科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

斎藤くんの残留農薬分析

ポジティブリスト対応で群馬県のヒット本が第2版

斎藤 勲

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 読書の秋、話題のベストセラー「ちょっと気になる農薬のはなし」で農薬問題を勉強しよう。以前にも紹介したのだが、群馬県は「くらしに役立つ食品表示ハンドブック」(全国食品安全自治ネットワーク刊:事務局群馬県)を発行するなど、食品衛生や食の安全について消費者への情報提供に積極的に取り組んでいる県である。2005年3月が初版となる「ちょっと気になる農薬のはなし」もヒットを続け、第2版が今年5月31日に発行された。5月29日施行のポジティブリスト制度に関連した情報のほか、群馬県が無人ヘリによる空中散布(空散)での有機リン剤使用を自粛要請したことなどの最新情報が追加され、農薬問題入門書として適している。

 群馬県は人口202万4000人。昔人間で離れた名古屋地区に住んでいると、群馬県は上州の空っ風というイメージがある。時々、地図上で群馬県と栃木県がどちらだったか混乱することもあった。新幹線が高崎に停まり、上毛線に乗り換え隣の町が県庁所在地の前橋市である。

 若い時(本当に)スキーと山が好きな風変わりな友達に連れられて、水芭蕉が咲くという尾瀬に行った。4月末、大清水でバスを降り、三平峠へ向かって2人で歩いた。峠から尾瀬沼が見えた。一面雪である。彼が時期を1カ月間違えていた。仕方なく、沼の上を歩いた。途中で割れ目があり、飛んだら落ちた。下半身ずぶぬれで、おまけに雪まで降ってきた。

 尾瀬ヶ原の小屋までたどり着いたらほっとした。大きな部屋に2人で寝た。シーズンなら夢のような話である。尾瀬ヶ原の水芭蕉も少し咲いていた。水量の多い三条ヶ滝が印象的だった。鳩待峠を経由して帰ってきたが、某大学のワンゲル部と会った以外はほとんど人に会わない雪上訓練であった。しかし、今でも懐かしい。

 そんな群馬県の「ちょっと気になる農薬のはなし」は、評判の本である。94ページ、320円は破格の値段である(本の取扱店はこちらを参照)。内容は、農薬とは何か、なぜ使うのか、健康には大丈夫か、環境影響は、気になる輸入農産物は大丈夫か、作物はどうやって作っているの、群馬県では何をやっているのなどを、群馬県のキャラクター「ゆうま博士」の案内役で、群馬さん一家、おばさん、おじいさん、生産者という漫画の出演者が色々な立場から語り合うと言う設定である。県民、消費者の人たちに、話題の農薬問題を少しでも理解して共通の情報を持ってもらおうという熱意が感じられる本である。

 「ポジティブリスト制度」の説明では、一律基準の説明が図を使って説明してあり、分かりやすい。法律の整合性を持たせたことにより、要するにかなり厳しくなったことが理解してもらえればいいのだが……。また、生産者の農薬散布の完全防備姿が絵になっているが、冬ならいざ知らず、実際に散布する時期は梅雨時や夏が多いので、この服装はちょっとおおげさかもしれない。農薬中毒よりも絶対に熱中症、脱水症に気をつける必要がある服装である。

 「調理によって農薬を落とすことが出来るのか」の項では、「調理をすることによって農薬が減少しますが、減少率は農薬や作物の種類によって異なります」と説明している。農薬の減少は、水への溶けやすさや熱による分解など色々な要素が絡んで、一言では答えにならないような答えしか出せないのが現実である。

 参考資料は農薬標準品を用いたモデル実験を紹介している。展着剤などが入った農薬は散布後、時間が経つにつれ減少するが、作物も生長し、しっかりくっついたものは結構落ちない。そのため、同じ調理でもモデル実験と実際に作物に残留する農薬では、後者のほうが落ちにくいのが現実である。その辺りを加味して結果は見る必要があるだろう。

 群馬県が06年6月、無人ヘリによる空散での有機リン剤使用の自粛を要請したことに対しては、賛否両論があった。行政対応というものは、科学的な根拠だけでは対処できない苦しい典型例である。今の日本では農地の区画整理も進み、水田一枚当たりの面積が大きく、無人ヘリによる空散に頼る現実がある。また一方で、この空散により体調不良を訴える人たちがいることも現実である。

 今から20年以上前、防疫作業従事者(健常人)の健康影響評価として、有機リン剤の血液中濃度や尿中代謝物の測定をしていた。当時は分析精度に問題があり、暴露量がある程度ないと差が出なかったが、今では分析機器の発達で、明らかな暴露がない人でも充分測定できるレベルになってきている。空気中の濃度や色々な場所での付着濃度、住民の方の尿中代謝物の測定など、もう少し健康影響評価のための暴露状況把握や情報収集が今こそ必要である。日本は昔から農薬暴露評価の研究面、特に公衆衛生的観点からのアプローチが弱い。これも問題を長引かせる一因のような気がする。(東海コープ事業連合商品安全検査センター長 斎藤勲)