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GMOワールド

秋の夜の玉蜀黍の焼くるにほいよ

宗谷 敏

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 世界の三大穀物とは、コメ、小麦、そしてトウモロコシと言われている。コメと小麦の遺伝子組み換えは、いろいろ研究は進んでいても実用化には未だ世間の抵抗感が強い。一方、トウモロコシは先進国においては飼料穀物という位置付けからか、一歩お先へという感じである。今週は、そんなトウモロコシの話題を追ってみる。

 三大穀物の世界生産量は、コメ(精米)約4億トン、小麦とトウモロコシは各々6億トン程度である。しかし、2020年にはトウモロコシが、コメと小麦をしのぎ世界のNo.1作物となるだろうと、ISAAA(国際アグリバイオ事業団)のクライブ・ジェームズ会長が11月6日に発表した。
 このためには、遺伝子組み換えされた害虫抵抗性のBt(バチルス・チューリンゲンシス)トウモロコシが重要な役割を果たす。02年に1000万ヘクタール(世界のトウモロコシ栽培面積の7%)に作付されたBtトウモロコシは、世界のトウモロコシ生産量を5%、3500万トン押し上げた。
 今後はこれが、4000万〜4500万ヘクタール(28〜32%)に拡大するだろう。害虫の食害による損失9%、被害額57億ドルがカットされ、さらにこの他に殺虫剤費用5億5000万ドルもカットの対象となる。さらにBtトウモロコシには害虫がつきにくいため、マイコトキシンなどカビ毒の発生が在来種より少ないという食品・飼料安全面から大きな利点がある。
 Btトウモロコシを既に商業栽培している米国では5%、スペインでは6%、アルゼンチン及び南アフリカ共和国では約10%在来種に比べ各々反収が改善されており、試験栽培の行われている諸国でも、中国9〜23%、ブラジル24%及びフィリピン41%の反収増が報告されているという。
参照記事
TITLE:Biotech Corn Can Boost Yields to Help Meet Growing World Food Demands
SOURCE:Yahoo! Finance, Press Release by ISAAA
DATE: Nov. 6, 2003

 折しも11月3日、米国EPA(環境保護庁)が、モンサント社の新しいGMトウモロコシであるイールドガード・プラスに環境安全性に関する認可を与えたとのニュースも伝えられた。これは2種類の害虫に対して同時に抵抗性を併せ持つハイブリッド種子である。
 二つのトレイト(性質)、例えば除草剤耐性と害虫抵抗性を組み合わせることをスタッキングというが、双方が食品安全性承認済みのGM種子を従来の交雑育種で掛け合わせが行われた場合、米国ではこの後代種に対する審査は不要とされている。
 一方、わが国では、そういう場合でも念のために見ておくという考え方らしく、2002年11月6日付厚生労働省医薬食品局食品安全部の「審査継続中の遺伝子組換え食品及び添加物一覧」には「MON810と鞘翅目害虫抵抗性トウモロコシMON863系統を掛け合わせた品種」として、イールドガード・プラスが掲げられている。
 イールドガード・プラスのターゲットは、葉を食べて成長したあと幹に潜り込むコーンボーラー(アワノメイガの幼虫)と、根に食害を与えるコーンルートワーム(ハムシモドキの幼虫、通称根切り虫)である。
 これらの害虫は、農家に甚大な経済的被害を与えてきた。幹などに侵入されると農薬も効きにくい。食害防止と殺虫剤コスト削減が同時に達成でき、さらにカビ毒発生も抑止できるなら、まさに願ったり叶ったりの種子であり、米国農家の期待が高いのも頷ける。参照記事
TITLE:Monsanto Receives EPA Registration for YieldGard® Plus Insect-Protected Corn
SOURCE:Yahoo! Finance, Press Release by Monsanto
DATE: Nov. 3, 2003

 もちろん、ISAAAの描くシナリオ通り途上国の小農家までがBtトウモロコシで潤うというのであれば、それは素晴らしい。しかし、有機・在来農産物との共存するためのクロスポリネーション(交雑)防止などGMトウモロコシにも課題は多い。経済学だけでは割り切れないのがGMワールドの面白くもあり、怖いところでもある。
 一方、アフリカの2億人以上をはじめ、飢えと栄養不良に苦しむ人々が世界に存在することもまた厳然たる事実である。トウモロコシの花言葉は、財宝や富、豊富、同意などを表すという。課題が知恵を出し合って解決され、偏見は科学的説明により乗り越えられ、この新しい技術・作物が必要な同意を得て途上国にも導入され、そこに豊かさをもたらすことを願う。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)