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共存ジグソーパズルへの大きな1ピース–EUの有機農産物統一ルール

宗谷 敏

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 2007年6月12日、ブリュッセルで開催された欧州閣僚理事会において、域内27カ国の農相は有機産品の生産や表示など関する統一新ルールを採択した。ベルギー、ギリシャ、イタリア、ハンガリーなどが反対したにもかかわらず、この新ルールでは有機農産物に対するGMOの意図しない偶発的な、または技術的に不可避な混入率が最高0.9%まで認められた。しかし、環境保護・消費者グループや一部の有機食品業界からは反発の声が上がっている。

参照記事1
TITLE: Accidental GMO content permitted in organic food
SOURCE: EurActiv.com
DATE: June 13, 2007

 先ず、背景を簡単に眺めておこう。ご存じの通り、先進国を中心に有機農産品はブームである。06年の有機農産物国際市場は、300億ユーロ(約5兆円)を超えると言われる。世界の有機栽培面積推計は現在3100万ヘクタールほどに達し、ヨーロッパはそのうちの23%を占め、トップのオーストラリア39%(約1200万ヘクタール)とラテンアメリカ19%に挟まれ第2位にある。

 05年のEU公式統計に基づく25カ国の有機栽培農地は610万ヘクタール、学校給食にまで有機産品を使うイタリアがトップで110万ヘクタール、次いでドイツとスペインが各80万ヘクタール、英国60万ヘクタール、財布のヒモが固い(?)フランスは50万ヘクタールと案外少ない。05年の欧州における有機市場規模は125億ユーロ(約2兆1000億円)だが、10年には215億ユーロ(約3兆6000億円)になると予測されている。

 さて、本題に戻り09年1月から義務化される域内統一有機食品ロゴマークには、有機原材料が少なくとも95%含まれなければならない。統一ロゴと、各国もしくは民間認証機関の有機マークの併記や、非有機食品の成分表への有機成分表示は認められる。有機農業へのGMO使用は一切認められないが、意図しない不可避の混入率(もちろんEU安全性承認済みのGMOに限る)が最高0.9%まで認められたのは上述の通りだ。欧州議会やNGOが要請してきたのは0.1%だったから、この妥協の意味するところは相当大きい。

 ひたすら現実路線を歩む欧州委員会の農業委員Mariann Fischer Boel女史(デンマーク、個人ブログあり)は、この規則は「域内すべての消費者が有機製品を容易に認識し、正確に何を買っているかについての保証を与える手助けとなるだろう」と述べる。また、別の記事で「GM『ゼロトレランス』という言葉は非常に魅力的だが、現実的ではない。農家がより高い純粋性を達成することは、あまりに高価でありすぎる。偶発的混入までも避けることは有機製品の生産価格を押し上げ、市場に完全にダメージを与える結果、有機部門の死を招くだろう」とコメントしている。

 一方、0.1%の閾値を主張してきたFriends of the EarthやGreenpeaceは、これに対し一斉に反発する。「『意図しない偶発的な、または技術的に不可避な』な混入は、慣例的に『受容できる』の意味だと解釈される(筆者注:日本のGM混入閾値5%はこの誤解を招いている)だろう。EUが有機農産物への少量のGM混入が受容できると宣言した今となっては、有機農家が彼らの農作物をGMフリーにしておくことはいよいよ難しいことだと考えだすだろう」

 「欧州共同体委員会と一部加盟国によって決められたGM汚染に対する緩和は、ヨーロッパの消費者の嗜好を無視し、有機部門の全体を危険にさらすかもしれない。実際に、低レベルのGM原材料がすべての有機食物の中に滑り込み始めるかもしれない」そして、この基準が、GM混入に対するGM農家や開発メーカーへの罰則規定などを含む厳しい法案策定の必要性を、決して減じさせるものではないことを強調する。

 既に有機農家からスーパーまでの民間合意により、有機産品へのGM混入閾値を0.1%で運営実施している英国においては、EU規則がどうあれ顧客ニーズに応えるべくこれを遵守すると業界が声明した。しかし、英国有機農業の牙城であるThe Soil Associationは、値上げは避けられそうもないとの悲鳴も同時に上げている。

参照記事2
TITLE: Cost of organic food ’could rise’
SOURCE: BBC
DATE: June 21, 2007

 The Soil Associationの政策担当理事Peter Melchett卿は「消費者へのコストが上がるであろうこと、または消費者の信頼を失い、売上が下がるであろうことのうちのどちらかだ」述べて、畑でのGMコンタミネーション予防措置強化を求め、政府とのロビーイングに入る。

 筆者は、EUの共存農業を柱に据えた最近のGMO政策全般は、なかなかのものではなかったのかと最近見直している。域内各国ベースで成功するかどうかはまだ分からないが、ともかくEUには域内農業の将来にキチンとしたグランドデザインを描く人々がおり、外圧・内からの抵抗を時にはかわし、時には跳ね除けながら、その実現に向けてタイトロープを渡る組織がある。最終的には、個人の責任感に帰結することなのかもしれないが、学ぶべき点も多い。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)