネット調査では28%であったというから、食品安全モニターの方たちの意識の高さ・勉強の反映かもしれない。「問2、一部の農薬については残留基準(一律基準を含む)が設定されていない」と「問4、加工食品には農薬が残留してはいけない」の二つは正しくないが、38%、12%の方が間違えていたという。問4は問1の文章が正しければその適用として考えられるから「残留してはいけない」とは言えず、「原材料の確認をして」となるのだろうが、正直なところ問1の文章を初め読んで意味が良く分からなかった。要するに安全性が評価されている残留基準値以内であれば適合であるということだが、食品衛生法の法律用語をそのまま持ってきたような設問の文章でよく皆さんは理解して正解して頂けたと思う。もう少し平易な文章の設問であれば、正答率も変わったかもしれないとは思う。

 3つ目には、「食品添加物」についての項目に注目した。農薬と食品添加物は評判の良くない物質の代表だが、食品添加物も「非常に不安」「ある程度不安」が04年は76.4%に対し、09年は62.5%と減少傾向にある。特に、「非常に不安」が24.6%から10%位減少し、代わりに「余り不安を感じない」人が17.1%から30.3%へと増加し農薬同様実情への理解が進んでいる。「全く不安を感じない」まで行く必要はないが、今回調査対象となっているような項目では「余り不安を感じない」というか「少しは不安を感じることがある」位が生活者として普通の感覚であり、それが半分くらいに増加すればまあまあ世の中の感覚は落ち着いてきたかなと思えるかもしれない。

 4つ目に、「カドミウム、メチル水銀など汚染物質への不安」については04年、05年ともに90%近い人が「非常に不安」または「ある程度不安」に思っていたが、09年でも80%近い人たちが同様の意識を持っているようだ。「余り不安を感じない」人は、04年の3.3%から09年の18.2%と増えてはきているが、過去に問題となった事例があり約半数の方が不安の理由に挙げている。これらの問題も私たちは悲惨な経験を教訓に規格基準、現地での対応を行い改善してきている。カドミウムについては、イタイイタイ病の原因となった米中カドミウムの検査と汚染土壌の監視、改善などを行っている。実際に、昨年1月に農林水産省が発表した08年国内産米中に含有されているカドミウムの検査結果によると、08年926件のお米を調査したところ、汚染が想定される地域の米3件から流通基準の0.4ppmを超えるカドミウムが検出された。だがそれ以外は基準を下回っており、私たちの通常の食生活ではほぼ安全に管理されていると考えて良いのではないだろうか。メチル水銀についても、自然界からのメチル水銀を蓄積したカジキ、イルカや底魚などを妊婦や妊娠可能な女性が食べる量を控える情報は広く知られており、魚種さえ選べばむしろ魚は健康上積極的にバランス良く摂取した方がよい食材として広く認知されれば汚染物質も現状では「余り不安を感じない」程度であろう。

 5つ目のBSE(牛海綿状脳症)では、「非常に不安」と「ある程度不安」を合わせると以前は75%ぐらいだったが、最近は60%ぐらいの人が不安と感じている結果となっている。「余り不安を感じない」人は30%近くになってきているが、この問題では「全く不安を感じない」人が4〜7%位と少ないが、現状をもっとよく理解してもらって本当は半分くらいに増えてもよい問題かもしれない。

 細菌・ウィルス・食中毒などの有害微生物は80%近い人が変わらず「非常に不安」と「ある程度不安」を持っている。30%近い人が非常に不安と感じ、半数はある程度である。何か既往症などのある人は別としても、そうしたことでなければある程度不安を持ってケースバイケースの対処で十分可能であろう。ただし、他の設問項目の不安度から行けば有害微生物はレベルが違う真面目に対応すべき話であるし、成果も出る項目でもある。

 食品安全委員会の食品安全モニター調査結果を時系列に見て、いろいろな問題はあるが、全体的には落ち着いた傾向を示している。その背景には、ちょこちょこと気分を逆なでするような事件も発生するが、全体的にはまあまあみんなが協力しながら衛生管理などを進めていて、昔と比べれば格段に良くなった環境で生活していることは実感として持っていいのではないだろうか。2010年はこういった良い話が多い1年であってほしいと願っている。(東海コープ事業連合商品安全検査センター長 斎藤勲)