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「転ばぬ先の杖」‐NASの遺伝子組み換え生体封じ込め報告書

宗谷 敏

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 GMOの環境リスクに関連する注目すべき報告書が1月20日、米国において公表された。多くの米国内一般メディアがこれを取り上げたが、高度に専門的な内容と219ページにわたる膨大な分量に圧倒されたのか、読者に誤解を誘発しないような的確かつバラン良く要約がなされている記事は見付けにくかった。

 これは、USDA(米国農務省)からの要請に応じてNAS(国立科学アカデミー)の委員会が取り纏めた “Biological Confinement of Genetically Engineered Organisms”(「遺伝子組換え生体の生物学的封じ込め」)という報告書である。「封じ込め」とは、組み換えられた植物、動物及び微生物が野生に逃げ出し、環境に影響を与えないための措置を指す。

参照記事
TITLE:Integrated, Redundant Approach Best Way to Biologically Confine Genetically Engineered Organisms
SOURCE: INational Academy of Sciences, Immediate Release
DATE: Jan. 20, 2004

 冒頭述べたようにこの内容を的確に要約することは甚だ困難なのだが、まずGMOに封じ込めが必要か否かは(そして必要ならどのようにそれを行うかは)、商品開発の早い段階にケースバイケースで評価されるべきだという指摘がなされている。

 委員長を務めたウィスコンシン大学微生物学部のケント・カーク名誉教授は「封じ込めはほとんどの場合正当化されないが、最悪の事態に対するシナリオやそれらが起こりうる可能性は考慮に入れられるべきだ」という慎重なコメントを出している。

 既存の封じ込めのための技術は、組み換え遺伝子の花粉への転送を抑止する、バクテリアに自殺遺伝子を組み込む、魚に染色体の余分のセットを与える、あるいは昆虫に放射能照射して不妊を誘発するなど様々提案されている。

 しかしながら、これらはまだ研究開発の初期段階にあり、実験的な試用も行われていないため完全に有効な解決手段とは考えられない。従って開発者は失敗の確率を下げるために一つ以上の方法を考慮すべきである。

 食糧供給から切り離されるべき製薬やその他の化学物質を生産する場合は、非食品用生体を用いて生産されるべきであるとの指摘もなされている。

 GMOの評価は透明性を確保し、その結果は一般大衆が入手可能であるべきで、さらにGMOは国境を越えるため、それらを統制するための国際的協力が必要とされる。また、人為的ミスの可能性も考慮に入れられるべきである。

 以上が報告書の概要だが、科学自体がニュートラルであるように、科学に立脚した報告書もまた中立的である。報告書はスーパー雑草が生まれるリスクを否定していないし、組み換えサケが自然界に逃げ出した場合のリスクも重要視する。

 なお、NASから2日遅れの1月22日、ワシントンDCを本拠とする非営利調査機関のポウ食品バイオテクノロジー研究所(Pew Initiative on Food and Biotechnology)から、もう一つの報告書が公表された。

 こちらは、「様々な有益な目的のために遺伝子組み換え昆虫が開発されつつあるが、政府は環境安全性を確保するための規制に明確なフレームワークを欠く」という内容である。ポウ研究所は、先に遺伝子組換え食品の上市後に発生する問題に対する政府の監視(アフターモニタリング)は不十分などとする報告書を公表(03年4月25日)している。

参照記事
TITLE:New Report Finds Genetically Modified Insects May Offer Public Health and Agricultural Benefits, But Clear Regulatory Oversight Is Lacking
SOURCE: The Pew Initiative on Food and Biotechnology, Immediate Release
DATE: Jan. 22, 2004

 そして、絶妙のタイミングというべきなのだろうか、1月22日USDAは遺伝子組み換え食品の認可にかかわる規制を見直し中であると発表した。現在の比較的リスクが低い食用植物から、製薬や化学製品生産を目的とした植物利用などバイオ工学の進展に対応した規制強化に向けての姿勢を明確にしたものと考えられる。

参照記事
TITLE:USDA revamps policies on biotech fruits, vegetables and grains
SOURCE: TUSA TODAY, by Elizabeth Weise,
DATE: Jan. 22, 2004
(GMOウオッチャー 宗谷 敏)