GMOワールド
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
トウモロコシやダイズなどの食用植物の遺伝子を組み換えて製薬品用のタンパク質や工業用の化学物質を増やそうとするバイオファーミング(Biopharming)は、製薬コストなどを劇的に下げる経済的効果が見込める反面、食用植物との交雑や流通過程での混入(コンタミネーション)のリスクを懸念する声が米国でも強い。
02年11月にはプロディジーン社が試験栽培していた製薬用トウモロコシの一部が食品用ダイズに微量混入していたことがFDA(米国食品医薬品局)により発見され、市場に出る前に回収されるという事件がネブラスカ州で起きた。
これを契機にGM反対派や有機食品業界のみならず5000億ドル市場を有する食品製造・販売業界からも、交雑や混入のリスクを理由にUSDA(米国農務省)に対し規制強化や、植物の遺伝子組み換えによる薬用・工業用利用はタバコなどの非食用作物に限るべきと指導するよう要望が出された。
この時、バイオファーミングはすべてハワイへ囲い込んでしまえといった議論も起こった。しかし、この産業が自州にもたらすかもしれない莫大な経済振興の可能性に注目した穀物主産地の中西部を含む諸州政治家の反対で実現には至らなかった。結果的にUSDAが、関連規制を強化することで今日に至っている。
食用作物への混入を基本的にゼロトレランスとするこの規制強化により、試験栽培認可を求める申請件数は激減し、バイオファーミングビジネスは退潮気味であると見られていた。しかし、ワシントンD.C.ベースのNPOであるCSPI(Center for Science in the Public Interest:公的利益のための科学センター)が、最近復活の兆しがありと6月2日公表された報告書で伝えている。
参照記事1
TITLE:Group: ‘Biopharming’ Industry Growing
SOURCE: AP, by Paul Elias
DATE: Jun. 1,2004
CSPIによれば、USDAは03年5月から04年5月の間に受理した16のアプリケーションについて7つを認可し、過去4カ月以内に提出された9つが審議中であるという。00年以後却下された申請はわずか2件にすぎない。95年来 USDAは全米で約300件の申請を認可しており、02年6月まで年平均25件の承認を与えてきたという。
バイオファーミングに対する規制が甘すぎ、情報の透明性も不足しているとの批判に答え、3週間以内に申請に関する情報開示と規制のレビューを公表するとUSDAの規制担当者は述べており、この成り行きも注目される。
さて、交雑を回避するためのブレークスルーとしては、花粉への組み換え遺伝子の発現を抑制する技術などが考えられるが実用化には至っていない。そこへ地下で製薬植物を栽培すれば交雑の恐れはほとんどなく、厳しい規制でもクリアできるというインディアナ州のベンチャー企業が現れた。
参照記事2
TITLE:Group: Drug Farm Forced Underground
SOURCE: Wired News, by Kristen Philipkoski
DATE: Jun. 27, 2004
インディアナ州や中西部に豊富な地下採石場跡地を栽培に利用しようというアイデアを出しているのはコントロールド・ファーミング・ベンチャー社。同社を起業したダグ・オーセンボー氏は、現在コストは高くつくが、事故が起きた時に比べれば採算は合うと言う。
確かにプロディジーン社に課せられた罰金は50万ドル、さらに回収費用には300万ドルかかっている。00年のスターリンク事件に至っては農家への賠償金1億1100万ドルと消費者との和解金600万ドルがアベンティス社から支払われた。
植物に必要な光は、パーデュー大学が協力してLED(発光ダイオード)の応用が研究されている。現在では非常に高価なシステムだが、温室効果も併せて期待でき栽培規模が拡大すればペイするのかもしれない。
パーデュー大学の研究者は、外気は取り入れても花粉は外部に出さないワンウェーの換気システム開発にも取り組んでいる。製造コスト低減がバイオファーミングの売りであるから、システム費用に相殺されては全く意味がないが、規制強化との兼ね合いによっては今後注目されるビジネスかもしれない。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)