GMOワールド
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
7月24日のGuardian紙をはじめ、翌25日の英国国内一般紙のほとんどが、GMナタネ試験圃場で遺伝子転送(ジーンフロー)によるスーパー雑草が国内で始めて発見されたと報じた。今回はこの報道を検証してみる。
参照記事1
TITLE: GM crops created superweed, say scientists
SOURCE: Guardian, by Paul Brown
DATE: July 24, 2005
まずは火元のGuardianから。3年間にわたる英国政府のFSEs(Farm Scale Evaluation:農場規模評価)については、以前書いたから重複を避けるが、この評価作業の一環としてBayer社の除草剤耐性GMナタネと近縁種との交雑繁殖可能性についても調査が行われた。DEFRA(Depertment for Environment Food and Rural Affairs: 環境・食料・農村地域省)の委託を受けて調査を実施したのは、ドーセット在のCEH(the Centre for Ecology and Hydrology:生態学及び水文学センター)。
その結果、従来否定的だった近縁種への除草剤耐性遺伝子移行が発見された、さあ大変!というのが記事の概要である。それほどの事件ではない、という説も含めて複数の科学者がコメントしているが、取りあえずGuardian はおいておき、DEFRAから公表された報告書自体を見てみよう。
00年春から02年秋まで調査が行われた試験圃場は28カ所、半分ずつGMと在来ナタネを栽培、春捲きが18カ所、冬捲きが10カ所である。調査対象となったアブラナ科の近縁種は7種類、即ちカブ(Brassica rapa)、 キャベツ(B. oleracea)、クロガラシ(B. nigra)のアブラナ(Brassica)属3種とノハラガラシ(Sinapis Arvensis)およびシロガラシ(S. alb)のシロガラシ(Sinapis)属2種並びセイヨウダイコン(Raphanus raphanistrum)およびハマダイコン(R. sativus)のダイコン(Raphanus)属2種である。もちろんGMナタネは、アブラナ科アブラナ(Brassica)属のセイヨウナタネ(Brassica napus)だ。
毎年上記7種の近縁種を圃場から採取し、のべ9万5459本の植物体苗を温室で発芽させて非選択制除草剤グルフォシネートを散布したところ3個体のBrassica rapaが除草剤耐性を示した。うち2個体がPCR検査でも陽性反応を示した。従来からBrassica napusとBrassica rapaは環境条件が整えば交雑しうることが知られており、これに不思議はない。
しかし、圃場試験終了後の翌年、圃場にグルフォシネートを散布したところ、非組み換えBrassica napusの圃場から、枯れないSinapis Arvensisが見いだされた。これをPCR検査した結果、除草剤耐性遺伝子が確認された。この個体は3つしかサヤを持たず得られた8つの種子も全て不稔であった。
この結果をもって、GM反対派である環境保護団体Friends of the Earthなどが、英国農業生産に対する重大な脅威となるかもしれないスーパー雑草の存在が明らかになったと一般メディアを煽っているのだ。しかし、同じ一般紙の中でもBBCの書きぶりはもっと冷静だ。
参照記事2
TITLE: Scientists play down ’superweed’
SOURCE: BBC
DATE: July 25, 2005
調査を実施したCEHの科学者自身が、これは環境問題ではなく、農家の管理の問題にすぎないとクールだし、政府アドバイザーに至っては、PCR検査時のGM花粉付着による擬陽性や偶々自然界で除草剤耐性を獲得したノハラガラシであった可能性も否定し得ないし、たとえ交雑の結果であったとしても自然淘汰が働く自然界で蔓延する可能性はないとコメントしている。英国のバイオ企業連合体であるABC(Agricultural Biotechnology Council) も実リスクはないとのリリースを出した。
セイヨウナタネと野性近縁種とは交雑の可能性があり、しかしそれは極めて稀にしか起こらないということは、実は既知の事象である。99年3月のOECD Observer誌は、「セイヨウアブラナの栽培種は野性同類種と交雑繁殖する能力があるが、分布には差異があり、潜在的環境影響も場所によって異なるので、安全性評価は各国の規制当局に実施責任がある。」とのOECD合意文書の存在に既に触れている。
GMナタネ大国カナダでも、03年8月に公表された調査結果から、セイヨウナタネから野性近縁種への遺伝子転送の蓋然性を、<2-5 x 10(-5)と見積もっている。今回の英国の結果が交雑だったとしても、その可能性は計算上0.00021%にすぎない。カナダナタネ協会(Canola Council of Canada)の研究者も、野性のスーパー雑草が見つかったという報告は皆無だと先月述べていた。こうして、スーパー雑草発見とは、煽られた一部一般紙の過剰反応による「神話」だったという裏ストリーが浮かび上がって来るのだ。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)