科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

GMOワールド

タイのGMパパイア事件が象徴するGM反対運動の衰退

宗谷 敏

キーワード:

 ちょうど1カ月前の2004年7月27日、タイのグリーンピースは地方農場のパパイアを調べたところ、サンプルの一つがGMパパイアだったと発表した。耐病性GMパパイアを隔離試験栽培していた付近の国営農事試験場から販売された種子に混じっていたらしいという政府に対する告発である。

参照記事1
TITLE: Greenpeace accuses Thai government of selling illegal GM seeds
SOURCE: AFP
DATE: July 27, 2004
 仮に数年前であったなら、タイ政府はかなり窮地に追い込まれていたかもしれない。しかし、この種のニュースに対する慣れもあるのだろうが、当事者のグリーンピース以外メディアもたいして盛り上がらなかった。そして、04年8月20日には全国バイオテクノロジー政策委員会の議長としてのタクシン首相から、グリーンピースが憤死してしまいそうな発言が続く。
参照記事2
TITLE: Thais lift ban on GMO planting, will regulate trials
SOURCE: Reuters, by Nopporn Wong-Anan
DATE: Aug. 22, 2004
 「王国内のGM食品商業化に向けてキーステップとなる野外試験栽培が許されるだろう」「我々はGM作物を開発する能力を持っており、もし今この科学的な列車に乗り遅れるなら、世界の中で取り残されるだろう」。新しいバイオセーフティに関する立法により、3年間モラトリアム(禁止)にあったGM野外試験栽培を許可するというのである。
 タイは日本と同じ閾(いき)値を5%とするGM食品表示規則も既に持っており、制度的にはかなり充実している(GM食品表示規則は現在35カ国が有すると言われる)。バイテク開発に関しては、既に02年12月、GMトウモロコシに商業栽培認可を与えたフィリピンが当面のライバルである。タイに対しては、反対派が主張する米国からの圧力はもちろんあったろうし、記事でも触れられている通りEUのGMモラトリアム解禁へ向けた動きがフォローの風になっていることも間違いないだろう。
 飢えまたは栄養失調で6秒間に1人が死んでいるこの世界の現実は重い。アフリカにおいてもケニヤやウガンダを中心にGMO利用に向けて活発な動きがある。インドや中国は当然として、豪州も含めたアジア太平洋各国政府も決して無関心ではありえず、一方GM反対運動は効果が頭打ちで方針転換を余儀なくされつつあることを、04年8月27日付のAFPが伝えている。
参照記事3
TITLE: Asia heads towards use of GMO foods, despite activist protests
SOURCE: AFP
DATE: Aug. 27, 2004
 ひるがえって我が国の状況はどうか。このところGM試験栽培などに過剰気味な規制を課そうとする地方自治体は、近隣アジア諸国を含め広く世界の情勢に目を向けるべきである。また、国は概念にすぎないゼロトレランスに捕らわれることなく、GMと有機も含めた非GMとの栽培共存に対するルールを早急に決めるべきだろう。GMへの賛否を問わず営農者が困惑し、地方自治体が混乱するのは国がキチンとルールを決めていないからではないのか。農産物ばかりか播種用種子までも輸入に依存する我が国の現実に見て見ぬフリを通すのは明らかに行政の怠慢である。
 昨年11月、GM大豆を主原料とする納豆が市販され大きく報道された。ところが、あれほど熱心にGM食品の安全性に疑義を唱え続けてきた反対派の方たちのうち、「危険だから販売を即刻中止しろ」などと正面切って主張した人は一人もいなかった。筆者が目にしたのは、極めて商売がお上手なNGOの代表者の方からの「売れますかね?」という友情溢れる(?)忠告のみ。GM食品リスク論争は既に終わったという識者の指摘を裏付ける結果であった。
 しかし、これでは運動に資金カンパしてきた人たちに対し不誠実ではないか。結局、消費者を守ろうというのはただのお題目に過ぎず、職業的反対者による自己満足的な運動でしかなかったのか。さんざん担いできた一部メディア共々、今更ながらあきれたものである。「キャンペーン」と称するものは一切信用しないと書かれた故・山本夏彦翁の慧眼恐るべし。そういう態度では、食品リスクに比べただでさえ一般消費者の関心が薄い環境リスクが攻めどころではあっても、もはや誰もついてはこないだろう。他人事ながらちょっと心配である。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)