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斎藤くんの残留農薬分析

できるだけ迷子を出さないような農薬分析

斎藤 勲

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 今、どこの検査部門も一斉分析法を中心に、分析法の検討および農薬項目拡大に努力している。通知試験法の一斉分析法は、約580の農薬項目に対して出来るだけ多くの農薬に対応できるよう組み立ててあるが、うまくはまらない“人”(農薬のこと)は当然出てくる。

 今回の通知法で示されたガスクロマトグラフ/質量分析計(GC/MS)による農薬などの一斉試験法では、野菜果物からアセトニトリルで農薬を抽出し、食塩を加えることによりサンプルに含まれていた水分とアセトニトリル層に分離する。それまで混ざっていたものが食塩を加えることにより2層に分離するのである。大部分の農薬はアセトニトリル層に溶け込んでいるので、抽出できるという優れた方法である。

 減圧しながらアセトニトリルを揮散させ濃縮する。それを活性炭などが詰まったカラムを通して精製し、農薬だけ溶出させる。野菜類の葉緑素などは大部分除去され、きれいになった溶液をGC/MSで検査する。

 しかし、この精製操作で溶出せず当然分析できない“人”も出てくる。それではその“人”については、ほかの精製・分析法、例えば今注目の液体クロマトグラフ/質量分析計LC/MS(/MS)で分析すればよいのではとなる。しかし、測定感度が悪いといった厄介な“人”、いわゆる迷子が出てくるのである。あちら立てればこちらが立たずである。

 例えば、キノメチオネート(キノキサリン系、商品名モレスタン)という農薬がある。1997年に厚生省から出された一斉分析の通知法では、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)が採用された。GPCは基本的には分子量の大きいものが先に出てきて、小さいものが後から出てくる分離精製法である。分子量の大きい脂肪や葉緑素成分を除去するにはよい方法である。その農薬の溶出分画の指標としてフルバリネートの溶出位置からキノメチオネートまでをとるように指定されており、検査するものとしてはその名前は馴染み深い。

 キノメチオネートは64年に登録されたバイエル クロップサイエンスの開発商品で、うどんこ病に効果があると同時にハダニ類にも効くという農薬で、ほかの殺虫剤との合剤としても使用される。しかし、使用量はそれほど多くないせいか、当検査センターでも4年間でピーマンから1回検出されただけである。日生協の検査データではパセリ、ピーマン、ナス、リンゴから1回ずつ検出されているが微量である。トータル約3000サンプルを検査しての結果である。

 残留量も問題となる数値ではないので、一斉分析から外してやろうかと思っていると、そんな時にひょっこり検出されたりする。まるで捨てられるのが分かっているかのように存在を主張する。面白いものであるが、検査担当者としては仕事のキャパシティーがあり、その迷子をどうするのか悩むところである。あまり泣き叫んだら少し個別的にやって、あやしてみるとか。

 ポジティブリスト制度施行に伴い、従来の分析法では時間がかかり項目拡大に対応できないところは、分析法の改良を行って新たな分析項目を拡大している。しかし、あちら立てればこちら立たずで、従来分析できた農薬がこぼれてしまう事態も当然起きてくる。限られた人員と予算の中で担当者は苦しみながら知恵を絞り、出来るだけ迷子の出ないような方法を日夜考え続けている現状である。(東海コープ事業連合商品安全検査センター長 斎藤勲)