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GMOワールド

ホットな新・冷戦〜欧米の太りにくいアイスクリーム開発合戦

宗谷 敏

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 アイスクリームがおいしい季節だ。しかし、その高脂肪分(日本の乳等省令では乳脂肪分8%以上)や高カロリーを理由に、欧米では二の足を踏む消費者も少なくない。食品メーカーは、このブレークスルーに躍起である。先週もオランダUnilever社の動きが、英国のメディアを中心に注目を集めた。

参照記事1
TITLE: Fishy start for low-fat ice-cream
SOURCE: BBC
DATE: June 26, 2006

参照記事2
TITLE: The GM ice-cream that will keep you as slim as an eel
SOURCE: Times Online, by Valerie Elliott,
DATE: June 26, 2006

 食品メーカーが悩むのは、一般に乳脂肪の含有量が多いほど、アイスクリームの味覚や食感は良いという事実である。これは、低脂肪・低カロリー志向という最近の消費者が好む食品のトレンドとは相容れない。

 そこで注目されてきたのは、北大西洋の低温に耐える深海魚の血液に含まれるたんぱく質(ice structuring protein)だ。このたんぱく質を加えることにより製造過程での氷結温度を下げられるので、最終製品に含まれるクリームや脂肪を減らすことが可能となる。

 Unilever社は、GM技術を利用した酵素で、このたんぱく質を化学合成により人工的に作り出す申請を、英国食品規格庁(the Food Standards Agency)に提出した。同社によれば、この技術は既に米国においてBreyers社により商業利用されている。記事にはないが同社は英国に先立ちこの技術利用を2005年3月、豪州・ニュージーランド食品基準局(FSANZ)にも認めさせている。

 また、このたんぱく質は加工助剤的に使用されるため最終製品へのGM成分残留は微量にすぎないともいう。しかし、GM反対派は神経をとがらす。消費者からは見えない、多国籍企業によるステルスGM技術の推進、トロイの木馬だというのだ。Friends of the Earthは、カロリーを気にする消費者のためには既にシャーベットがあるから、こんなものは不要。もっと健康に良く、自然で、栄養分の高い食品生産のために研究予算を有意義に使え、と怒る。

 ヨーロッパにおいて、低脂肪アイスクリームのシェアはまだ僅か1.5%にすぎない。しかし、Danisco社(後述)などは、これを25%まで拡大が可能な有望市場と見ている。各食品開発メーカーが、技術開発に鎬を削っている理由だ。

参照記事3
TITLE: Unilever fishing for low-fat ice cream
SOURCE: Food Navigator, By Chris Mercer
DATE: June 27, 2006

 マレーシアのGolden Hope社が所有するオランダのUnimills 社は、06年6月19日、バターベースのアイスクリームから飽和脂肪酸レベルを下げる画期的な製造法(詳細不詳)を開発し、06年9月から商品化すると発表した。

 同じく06年6月19日、米国のFMC Biopolymer社も、アイスクリームの脂肪分を5%以下に下げるセルロースベースの新成分を考案したと公表している。この技術は、特許申請中であることも明らかにされた。

 これらに先立つ06年5月19日、ヨーロッパの食品向け機能性素材大手Danisco社は、同社のCREMODAN® IcePro technologyに基づき、脂肪分を1%以下に抑えたアイスクリームの成分開発に成功したとリリースする。好ましくない氷結晶の形成を妨げ、品質保持にも有効という。これら各社の新技術に共通する重要な主張は、アイスクリームの食味に対し一切影響を与えないというものだ。

 なお、わが国のアイスクリームの消費量は、欧米諸国とは比較にならない。(社)日本アイスクリーム協会のホームページにはなかなかためになる「アイスクリームの基礎知識」コーナーがあり、「アイスクリームは太りやすいの?」というQ&Aもあるので、気になる読者は参照頂きたい。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)