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WTOのGMO裁定せまり、報復措置回避に努力〜欧州委員会

宗谷 敏

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 年末・年始は休載日が多く、なかなか記事をフォローできないのだが、今週はEUをまとめておきたい。延期に延期を重ねるWTOのGMOパネル予備裁定が今春の鍵だが、欧州委員会の努力もあり、延びれば延びるほどEU側に有利に働くことは間違いないだろう。

<GMO承認関係>
 2005年12月2日MON863xMON810の輸入および飼料・工業利用の合意に失敗した環境閣僚会議に続き、12月20日、GMトウモロコシ1507系統の輸入および食品利用について審議した農業閣僚会議も、同様に合意に失敗した。

 1507系統は、DuPont社の子会社Pioneer Hi-Bred International社とDow AgroSciences社ユニットのMycogen seeds社との共同開発によるチョウ目抵抗性と除草剤耐性を併せ持つタイプであり、輸入および飼料・工業利用は欧州委員会により11月3日既に承認済みである。

 一方06年1月13日、欧州委員会は、GA21、MON863およびMON863 x MON810のGMトウモロコシ3系統にまとめて承認を与えた。GA21およびMON863は食品利用、MON863 x MON810は飼料・工業利用に対する認可であり、いずれも今後10年間有効である。

 除草剤(グリフォサート)耐性のGA21は、Monsanto社の開発だが、EUでの認可申請はこのトレートの使用を巡り米国においてMonsanto社と現在も係争中のスイスSyngenta社から提出されていた。

 コウチュウ目害虫(コーンルートワーム)抵抗性トウモロコシMON863およびコウチュウ目およびチョウ目(ヨーロッパコーンボウラー)抵抗性をスタックしたハイブリッドタイプのMON863xMON810は、開発・申請ともMonsanto社である。なお、これら2系統はRat Studyを巡り物議を醸した系統でもある。

<有機農産物表示規則案>
 12月21日、欧州委員会は、0.9%までGMOの意図せざる混入を認める有機農産物表示案を採択 し、農業閣僚会議に提案する模様であると伝えられた。施行は09年1月1日が予定されるが、Friend of the Earthなど反GM環境保護団体がゼロ・トレランスに固執して一斉に反発する中、うるさ型の英国土壌協会がGM混入率を0.1%までにするべきと、現実路線に転じた主張をし始めたことが注目される。

<不服従加盟国への対応>
 欧州委員会は、ドイツとフランスに対し最終的な警告の書簡を送った。これは両国が04年の欧州裁判所判決に従わず、02年10月17日までになされていなければならないGMOの新環境放出指令(Directive 2001/18/EC)に即した国内法整備が、「部分的にしか行われていない」という理由による。

 さらに1月10日に至り、欧州委員会はギリシャに対しMON810系統の禁止を解除するよう命令する。Monsanto社のチョウ目害虫抵抗性トウモロコシMON810系統は、04年9月8日欧州域内での栽培が認められる共通種子カタログにGMOとして始めて登録されたが、ギリシャは予防原則を理由にそれらの栽培・種子の市場流通を禁止していたためだ。

 なお、欧州委員会は05年4月26日、域内承認済みの食用・飼料用GMO26品種に対し禁止措置や法的制限を継続しているオーストリア、ドイツ、ルクセンブルグ、フランスおよびギリシャに警告を発している。

<WTOのGMOパネル予備裁定>
 GMO認可を急ぎ、不服従の加盟国に強制措置を採る欧州委員会は、03年5月12日に米国、カナダ、アルゼンチンからなされたGMO提訴の、WTOパネル予備裁定を当然視野に入れている。

 欧州委員会の必死のセービングもあり、EUのGM規制政策はそのまま認められるとの観測 もある。したがって争点は、加盟各国単位のGMO受け入れ拒否に移ってきているようだ。05年3月以来、何回にもわたり延期されてきた予備裁定は、メディアは伝えるところ3月に公表されるようで注目を集めている。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)