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斎藤くんの残留農薬分析

何を学ぶべきか–栃木のイチゴ残留農薬問題

斎藤 勲

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 「栃木県福田知事イチゴの残留農薬検査の不備指摘」(2/4下野新聞)、「生産者名確認せず、新潟保健所ずさん検査」(2/8農業新聞)、「栃木イチゴの出荷自粛・トレサ機能せず」(2/9農業新聞)—-。新潟保健所の検査というか、収去のあり方が非難されている。確かに食品衛生監視員が収去をしていなかった点や、箱には生産者名が入っていたがそこから取り出したパックにはなかったため、トレースができなかった不備はあり、改善する必要がある。しかし、今回の推移を見ていると、収去検査実施の留意事項以外にも、残留基準超過の問題をきちんと論議する必要がある。

 栃木JAかみつがは1月31日、同JA鹿沼イチゴ部が1月15日に新潟市中央卸売市場へ出荷した「とちおとめ」から、新潟市保健所の検査で殺線虫、殺虫活性のある有機リン酸アミド化合物ホスチアゼート(残留基準0.05ppm)が0.44ppm検出されたとの連絡を受けた。

 この結果を受けた栃木JAかみつがは、同日出荷分の全量回収、処分、生産者179人の圃場ごとに農薬検査実施、安全性を確認するまで自主出荷停止などの素早い対応策を決定。生産者全員が1月31日から2月5日まで出荷を自粛した。自主回収と出荷自粛による損害額は約1億8000万円に上ったという。

 ホスチアゼート(商品名ネマトリンエース粒剤:1.5%活性成分)は、イチゴにつくネグサレセンチュウといった線虫の防除に使われている。最近は、殺線虫剤として燻蒸剤の環境安全性の問題から、今回問題となった非燻蒸性のホスチアゼートなどに関心が持たれている。

 従来の食品衛生法では、ホスチアゼートの基準は8種類くらいの作物の適応しかなく、当然イチゴにも基準がなく、昨年ならば食品衛生法の違反にはならなかった。昨年のポジティブリスト制度施行により登録保留基準の0.05ppmが適用された。そして超過してしまった。

 2月5日の栃木県の記者発表によれば、経緯はこうだ。(1)JAかみつがの報告では、生産者179人全員の生産履歴からは不適切使用は確認されなかった(2)そのうち38人がホスチアゼートを購入し使用していたが、個別の聞き取り調査では不適正な使用は確認されなかった(3)自主検査を行ったところ、ホスチアゼートを使用した38人中4人(使用者の約10%)、8検体から基準値を超えるホスチアゼートが検出された(4)4人は安全性が確認されるまで無期限の自主的出荷停止を行う。この結果に基づきJAかみつがでは4人が特定できたので、残り175人のイチゴの出荷再開を決めた。

 今回の基準は一律基準ではなく、登録保留基準を基にした残留(暫定)基準である。ということは、それなりの作物残留試験結果を経て設定された数値である。ほかの暫定基準のようにいろいろな基準を参考にして、それらの数値の平均値を取ったものではなく、それなりに理由のある数字である。登録保留基準は通常の使用であれば超過しないはずであるが、今回の検査結果では使用した生産者の38人中4人、約10%が基準超過している。何かがおかしい。

 東京新聞(2/6)によれば、この4農家から出荷された可能性が高いと判断して聞き取り調査をした結果、1人の生産者が植栽前に使用するホスチアゼートを植栽後に使用していたことが判明したという。先のJAかみつがの生産履歴の調査、個別の聞き取り調査では不適正な使用は確認できなかったとの報告であったが、自分の検査結果を示されると実は‥‥という話になる。よくある話かもしれないが。

 ほかの3人の生産者の使用方法も十分検討する必要がある。どうして超過するような状況が起こってしまったのか。適切に使用しても条件が変われば超過する可能性があるならば、基準値を修正する必要があるだろう。

 生産者の特定ができていれば、部全体の出荷自粛にはならなかった可能性もあるとの意見もある。一律基準違反のように通常使われないものが検出されたわけではなく、使用してもよい農薬が基準以上に検出されたのだ。これだけきちんとした生産履歴があるならば、ホスチアゼートを使用した農家だけを出荷自粛し再検査してもよかったのではと思う。

 また、生産者が特定できていて、その生産者のイチゴだけが回収廃棄・自粛では、再検査で基準超過したほかの生産者たちはよいのかというとまたそれも問題である。

 昨年ポジティブリスト制度施行時に、厚労省食品安全部監視安全課長から監視指導に係る次のような留意事項が出されている。「対象全体を代表する検体を採取するように努めること、違反となる範囲(ロット)を特定するためにも、確認した情報の記録、収去する食品を特定できる包装・ラベルなどを写真に残すことが望ましい」となっている。

 しかし、この文言は施行時に不安が高まっていた一律基準違反(通常使用されない農薬が検出される場合)の混乱をできるだけなくすことが目的で通知されたのではないだろうか。今回のような、使用してもよい農薬が基準以上に検出されたような場合は、使用方法を含め個人生産者なら個人で、グループならばグループで結果を重く受け止めて原因究明し次の作付けに活かしてもらいたい。(東海コープ事業連合商品安全検査センター長 斎藤勲)