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GMOワールド

飢えを救うかそれとも幻想か〜ISAAAとFOEの報告書

宗谷 敏

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 毎年世界のバイテク農作物商業栽培面積を調査しているISAAA(国際アグリバイオ事業団)から、2005年の調査結果が1月11日に公表された。一方、GM反対派からはこれにぶつける形でFOE(地球の友)から、途上国に役立たずのGM作物という報告書が1月10日発表された。

参照記事1
TITLE: Global Status of Commercialized Biotech/GM Crops: 2005(Executive summary)
SOURCE: The International Service for the Acquisition of Agri-biotech Applications
DATE: Jan. 11, 2006

 バイテク農作物の世界全体の商業栽培面積は、昨04年の8100万ha(2億エーカー)から11%増加し、9000万ha(2億2200万エーカー)に達した。10年連続二桁台の伸びながら成長率がやや鈍化した(03年15%、04年20%)のは、例えば耐干魃性などの新しいトレイトの商業化がなかったことや、現在の商品構成による北米などでの栽培面積が飽和状態であることが指摘されよう。

 バイテク農作物商業栽培国は、昨年の17カ国から21カ国に増えた。新参国は、フランス、ポルトガル、チェコ共和国(いずれもトウモロコシ)およびイラン(イネ)である。国別の栽培面積では、米国の4980万ha(1億2360万エーカー、総面積の55%)を筆頭に、アルゼンチン、ブラジル、カナダ、中国がこれに続く。栽培国の中で、高い伸び率を示したのはブラジルの1.9倍(04年500万haから940万haへ)とインドの2.6倍(04年50万haから130万haへ)であった

 商品別では、ダイズが全バイテク作物栽培面積の60%を占める5440万ha、トウモロコシ24% の2120万ha、ワタ11% の980万ha、ナタネ5% の460万haとなった。トレイト別では、除草剤耐性が71%の6370万ha(成長率9%)、害虫抵抗性が18%の6370万ha(成長率4%)を占め、複数のトレイトを併せ持つスタックは、11%の1010万ha(成長率49%)であった。

 バイテク農作物を作付けた農家は、21カ国850万人(04年度は17カ国825万人)であったが、その90%に相当する770万人は、中国(640万人)やインド(100万人)に代表される7つの発展途上国の農家であったという。

 一方、これに対立するGM反対派からの報告書は、The Africa Centre for Biosafety(南アフリカ共和国在)とFriends of the Earth Nigeriaによって準備され、Friends of the Earth International(英国)からリリースされた。

参照記事2
TITLE: ten years of genetically modified crops failed to deliver the promises made by biotech giants(Press Releases)
参照記事3
TITLE: Who benefits from GM crops(Executive summary)
SOURCE: Friends of the Earth International
DATE: Jan. 10, 2005

 「バイテク産業の約束にもかかわらず、この10年現実的にはGM農作物の安全性が保証されておらず、GM農作物はより安くも、そしてより良い品質でもない。バイテク農作物は、アフリカで、あるいは他のどこでも飢餓を解決するために有効ではない。

 Monsanto社などのゴリ押しによって、今まで限定的な国々において商業化されたGM農作物は、食糧のためにではなく動物飼料になり、何一つ飢えと貧乏を扱うために導入されなかった。南アフリカのGMワタ栽培は、農民問題を解決せずかえって負債を増やした。ケニアを救うはずのGMサツマイモの試験栽培は目覚ましい結果を示していない。

 米国では、農薬の使用量が増加しており、南米でのダイズ増産は環境破壊の一因になっており、そして土壌品質の劣化と土壌侵食とに関係する。10年のGM作物栽培面積の80%以上が、米国、アルゼンチンおよびカナダの3国に集中している。」

 上記の要約には示せなかったが、開発メーカーの新規パイプライン枯渇など、部分的にはなかなかいいことも言っているのだが、あまりに感情的な全体的トーンとMonsanto社憎しの私怨が、報告書の価値を下げている。一切を認めないという、反対派が陥り易い陥穽だ。

 ISAAAを主催するClive James博士も、次の10年はこの10年に見られるようなバイテク農作物の劇的な面積拡大はないだろうと予測する。人口問題を抱える途上国におけるバイテク農作物採用と軟化傾向のヨーロッパ諸国の動向、イランで開始され中国が期待されるGMイネの商業栽培、掛け声ばかりで推移してきた新規トレイト開発などに今年は注目していきたい。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)