GMOワールド
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
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2009年9月22日のUSDA(米国農務省)に対するGMサトウダイコン商業栽培承認違法裁定 により、USDAはかなりの打撃を受けた。これに続いてEPA(米国環境保護局)も、Btトウモロコシ栽培の規制管理実態について、CSPI (Center for Science in the Public Interest:公益科学センター)が、09年11月5日に公表した 報告書 により手痛いパンチを浴びせられた。
CSPIは、食品周辺の安全性を調査して、情報発信している米国の民間団体である。GM作物やバイオテクノロジーの使用に対しては、むやみに反対するものではないが正しく規制して使うべきとの立場を取り、Greenpeaceのような原理主義的絶対反対グループとは一線を画している。
CSPIの報告書は、「遺伝子組み換えトウモロコシを栽培している多くの農家が鍵となる環境上の要求項目を遵守していない(Too Many Farmers Growing Genetically Engineered Corn Not Complying with Key Environmental Requirements)」と題される。
この報告書の背景として、08年の米国におけるBtトウモロコシの作付面積は、約4900万エーカー(約2000万ヘクタール)、全トウモロコシ栽培面積の57%を占めた。害虫抵抗性GM作物の一種であるBtトウモロコシには、コーンボーラー(アワノメイガ)を標的にした品種、コーンルートワーム(根切り虫)を標的にした品種および双方を掛け合わせた品種の3種類に大別される(掛け合わせトレイトとしては、除草剤耐性GMも組み合わされる)。
現在までのところ、Btトウモロコシに抵抗性を持つ害虫発生の徴候は報告されてはいないが、農薬やBtワタなどの先例からも、いずれはBt抵抗性を持った害虫が誕生することが予想される。これらの発生を妨げるか、延期させることにより、Btトウモロコシの有効性をより長く持続させるために、EPAがBtトウモロコシ栽培農家に求めているのが緩衝帯の設置だ。
Btトウモロコシの畑や隣接地に、一定の割合で非Btトウモロコシを作つけるのが緩衝帯で、ここで生き残ったBtに感受性を持つ害虫は、Bt抵抗性を獲得しつつある害虫と交尾し繁殖することによってBtに感受性を持つ子孫を残す。緩衝帯がなければ、害虫は世代をまたぐうちにBtから生き残った固体同士のみが繁殖し、結局はBt抵抗性を獲得してしまう。
00年1月14日の告示などによりEPAが、Btトウモロコシ栽培農家に対し求めたのはこの緩衝帯を20%設け(つまりBtトウモロコシは80%に栽培される)、Btトウモロコシは緩衝帯から2分の1マイル(約805メートル)以内に栽培し、適切にモニタリングを行うことだ。
米Monsanto社、 米Pioneer Hi-Bred社(米DuPont社)、スイスSyngenta社および 米Dow AgroSciences社などのBtトウモロコシ種子販売元は、各々の顧客農家がこの規則を遵守することを保証する責務がある。各社は協力して栽培農家の調査を毎年実施し、その結果をEPAに報告している。
情報公開法に則り、CSPIはこの調査結果の開示をEPAに求めた。その結果、08年にはBtトウモロコシ栽培農家の約25%が規則を守っていなかったという由々しき結果が明らかにされた、というのがこの報告書の主旨である。
すなわち、コーンボーラー抵抗性トウモロコシを作つけた農家で緩衝帯サイズを守っていた者は78%、距離を守っていた者は88%しかおらず、コーンルートワーム抵抗性トウモロコシでは同じくサイズ74% 距離63%、掛け合わせ品種の場合においても遵守レートは、サイズ72% 距離66%に留まったという。
コーンボーラー抵抗性の場合、03年から06年までは、農家の90%が緩衝帯サイズを遵守していたが、07年は80%、08年に78%に下落し、同様にコーンルートワーム抵抗性でも06年の89%から08年74%に低下し、距離的には63%の農家しか守っていなかった。
この規則遵守の低下傾向は、07年からのトウモロコシの市場価格高騰と無縁ではないと指摘されている。収益性の良いBtトウモロコシを少しでも多く作つけたいという意向が、各農家に働いたであろうことは想像に難くない。
調査する立場のBtトウモロコシ種子開発企業も、もちろんこの遵守低下傾向には気がついており、生産者団体と共に農家に規制遵守を訴える対策をあれこれ施している最中に、CSPI報告書が世に躍り出た。
一方、進化した掛け合わせ品種の場合、緩衝帯設置基準を緩和して農家収益をさらに上げようとするのが最近のトレンドでもあった。例えば、Monsanto社とDow AgroSciences社が協力して開発した6種類の害虫抵抗性と2種類の除草剤耐性を併せ持つSmartStaxの場合、両社は緩衝帯を20%から5%に縮小することをEPAに今年承認させている。CSPI報告書は、これらの動きにも水を差したと言えよう。
この報告書は、規制上のシステムが十分機能していないというEPAへの警鐘であるべきだと、CSPIは主張する。さらに、CSPIはEPA長官に書状を送り、遵守レートが改善されない限りは、Btトウモロコシ種子の承認再登録を凍結すべきだと厳しく具申している。
EPAのスポークスマンは、「EPAとしては、この新しい報告書を慎重に評価し、もし害虫抵抗を妨げるか、もしくは環境保護に必要とされる追加措置をEPAが確認したなら、必要な行動を取るであろう」とのみコメントしている。
経済性を優先し、迅速な承認システムとソフトなGM規制路線を敷いてきた本家米国において、環境規制面に限ってはUSDAも、EPAも、じわじわ追い込まれているような印象を受ける。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)