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GMOワールド

カフェイン減らしあいのコーヒー・ルンバ

宗谷 敏

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 コーヒーについて書いてみたいと思ったことが何度かある。GMOに関連するコーヒーの話題は、実はそれほど多くはないが、いずれもなかなか面白いからである。例えば2004年8月10日付けのロイターは、ブラジル政府が2年あまりにおよぶ研究の結果、コーヒーのDNAマップを開発したことを伝えている。

参照記事1
TITLE: Brazil Maps Coffee Genome to Create “Super Beans”
SOURCE: Reuters, by Andrew Hay
DATE: Aug. 10, 2004

 このDNAマップを利用した、世界最大を誇るコーヒーの遺伝子データベースには、20万ものDNAシーケンスと、異なるアロマやカフェインレベル決定に関わる35万の遺伝子情報が含まれる。これを基に、生産者、国内消費者、輸出先国の誰もが満足する「スーパーコーヒー」を開発すると、関係者は意気盛んである。詳細は、東京穀物市況調査会(簡単な初期登録要)の訳文を参照願いたい。
 ところで日本ではあまり目立たないが、海外ではサンカ、デカフェなどと呼ばれるカフェインレスコーヒーの需要は、全コーヒー消費量の約10%を占める。現在の、豆からカフェインを抜く工程では、複雑微妙なアロマを出す成分のほとんども同時に破壊されてしまうのが泣きどころである。
 この問題を解決し、製造コストも下げるために最初からカフェインの少ないコーヒー豆をGM技術で作ろうとする試みが、数年前から英国のグラスゴー大学などを中心に研究されてきた。そして、日本の研究者たちが始めてその開発に成功したという話題が03年6月19日の「ネーチャー」に発表された。
参照記事2
TITLE: Genetically Modified Decaffeinated Coffee Plants Produced
SOURCE: Reuters, by Patricia Reaney
DATE: Jun. 19, 2003
 開発されたのは、カフェインレスコーヒーの木であり、実際に実がなるのは4、5年先だという。1901年に遡るインスタントコーヒーの発明も米国在住の日本人だったそうで、「田村でも金、谷でも金」ではないが、日本もなかなか頑張るなあと思っていた。
 ところが、である。ちょうど1年後の04年6月24日、今度はブラジルの科学者たちが最初からカフェインを含まない天然のコーヒーの木を発見したと同じ「ネーチャー」に発表した。この野生の木と商業種を交雑育種により交配し、非GMのカフェインレスコーヒーを作ることが可能だという。
参照記事3
TITLE: Grow a decaffeinated cuppa
SOURCE: Nature, by Helen R. Pilcher
DATE: June 24, 2004
 しかし、この話はこれで終わりではない。コーヒーの原産国はエチオピアだそうだが、これらの貴重な野生のカフェインを含まないコーヒーの木も、もともとエチオピアに自生していたらしい。そこでエチオピアはこれらの木は不法に採種された疑惑があるとして所有権を主張し、国際的なホットなコーヒー争奪戦が勃発した。ブラジルの科学者たちは、これらの種子はコスタリカに集められたコレクションから発見したものであり、エチオピアには一度も足を運んでいないと反論している。
参照記事4
TITLE: Decaf coffee brews ownership controversy
SOURCE: CNN
DATE: July 14, 2004

 おりしも04年6月29日には、国際種子条約(The International Seed Treaty)が発効した(04年5月10日付け拙稿を参照)ばかりである。国際種子条約は、途上国の遺伝資源を得るに当たっては事前の同意を必要とし、利用から生ずる利潤も途上国へ公平に配分すべきという92年リオの地球サミットで採択された生物多様性条約の考え方に立脚しており、エチオピアの主張にもこれが援用されている。
 喫茶店で何気なく注文する一杯のコーヒーだが、それにまつわるエピソードは別にGMOに限らず豊富である。そのあたりは、商品の基礎知識も含め、社団法人全日本コーヒー協会のサイトを是非ご覧いただきたい。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)