GMOワールド
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
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さる3月2日、カリフォルニア州メンドシノ郡における住民投票が全米初のGM動・植物の生産禁止令を成立させて(3月2日付拙稿参照)から8カ月後の11月2日、同州4郡で類似の措置を求める法案の住民投票が実施された。ドミノ倒しになるかと注目を集めた結果は、1郡のみがメンドシノ郡に続き、残る3郡の住民はGM栽培禁止令を拒否した。
参照記事1TITLE: Just one Calif. county votes in ban on gen-mod crops
SOURCE: AP, by Paul Elias
DATE: Nov. 3, 2004
4郡のうちマリン郡のみが61% 対 39%(ちなみにメンドシノ郡では57%対43%)でGM栽培禁止令を支持したが、フンボルド郡は35% 対65%、ビュート郡は39% 対 61%、サンルイスオビスポ郡も41% 対 59%でGM栽培禁止令は支持を得られなかった。
米国の住民投票制度には、地方議会などが承認した議案を住民が審査するレファレンダムと、必要な署名を集めた一部の住民が発議した法案の可否を住民全体投票にかけるイニシャティブがある。今回4郡で争われたのはいずれもイニシャティブであり、発議した側に回ったのはメンドシノ郡の場合と同様、主に有機農業・農産品に関係する人々であった。
マリン郡においても郡農務局の関係者は、郡内でGM農産物は栽培されておらず、この法案は存在しない問題を扱っている、将来的に雑草や害虫と戦う郡の能力を妨げる可能性さえある、とこの結果に対し冷淡だ。スーパーバイザーも、住民からの違反の訴えには対応するが、違反者を積極的に捜すことはしないと述べている。
ビュート郡と共に一部の農家が既に除草剤耐性GMトウモロコシを栽培しているフンボルド郡では、投票前から結果は明白だったらしい。法令案が生物学的に不正確な記述を含んでおり、罰則も少額の罰金を予定していた他の3郡に比べ不当に重いものだったので、投票前から住民や農家からの支持を失っていたためである。
メンドシノ郡の時に法案阻止に62万ドル以上を注ぎ込んだと噂された開発企業などのGM推進派は、今回静観する立場に回った。個々の地方行政単位で地上戦を争うよりも、国政や州のレベルで空中戦に持ち込んだ方が有利との判断が働いているからだ。
1勝3敗に終わったGM反対派もそれ程悲観的ではないらしい。ソノマ郡やアラメダ郡を含む他のカリフォルニア州諸郡やアルカタ市などの市のレベルでもGM栽培禁止に向けた住民投票の動きがあるからだ。マリン郡やメンドシノ郡を橋頭堡に州全体のGM禁止令を成立させるのが彼らの希望である。
さて、カリフォルニア州3郡がGM作物の栽培を地域の農家の判断に委ねる決定を下したのと同じ日、日本の「毎日新聞」に瞠目すべき記事が掲載された。
参照記事2
TITLE: 遺伝子組み換え作物への不安-自治体の規制は逆効果–「栽培特区」設け検証を
SOURCE: 毎日新聞(記者の目-小島正美)
DATE: 2004年11月2日
この記事を書かれた小島正美氏の主張は、GM作物のリスクとベネフィットを検証し、それらの情報を国民に公開して行くことが必要だとする極めてバランスの取れた内容である。GM論争を報じる日本のメディアの姿勢も、ようやくここまで成熟したのか思うと感慨深い。
しかるに、小島氏は一部の反対派から「なぜ化け物を擁護する」とか、「一方的な内容でジャーナリストとして許されない」などというバッシングにあっているという。幼児性すら感じさせる感情的な批判は不毛であろう。
塩野七生氏は「ローマ人の物語」でこう述べている。「平衡感覚とは、互いに矛盾する両極にあることの、中間点に腰をすえることではないと思う。両極の間の行き来をくり返しつつ、しばしば一方の極に接近する場合もありつつ、問題の解決により適した一点を探し求めるという、永遠の移動行為ではなかろうか」(GMOウオッチャー 宗谷 敏)