GMOワールド
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
2007年5月3日、米国カリフォルニア北地区連邦地方裁判所は、環境影響評価について政府によるレビューがなされるまで、05年7月に米国農務省(USDA)が承認した除草剤耐性GMアルファルファの商業栽培を全国的に禁止した。対象となったラウンドアップレディアルファルファは、米国Monsanto社が開発し、同Forage Genetics社にライセンスされている。米国において94年にFlavr Savrトマトが始めて承認されて以来、既に商業化されたGM作物の栽培を差し止めた初の司法判断である。
参照記事1
TITLE: Ban on Monsanto genetically modified alfalfa upheld
SOURCE: Reuters, by Jim Christie
DATE: May 3, 2007
参照記事2
TITLE: Judge prohibits planting of genetically engineered alfalfa
SOURCE: AP, by Paul Elias
DATE: May 3, 2007
この裁判(審理整理番号:(r)CR-06-0790)における被告は国(USDA)、共同原告は米国サンフランシスコ在のThe Center for Food Safety(CFS)が代表として立つ複数の消費者グループや有機栽培農家で構成される。USDAに対し環境保護を定めた連邦法に違反したとの裁決を下したのはCharles Breyer判事である。
この裁判の流れは、先ず07年2月13日、USDAに対し環境影響に関する徹底的な試験をせずにGMアルファルファ商業化を許したのは不適当であり違法との事前勧告がなされた。なお、2月6日にはワシントンD.C.途方裁判所で、米国Scotts社の除草剤耐性GMシバに対しても、同様の違法裁定が出されている。GMアルファルファは、3月12日にその栽培を一時的に禁止する措置が命ぜられ、既に購入した種子を保有する農家は3月30日までなら播種を許される過渡的救済措置が取られた。
Breyer判事は、GMアルファルファと慣行栽培の非GMあるいは有機栽培アルファルファとの交雑の可能性について、政府は十分な調査を行わなかったと裁決した。USDAに対しては、より詳細な科学的研究を行うべきだと命じた。USDAの報道官は、これを行う意向を明らかにしているが、最長2年間を要するとコメントしている。
開発メーカー側の2社は、交雑のリスクは低く共存は可能との陳述を行い、除草剤使用を減らしむしろ環境にも優しいと主張して、USDAレビュー期間中の禁止令撤廃を法廷に願いでた。しかしBreyer判事は「慣行・有機栽培農家とGMアルファルファやそれで飼養された家畜製品を購入することを望まない消費者への損害は、2社とGMアルファルファの乗り換えを望む農家の経済的損害より重要だ」と述べ、この議論を拒絶した。
今年、家畜飼料向け作物であるアルファルファの全米栽培面積は、100万エーカーのカリフォルニア州を筆頭に約2100万エーカーであり、GMアルファルファは22万エーカー(約1%強)で栽培されている。Breyer判事の裁決は、GMアルファルファ栽培農家の収穫と76農家がForage Genetics社と契約している種子としての買い戻しは妨げない。しかし、圃場の場所を公開しGMアルファルファが隣接する畑の作物と交雑しないことを保証するよう、また収穫後は速やかに分別するよう命じている。
原告側弁護士は「この危険な農産物栽培への恒久的禁止は環境のために素晴らしい勝利であり、バイオ工学作物規制方法の希望に満ちた転機だ。環境影響研究の必要性にUSDAは目覚めるべきだ」と喜ぶ。久しぶりのGM反対派の得点であることは間違いない。
一方、従来からのGM作物のベネフィットに関する主張のことごとくを相手にされなかったMonsanto社はショックを隠せない。GMアルファルファを栽培してきた農家に対するケアだけでも大変なことだろう。控訴も含めて法律上のオプションを検討中というが、この裁判に関しては当事者(被告)ではないので持ち札は限られるだろう。
米国の裁判は判例主義だから、一度こういう裁決が下されると同様の訴訟が相次ぐ可能性もあり、Monsanto社も深刻にならざるを得ない。但し、Breyer判事は過去の判決を見てもかなり硬骨漢らしいが、仮に栽培面積比率がはるかに高いGMトウモロコシでも同じ裁決を出せたかどうかは疑問だ。
もし、差し迫った製薬植物の商業栽培に対する警告という穿った見方をするなら、製薬植物を避けているMonsanto社が見せしめにされたのは皮肉としか言いようがない。ファストトラックのGM作物承認で産業振興を優先し、明確な共存ルールを定めず当事者に任せてきたUSDAには、ツケが回ってきたとの印象も拭えない。
別の記事にあった有機業界からの「USDAは(開発メーカーの)愛玩犬ではなく番犬たれ」という注文は耳が痛いだろう。環境重視を第一に、先ず面倒な共存論議から入ったEUは、後発の知見的な優位もあるが政策的には案外正しかったのかもしれない。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)