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斎藤くんの残留農薬分析

ポジティブリスト制度、法の難しさも運用次第

斎藤 勲

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 最近、食品衛生関係の雑誌に欧州の残留農薬事情を報告するレポートが掲載された。残留農薬問題についてドイツ・バイエルン州政府では、以前から基準MRLのないものは一律基準(0.01ppm)を適用しているが、基準値を超えた場合、ヒトの健康に影響があると判断されると回収命令がかかり、それ以外は改善対策をすべしとされる。一律基準運用の合理的な姿が報告されている。

 レポートは、「食品衛生研究」3月号(日本食品衛生協会刊)に、厚生省乳肉衛生課長や東京検疫所長を歴任された森田邦雄さんが執筆された「ドイツ、ベルギー、オランダおよびイタリアにおける食品衛生に関する調査」と題した視察報告である。視察は昨年11月、日本食品衛生協会が主催し、欧州におけるポジティブリスト制度の運用状況や食品安全マネジメントシステム認証の対応状況について調査した。

 視察報告によれば、バイエルン州は2004年に約2000件の野菜果物の残留農薬検査を行い、70%の食品から農薬を検出した。そのうち13%の約260件が基準に違反していたが、市場から回収を命じたのは5件であったという。バイエルン州は以前から一律基準として0.01ppmを採用しており、違反事例は増えるかもしれないが、回収命令は乳幼児用食品の原料となる農産物など、著しくヒトの健康に影響が出そうな場合に対応するとのこと。私個人としては、「そうだよなあ」と同感してしまう。法の規制と運用が上手だ。

 「食と健康」4月号(日本食品衛生協会刊)には、同じ調査団で訪欧した安田隆さんが、「ヨーロッパの食品衛生事情」として同様の報告をされている。その中でもドイツの対応では「食品の安全を守るため、合理的に法の運用がなされている印象を持ちました」と述べられていた。ここでも「こうあってほしいなあ」という雰囲気が伝わってくる。

 04年の欧州農薬残留ワークショップでの発表だが、スウェーデンで、キプロス産ブドウから有機リン剤モノクロトホスが検出された際の対応が印象に残っている。1ロットから10サンプルを取って分析した結果、6サンプルは検出せず、残り4サンプルは0.05ppmから2.12ppmと分析結果がばらついた。平均すれば低い値となるが、ばらつきが大きくその残留値の高いブドウを食べると、急性指針値(慢性毒性ではなく急性毒性を生じさせるリスクを考慮した数値)を超える場合も想定されたので、販売停止となった。こういう対応は消費者も納得でき安心できる対応だ。

 厚生労働省の輸入食品監視業務ホームページを見ると、輸入届け出における食品衛生法違反事例速報が月次でまとめられて載っている。違反事例の中心は食品衛生法6条の有害物違反のアフラトキシン、シアン化合物、有毒魚(フグ)、腐敗・変敗、10条の指定外添加物の違反であり、そこに11条の成分規格不適の微生物、使用基準不適の添加物、成分規格不適の農薬や動物用医薬品が加わる。

 前者はまさに人の健康に影響を与える可能性があるものであり、そういったものを優先的に検査し水際できちんと防いでいてくれることが食の安全に大きく貢献していると思う。その上で微生物、農薬や動物用医薬品、添加物などの食品の品質基準にかかわる項目の検査を行い、違反がある場合は改善してもらう。そういった考え方がノーマルなのではないだろうか。

 検疫所関係が、例え448項目の農薬分析項目を設定されポジティブリスト制度施行に対応する体制を整えるにしても、検査対象項目の優先順位だけは間違えないようにしてもらいたい。速報は現在06年1月から4月までが載っている。次回6月以降のポジティブリスト制度施行後の速報が楽しみである。

 厚生労働省食品安全部監視安全課長の桑崎俊昭さんが「食品衛生研究」3月号の「提言」で、「残留農薬などの対策で最も重要なものは、一つひとつの農産物を検査することではなく、生産段階における農薬や動物用医薬品等の訂正使用・管理である」と述べている。今回のポジティブリスト制度施行に当たって厚生労働省が一番伝えたい部分である。02年の中国産冷凍ホウレンソウ事件も、それをきっかけに中国における対日輸出を含め残留農薬規制の改善の仕組みが、まがりなりにも出来たことが大きな収穫であった。それがなかったら今回の5月29日施行のポジティブリスト制度対応ではお手上げであっただろう。

 このように検査の重要性は個々のサンプルの摘発ではなく、背景にある仕組み・問題をいかに改善していくかがポイントであり、その状況を把握するためのモニタリング検査であるべきだ。(東海コープ事業連合商品安全検査センター長 斎藤勲)