科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

長村 洋一

藤田保健衛生大学で臨床検査技師の養成教育に長年携わった後、健康食品管理士認定協会理事長に。鈴鹿医療科学大学教授も務める

多幸之介先生の健康と食の講座

食品添加物のゆくえ~第1回食品添加物表示制度に関する検討会を傍聴して(前)

長村 洋一

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2019年4月18日、食品添加物表示制度に関する検討会(第1回)が開催され、傍聴をしてきた。本稿(前編)で当日の様子を紹介し、後編に添加物の歴史を振り返って現状の課題をまとめたい。

●なぜ今、添加物表示の検討会が開催されるのか

本検討会の開催趣旨は、当日資料によると「食品添加物表示の在り方については、食品表示法の制定過程における『食品表示一元化検討会』において、一元化の機会に検討すべき事項とは別に検討すべき事項と位置付けられ、消費者基本計画(平成27 年3月24 日閣議決定)においては、加工食品の原料原産地表示や遺伝子組換え表示等と共に、個別課題として実態を踏まえた検討を行う事項と整理されている」とある。今回の食品添加物独自の検討会の設置は、既定の方針どおりという説明だ。

座長は、食品添加物に関してしっかりした考え方をお持ちの西島基弘実践女子大学名誉教授である。委員は、消費者団体、業界、行政等の食品添加物にそれぞれの立場からのご意見をお持ちの方々である。第1回目なので消費者庁から食品添加物表示制度に関する説明を受けたのち、座長は「顔合わせとしての意見交換を行いたい」との挨拶でスタートした。

●ADIと制度の改定状況から伝える添加物の安全性

最初に、消費者庁の赤崎暢彦課長が食品添加物表示制度をめぐる事情(資料2)に基づいて、添加物の定義、日本における表示制度の現状と歴史、コーデックスを含む諸外国との表示制度の違い、そして一般消費者のアンケートに基づく食品添加物に関する意識について簡潔に説明を行った。

この説明で、食品添加物の実際の使用量がADIに対してどれくらい少ないかのマーケットバスケット方式による厚生労働省の調査結果が示されていた(表1)。添加物を危険視される方々の多くは、ADIが一生食べ続けても、何も起こらない無毒性量をベースに決められていることの意味をご存じないために恐怖に陥っている。日常生活において摂取している量の少なさについて、消費者への認識を周知させる必要性を改めて感じた。

表1 我が国における食品添加物の摂取量(当日資料2・4pより)

 

さらに、添加物表示の歴史に関しても説明があった。いわゆる戦後の混乱期以後、食品公害と相まって消費者の不安に対処する形で制度に変化が加えられてきたが、平成元年にすべての添加物を表示するようになったことをわかりやすく図表化され、説明された(図1)。

 この図によれば昭和23年に表示方法に規制がかけられてから平成元年までの約40年間に5回の改定が行われている。それ以後30年以上この制度はいじられなかったことを示しており、令和が始まった今、後編に詳しく述べるが添加物に関して消費者の意識を大きく変化させるべき時期に差しかかっていることを感じた。

図1 食品添加物表示制度の拡大の推移(当日資料2・5pより)

 

国際比較の観点から遅れていない日本の状況

続いて添加物表示の実際例を一括名、用途名、物質名など具体的に取り上げて説明された後、添加物に関する表示で多くの消費者が関心をよせる国際的な比較が一覧表として示された(表2)。

表2 食品添加物に関する諸外国の表示制度(当日資料2・8pより)

ここには表示順、表示方法、用途名表記、一括名表記、栄養強化の目的で使用されるもの、加工助剤そしてキャリーオーバー表記がコーデックス、米国、カナダ、豪州、中国、仏国の書く国でどのような制度下で行われているかを簡潔にまとめてある。この国際比較の表からは、日本が諸外国に比較して大きく遅れているという印象は全くない。

この表のベースとされた資料が食品添加物表示制度に係る実態調査事業報告書(参考資料2)として検討会資料として提示されている。その資料を拝見すると、各国における菓子、食肉製品の具体的表示例も示されている。各国の表示方法を具体的に見ることができ、食肉製品における亜硝酸ナトリウムが豪州では防腐剤と表記されていたり、菓子に入っている水まで表記したりしている仏国の例なども見ることができる。

この資料は、これ以外にも国内の事業者の直面している食品添加物表示に関してのかなり詳細な報告書となっている。例えばウエブサイトや2次元バーコードによる消費者への食品添加物情報提供の現状やお客様相談室で発生した具体例などや、2つの大手と感じられる食品メーカーに対して行われた聞き取り調査などが掲載されているので興味のある方はこの資料を参照されたい。

●1万人の消費者意向調査結果の意味

続いて食品添加物表示に関する消費者の意向調査の概要に関する調査報告が紹介された。この調査報告は平成29年度食品表示に関する消費者意向調査報告書(抄)(参考資料1)に基づいているが、具体的に提示されている資料1の内容は添加物表示に関しては抜粋ではないことが分かる。

この報告書は1万人のウエブアンケート結果の集約された調査結果を示している。統計データとして1万人の調査というのは一定の重みを有する調査結果であるには違いないが、私には少し違和感があった。それは私の日頃の市民公開講座等に参加する人たちに同じ調査を行ったら意識レベル、知識レベルとして異なる分布を取るのではないかと感じたからである。

たとえば資料2における調査の一例(図2)に、“現在販売されている食品には、「人工甘味料無添加」、「保存料を使用していません」、「合成着色料不使用」、「添加物不使用」など、添加物を使用していない旨の表示が見られます。あなたは購入時の商品選択の際に参考にしていますか。(ひとつだけ)”という問いかけに対し「「同じ類の食品であれば、「○○を使用していない」、「無添加」の表示がある食品を購入して いる」人が39.4%と最も多かった。」となっている。

図2 消費者意向調査報告書の抜粋(当日資料2 13pより)

私は、全く同じような調査を市民公開講座や消費生活センターで行った経験を有するが、同じような設問に対し85%位の人が無添加表示食品を購入すると答えていた。

多分この調査はウエブ調査という段階で食品表示に関し日頃かなり関心の高い人が選択されてしまう、というバイアスがかかっているためと推測される。しかし、この検討会が目的としているのはある程度食品表示に関して関心の高い方々を満足させなければならないので、その観点からは的確なデータと考えた方が良いのかもしれない。

さらに各委員の発言を聞いて感じられたのは、現行の制度で添加物の安全性はかなり確保されていると言う考え方が一部の委員を除いて多くを占めている点であった。そんな観点からこの検討会の委員のバランスは良いとも言える。こんな経過で行われた委員会を傍聴させていただいた者として、添加物に対し個人的に感じている私見を次回展開させていただく。

執筆者

長村 洋一

藤田保健衛生大学で臨床検査技師の養成教育に長年携わった後、健康食品管理士認定協会理事長に。鈴鹿医療科学大学教授も務める

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