GMOワールド
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
1996年に商業化されて以来、Bt作物が非標的昆虫などの生物多様性に及ぼす影響については、盛んに論議が行われてきた。この問題は、環境の持つ固有性や野外における長期実態調査に困難さがつきまとうため、英国政府のFSEs(農場規模評価)など散発的かつ限定的な研究が行われてきただけだった。そんな中、米国Science誌2007年6月8日号に公表された論文が、在来のデータを統合解析した初のメタ分析を試みており、注目されている。
参照記事1
TITLE: Genetically Engineered Crops Could Play A Role In Sustainable Agriculture
SOURCE: Science Daily
DATE: June 7, 2007
この研究は、米国California大学Santa Barbara校のNCEAS(The National Center for Ecological Analysis and Synthesis)が主導し、自然保護NGOのThe Nature ConservancyとSanta Clara大学が協力している。また、安全性承認時に提出される開発企業のデータは一般的に小さなサンプルサイズしか対象とされないため、このギャップを補完する目的でEPA(米国環境保護庁)からの資金提供を受けている。
対象とされたBt作物はワタとトウモロコシで、世界規模でデータベースを検索した結果、米国、インド、中国、オーストラリアおよびヨーロッパにおける42の野外実験からの環境へのインパクトデータが分析された。
このメタ分析の結論は妥当なものである。要するに、殺虫剤を広範囲にスプレーする慣行農法との比較においては、テントウムシのような甲虫類、ミミズやミツバチなどの非標的昆虫の生物多様性は、Bt作物の圃場の方が多く保たれていた。しかし、殺虫剤を全くスプレーしなかった圃場との比較では、逆にBt作物が非標的昆虫にわずかに有害な影響を与えていたというものだ。
「Bt作物が有益な昆虫に影響を与えるかという問いに対する答えは、それと比較する(農法の)タイプに大きく依存する。殺虫剤スプレーと比較すればBt作物は非常に良く思える。しかし、殺虫剤を使用しなかった場合と比べられたら、さらなる調査(例えば、さらに細かく種毎に影響を調べる)を正当づけるある特定の動物グループ(無脊椎動物)の減少が認められる。明確なのはGM作物の利点あるいは不利は、農業生態系の特定のゴールとビジョン次第であるということだろう」という研究者のコメントも納得できる。
総じて米国のメディアは、「GMで持続的農業が可能です!」的なリードだが、日頃からGMに対し辛口の英国Guardian紙は、タイトルこそ「こりゃ参りました」ではあっても、本文はFoE(the Friend of the Earth)のコメントを加えた両論併記にしている。FoEの反論は、いまだに「チョウチョが死んだぁ〜」などと旧弊な情報にしがみつくどこかの国のGM反対運動とは一味違うので、これも貼っておこう。
参照記事2
TITLE: Insecticide study shows GM benefits
SOURCE: Guardian, by James Randerson, science correspondent
DATE: June 7, 2007
FoEの運動員は、メタ分析に対する直接的批判は「フォーカスが狭すぎる」に留めているが、各論で争ったら不利なのでこれは賢明だ。そして、手法的には論点ずらしに出た。「生物多様性に対する主な影響は、農業のモノカルチャー化から起こり、GM作物はモノカルチャーへの移行を助長する」「GM作物に代わる持続可能でかつ環境にフレンドリーな選択肢はすでに存在する」というのが、彼女の主張の要点である。
筆者は、最近のバイオエタノールブームが招いたトウモロコシ栽培面積拡大に傾斜している米国農地のモノカルチャー化が気になっていたので、論点ずらしではあってもこのモノカルチャー化批判は印象に残った。
なお、関連報道全般について付言しておきたいのは、このメタ分析がBt作物に限定されたものなのに、「GM作物」という総論に置き換えて報じたり、論じられたりするべきではないということだ。前述の英国で行われたFSEsでも、除草剤耐性GM作物は、Bt作物に比べ環境に対してあまりいい結果を残していない。
従って、今後増えていく複合Btや除草剤耐性をスタックした場合の環境影響評価やメタ分析も今後の課題だ。反対派は利点を利点として素直に認め、推進派は驕ることなく複雑多岐な環境リスクを謙虚に分析し続けるべきだろう。「エコのエコ知らず」とは、一般には「エコロジストのエコノミー知らず」だとしても「エコノミストのエコロジー知らず」とも読めるのだから。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)