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APへの視点〜カナダのワークショップとCodexバイテク特別部会

宗谷 敏

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 AP-Adventitious Presenceとは、「食用農産物に対するGM原料物質の偶発的な、技術的には不可避の混在」と定義される。日本のGM食品表示制度上でいう「意図せざる混入」に近い。GM農産物を巡る国際貿易の視点からは、現実的な全体合意形成が必要と考えられている課題の一つだ。

 去る2月4日、カナダのオタワにおいてAPに関するワークショップが開催された。このイベントはカナダ政府が主催(AAFC:カナダ農務・農産食品省とCFIA:カナダ食品検査局の共催)し、カナダ国内のほぼ全てのステークホルダーがこれに参加した。カナダ国外からの参加は米国、メキシコ、英国に限定されている。8月3日、この会議のログがCFIAのサイトに公表された。

参照記事1
TITLE: Workshop on Adventitious Presence with emphasis on events approved in both Canada and its export markets
SOURCE: Canadian Food Inspection Agency
DATE: Aug. 3, 2005

 この会議のためにカナダ政府が用意したバックグラウンドペーパーは、APについて考察するためになかなかよくまとまったものだ。

参照記事2
TITLE: Background Paper for Workshop on Adventitious Presence with emphasis on events approved in both Canada and its export markets
SOURCE: Agriculture and Agri-Food Canada and the Canadian Food Inspection Agency
DATE: Feb. 4, 2005

 一言にAPと言っても、混在するGMの様態によってそれは4つにカテゴライズされる。つまり、(1)輸出国(生産国)承認済み/輸入国承認済み (2)輸出国承認済み/輸入国未承認 (3)輸出国未承認済/輸入国承認済み (4)輸出国未承認/輸入国未承認である。このワークショップで論じられたのは、もっとも穏健な(1)に関してのみだ。

 APの起こる可能性がある場所として、(1)種子生産 (2)播種と栽培 (3)収穫 (4)農場における貯蔵とハンドリング (5)(生産国)国内輸送 (6)穀物エレベーター (7)受け渡し地点 (8)運搬船 (9)前荷などのクリーニング不足 等が挙げられている。当然ながら、IPハンドリングのクリティカルポイントとは見事に一致している。

 このワークショップは、GM農産物の生産・流通・輸出などに係わる各セクターが、問題点の実情を正確に把握・整理し、セクター毎にAPを軽減するための方策を模索するのが目的だったようだが、一挙に有効な結論が得られた訳ではない。

 ところで話は飛ぶが、来る9月19日〜23日、千葉県の幕張メッセにおいて、Codex委員会バイオテクノロジー応用食品特別部会(CTFBT)第5回会議が開催される。

 Codex総会の意向なども踏まえて議長国である日本から提案された主要議題は、(1)GM掛け合わせ(スタッキング)植物由来食品の安全性評価 (2)GM栄養改善植物由来食品の安全性評価 (3)食用GMサカナの安全性評価の3点となっており、APに関する問題提起は特に見当たらない。

 しかしながら、各国から寄せられたコメントを眺めてみると、米国及びBIO(バイオ産業協会)、ブラジル、オーストラリア、欧州委員会などが、温度の差こそあれAPに言及し、米国などはCTFBTの議題に採りあげられることを熱望している。一方、CI(国際消費者機構)などのNGOは、これに反対の立場を取る。

 APを認める何らかの国際的合意形成を狙う米国などに対し、CIは本件が基本的に科学的食品安全性の問題ではなく法律問題だからCTFBTにはなじまないし、こういう場合のGM混入はゼロトレランス、いかなる閾値もそこにはあり得ないというのだ。

 Codex委員会の他の部会へ振ることも含めて、本件の扱いにCTFBTがどのような結論を出すかは現在分からないが、米国などから発議された場合妥協点を見いだすのが難しい、やっかいな案件ではあることは間違いない。しかし、穀物輸入大国でもあり、StarLinkやBt10の問題で苦慮した経験を持つ日本にとって、当面二国間協議で済ますにしても避けては通れない課題であることもまた事実だ。

 この課題が、既にそこに存在することは間違いないし、GM栽培国や面積が増加する中で放置先送りすれば、国際貿易上の要らざる混乱や食品業界の経済的損失を招く懸念もある。せっかくの機会である幕張CTFBTにおいて、各国・各組織の関係者はポジショントークのみに終始せずに、取りあえず論点整理だけでもいいから解決に向けて何らかの努力をして欲しいというのが、筆者の希望である。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)