GMOワールド
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
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ムスタッシュ髭にパイプのフランス農民ジョゼ・ボベ氏は、GMOワールドでもすっかり有名人である。1999年のマクドナルドの店舗襲撃と97年から何回にも及ぶGMO試験圃場破壊活動により03年2月、禁固10カ月の実刑に服すもなんのその、反グローバリゼーションの旗手、アンチGMOの広告塔として、その過激な行動によりしばしば国内外のメディアをにぎわせてきた。
そのボベ氏が率いる「刈り取りボランティア隊」や「緑の党」の活動家たちは、04年7月25日南部トゥールーズ近郊で試験栽培されていた約1ヘクタール分のGMトウモロコシをまたも引き抜いた(04.07.25.AFPなど)。「国民の70%が反対しているから、政府は態度を変えるべきである」というのが、彼らが主張する違法な抗議行動の論拠である。
この破壊活動に先立つ7月9日、パリでは約400のブランドワイン生産者団体を擁する連合組織「世界の大地とワイン」も、「長年にわたり培われてきた個々のブドウ畑の多様性を損なう恐れがある」として、ブドウ樹や酵母へのGM技術使用に反対する声明を出した(04.07.09.APなど)。
以上2つの出来事は、日本でも報道がなされており、GMOに徹底抵抗するEU農業国の雄フランスのイメージを強固なものにしている。しかし、このような軋轢(あつれき)が生まれる背景には、農業立国としてGMOなど新技術で米国に遅れを取りたくない政府の国策や推進派グループの活動が、実は着々と進んでいる事実を見逃すべきではない。
フランス政府は、5月19日の欧州委員会のGMモラトリアム解除(04年5月24日付拙稿参照)に歩調を合わせて、04年度のGM(トウモロコシ)試験栽培プログラムを公表した(04.06.01. Reuters など)。これに先だって政府は、パブリックコメントや電子会議等一連の「民主的手続き」を実施している。
さらに7月23日には、政府機関のフランス食品安全庁(AFSSS: the French food security agency)から、トウモロコシ、コメ及びシュガービートなどを対象とした調査の結果、留保付きながら一部GMOのメリットを強調した報告書が公表された。ごく簡単に言ってしまえば、害虫抵抗性作物には殺虫剤とマイコトキシンレベルの低減というメリットがあるが、一方で除草剤耐性作物には際だったメリットは認められないとしている。
参照記事
TITLE:Hesitant Vindication of Transgenic Crops
SOURCE:PS, by Julio Godoy
DATE: July 19,2004
引用記事では、「ル・モンド」紙の記者からこのレポートに対し突っ込まれた研究チーム長が「理論上GMOにはメリットの可能性があるが、決定的に証明されてはいない」「(だから)研究継続は不可欠である」などと慎重な言い回しを余儀なくされている。社会情勢を慮り世論を徒に刺激しないために、政府として現段階では後段のコメントさえ認められれば十分なのだ。
政府が公表したGMO試験圃場は、15地域、48区画、計7.3ヘクタール存在するらしい。危機感を強めたボベ氏らの「刈り取りボランティア隊」は、今度は8月14日、南西部マルサ近郊の試験圃場を荒しに現れた。しかし、ここで彼らは新たに敵対するグループと遭遇することとなる。
参照記事
TITLE: Rival group in GM controversy clash in French maize field
SOURCE: Independent, by Alex Duval Smith
DATE: July 17,2004
この日初めて「刈り取りボランティア隊」と畑で対峙したのは、名称からして対抗心剥き出しの「GMO試験に賛成する農民と研究者のボランティア」で、リーダーは開発企業Biogemma社の常務取締役である。両派は小競り合いの結果、警察の介入を招き逮捕者も出た。
先の「世界の大地とワイン」に関する報道からは意外なことが、この記事の3パラ目には書かれている。「数週間前、あの保守的なフランスのワイン生産業界さえも、GMO の利益の潜在的可能性に対し寛容な心を持つことを望むと発表した」。
「保守的な」フランスワイン業界は、実はピンチにある。醸造学のトップとして長年君臨してきたボルドーは、ナパ郡など米国のカリフォルニア州にその座を明け渡して久しい。チリ、オーストラリアや南アフリカの追い上げも急だ。隣国スペインもカナダと協力してブドウのゲノム解析に取り組んでいる(04.05.07.The Scientist)。ブラジルも高品質なワイン市場参入に虎視眈々である(04.06.25. Reuters)。
このような背景を眺めれば、殿様商売が可能な一部ブランドワインのメーカーからの抵抗を除いて、業界の技術革新への焦燥感は十分伺えるだろう。世論や業界の反対から99年に一旦は中止に追い込まれた国立農学研究所(INRA:Institute National de la Recherche Agronomique)のアルザスにおけるウィルス抵抗性GMブドウの研究も、その再開が検討されているという。
参照記事
TITLE: French Plans to Test Genetically Modified Vines Prompt Outcry From Many European Winemakers
SOURCE: Wine Spectator, by Per-Henrik Mansson
DATE: July 17,2004
「世論が現象を阻止できないという風向きになって来ているように思われる」(04.08.20.Cordis)。04年5月24日付拙稿において、フランスに関してはGMOリスクを過大に懸念している農家への政府を中心とした啓蒙普及が行われれば、思わぬ大逆転もあり得るという見方を示したが、「GMO?あれは酸っぱいブドウだから・・・」と決して諦めない政府のシナリオは、着々と描かれつつあるようだ。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)
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