科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

長村 洋一

藤田保健衛生大学で臨床検査技師の養成教育に長年携わった後、健康食品管理士認定協会理事長に。鈴鹿医療科学大学教授も務める

多幸之介先生の健康と食の講座

工業生産部門だけではない、健康食品の品質の問題

長村 洋一

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検査データを改ざんした免震用ダンパーが日本を代表する大手のKYB(株)によって出荷され、それが全国の官公庁を始めとする多くの施設において使用されていたことが大きな問題となっている。ここ数年、こうした表向きだけ整えられているが、安全性に対する信頼が大きく揺らぐような事件が相次ぎ、「ものづくり日本」のイメージからほど遠い事態となっている。

国はこの事件に対し「これらを使用した建物は基準が満たされていないといっても、震度6、7程度では倒壊の恐れはない」として、国民の動揺を防ぐことが大きな目的と推測されるようなコメントを発信している。このような情報発信の仕方は、食品の世界で基準値を超えた添加物や残留農薬等で問題が発生したときに公的機関から発せられるコメントとよく似ている。食品の場合は、その基準値がどのように決定されているかを知っている私には「直ちに心配ない」との説明に納得がゆくが、工業製品の基準値が危険性に対しどれくらいの余裕をもって決定されているかを全く知らないので、すんなりと納得はできない。

●なぜ毎年のように不祥事が続くのか

いくつかのメディアのニュースから判明していることは、10年以上にわたって少数の現場の人により不正が行われ、その商品が国外にまで販売されていて、問題が国内にとどまっていないとのことである。こうしたことも昨年あたりまでに起きた事件とよく似ている。

昨年は、神戸製鋼が長年にわたって規格に満たない製品データの改ざんをして、その製品が新幹線や航空機の一部にも使用されているという衝撃的なニュースを皮切りとして、大手メーカーの東レ、三菱マテリアルなどが同じようなことを報告した。その一方で日産自動車、スバルが無資格者の審査でOK をだした自動車が出荷されていた事実を報告するなど、工業生産部門での品質管理のずさんさが浮彫りにされる事件は記憶に新しいところである。

いずれも明らかな事故につながっていなかったことは不幸中の幸いであったが、誰もが疑いもしなかった日本製品の相次ぐ不祥事に驚かされた。今回のKYBのデータ改ざんも含め、これら事件全体に共通する大きな問題点は、比較的長年この状態が続いていたという事実である。しかもそれは現場で行われていて経営陣の命令で行ったことではないというニュアンスが大きく漂っている。

しっかりした技術者が多くいる日本企業の社内で、現場において誰もこの問題に気付かなかったわけはなく、“気付いていたけれど、顧客にばれなければこれくらいは大事件にならないだろう”という考えが、経営陣と現場に阿吽の呼吸を産んでいたのではないだろうか。逆に言うと気付いて問題とした技術系社員は結構多かったに違いないと思われるが、指摘しても無視されるどころか、社員としての出世の妨げにすらなっていたのではなかったかと推測している。

このようなことが次々と発生する社会的背景の一因として、“自分に課された責任よりも上司の気持の忖度を最優先して行動をとる人”がその社会で上司から護られる、ということが官公庁を含めて平然と行われていることが日本社会全体に蔓延しているからだと考えている。

●健康食品の世界でも品質が問題となっている

この問題を取り上げたのは、これら一連の事件は単に工業生産部門だけの問題ではないと感じるからである。私は現在、一般社団法人日本GMP支援センターの仕事に関わっており、ここ数年、医薬品と健康食品の品質管理の現場を見ることがある。GMP(Good Manufacturing Practice)とは、医薬品等の製造過程における品質管理に関する基準であり、日本を含め多くの国ではGMPに準拠して製造されていない医薬品は販売できない。GMP支援センターでは企業のGMPの運用の監査並びに助言を行い、品質の確保と向上に寄与すべく活動している。この関係の仕事において、品質管理に関する生産部門と営業部門の確執で発生している問題に良く直面する。

そんな中で印象に残っているのは、GMPに準拠しないで医薬品製造を行っていたメーカーに厚生労働省の指導が入り、その後、GMP管理の構築について助言をしたときのことである。なぜこんなことが起こってしまったのかと調査する過程で明らかになったのは、会社側にしっかりした安全対策の整備を要求するまじめな技術者の首が次々とすえかえられていた事実であった。

2016年9月、日本サプリメントが発売する特定保健用食品に有効成分が規定どおり入っていなかったことが判明し、消費者庁がトクホの認定が取り消した事件が発生した。これも、国に許可を得ていた製品でずさんな製品管理が行われていた事例である。

消費者庁はまたこの事件を受けて、すぐに日本健康・栄養食品協会を通し「特定保健用食品を発売している全社に同じようなことがないか」と問い合わせて、一社もないとの回答を受けていた。しかし、2016年度に消費者庁が買い上げ調査を行って検査したところ、7品目検査した中で2品目も量目不足であったことが報告された。

そして、2018年4月、消費者庁が2017年度に引き続き買い上げ調査を行った結果が発表された。この報告では発売された特定保健用食品100品目について量目不足だったのはたった2品目であった。

国の抜き打ち的検査が一年でこのように大きく数字を変えてしまった。残念ながら国の基準を満たしているとの表示をしている商品でも“外から監視されている”という緊張感を産まない自主規制の限界を見事に示している。

2017年11月、消費者庁は機能性表示食品の「葛の花イソフラボンを配合した製品」を販売した大手を含む16社に「その広告に合理的根拠が見いだせない」という事を指摘して、措置命令を出した。

この事件は表示の問題であり、一見、品質管理と関係が無いように見えるが、“有効性の裏付けがない商品を優れた品質を有する”かのごとき宣伝をするのは本質において同じである。

欧米やアジアの近隣諸国では、錠剤、カプセル型健康食品にはGMP準拠による製造が義務付けられている。しかも米国FDAは、抜き打ちでGMPに準拠した製造を行っているか否かを調べているので、企業としては規定に従って製品の製造を行っていないと直ちに販売禁止措置がとられる。

その一方で我が国は、保健機能食品にも属さない “いわゆる健康食品”が多く販売され、保健機能食品においてもGMP すら義務付けていない在り方は、企業に「安全面にお金を使うより広告にお金を使った方がよい」ということを助長させないか。消費者にとっては最悪の企業姿勢を生み出させているのではないだろうか。

2015年4月からスタートした機能性表示食品制度はそれなりの整備がされ、問題を抱えつつも私はこの制度を伸ばしてゆきたいと考えている。しかしこの錠剤カプセル型製品の品質管理に対する甘さには非常に大き問題があると感じている。

執筆者

長村 洋一

藤田保健衛生大学で臨床検査技師の養成教育に長年携わった後、健康食品管理士認定協会理事長に。鈴鹿医療科学大学教授も務める

多幸之介先生の健康と食の講座

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