科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

白井 洋一

1955年生まれ。信州大学農学部修士課程修了後、害虫防除や遺伝子組換え作物の環境影響評価に従事。2011年退職し現在フリー

農と食の周辺情報

米国産ノンGM大豆はなくならない 心配なのは国産大豆の生産現場

白井 洋一

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 日本の大豆自給率は約7%で、とうふ、味噌、納豆などの食用大豆でも約20%だ。最近の円安で輸入大豆の価格は上昇しているが、一時のような「北米、南米の大豆はほとんど遺伝子組換え(GM)品種になっている。将来、ノンGM(非遺伝子組換え)大豆の入手は困難になるかもしれない」というニュースは聞こえてこない。

 昨年、米国を襲った大干ばつ(熱波と少雨)で、トウモロコシの収穫量は前年より13%減と大幅に減少したが、大豆は3%減にとどまった。トウモロコシは7月の開花・受粉期に熱波の直撃を受けたが、大豆の受粉期はそれより後で、8月の雨も味方したためだ(米国農務省、2013年1月発表)

 量の確保とともに、品種でも米国の大豆生産者団体は「今後もノンGM大豆を安定して供給できる」と日本のユーザー(食品製造業や小売業の実需要者)に力強いメッセージを送った。

ノンGMダイズはなくならない むしろ増える

 2012月12月、アメリカ大豆協会主催の「アメリカ大豆アウトルックカンファレンス」が開かれた。

 日本の油糧・飼料業界と食品業界向けに、その年の米国産大豆の生産と品質を報告するもので、毎年この時期に開かれている。

 「アメリカ食品大豆の最新情報」と題する報告では、「日本のユーザーからの需要がある限り、ノンGM大豆を栽培する。来年用の種子も十分確保されている」と述べた。

 日本のユーザーからの念押しの質問にも「一時、米国ではノンGM大豆はなくなるのではないかという心配もあったが、そんなことはない。最近は大学、企業でもノンGMの優良品種の育成が増えてきている」、「ノンGM大豆の栽培面積は増えることはあっても減ることはない」と答えた。

 米国の大豆生産者団体は、GM大豆に反対なのではない。彼らはGM大豆も栽培するし、輸出先のユーザーが求めるならば、ノンGM大豆も栽培するのだ。

 米国大豆協会が2009年2月に立ち上げた「ノンGM食用大豆栽培奨励」のサイトが興味深い。

 米国ではノンGM品種はIP(Identity Preserved, 分別管理)品種と呼ばれる。大豆は同じ畑に毎年作ると連作障害が出るので、トウモロコシや牧草と交互に輪作栽培する。

 アンチGMの感情的理由ではなく、経済的かつ科学的な理由から、IP大豆を輪作栽培の選択肢の一つして積極的に採用しようという呼びかけだ。IP大豆栽培のメリットは主に3つある。

 ・ プレミアム(割り増し価格)が付き、高く取引される(過去10年のデータでは不分別大豆より約1.2~1.6倍高い)。

 ・ 除草作業は面倒だが、GM品種より種子代が安い。除草剤の費用も(GM品種で使うグリホサートにくらべて)安い。

 ・ グリホサートを連続して使わないので、抵抗性雑草の発生防止になる。

 経営と農地管理の両面から見て実に合理的な選択だ。

組換えダイズの新品種も推進

 カンファレンスでは、「米国産大豆の競争力、特性の強化」と題して、今後、高オレイン酸大豆品種を積極的に導入していくことも報告された。

 高オレイン酸大豆は、トランス脂肪酸含量の少ない健康志向の品種だ。米国ではトランス脂肪酸の表示義務化によって、高オレイン酸カノーラ(セイヨウ菜種)のシェアが増え、大豆油を圧迫している。高オレイン酸大豆は、引火点が低く、低温でも潤滑性が高いので、バイオディーゼル用としても有望だという。

 高オレイン酸大豆はデュポン社の品種が2013年から、モンサント社の品種も2014年には商業栽培が始まる予定だ。米国大豆の市場競争力を確保するため、将来、栽培面積の80%程度を高オレイン酸品種に拡大する計画だという。両社の品種はどちらも遺伝子組換えだ。

追い風を活かせなかった国産ダイズ

 高い割り増し価格を払う限り、輸入大豆でもノンGM品種は確保できそうだが、安心してばかりもいられない。国産大豆の先行きが暗いからだ。

 GMダイズを拒否する日本の消費者や食品業界の声に応えるように、農水省は「国産大豆は遺伝子組換えではありません」を強調する姿勢をとってきた農水省生産局)

 国産大豆振興のために、消費者の不安を追い風にGM大豆を悪役にするのは戦略的には決して悪いことではない。しかし、食用大豆の自給率は2001年の26%がピークで、最近は20%前後で低迷している。国産大豆に対する実需者の要望がありながら、国産の生産量、シェアは伸びていない。

 実需者側から見た国産大豆の欠点は、(1)価格が高い(過去5年のデータでは、輸入ノンGM大豆より約1.4~1.6倍高い)、(2)供給量が年によって不安定、(3)ロット規模が小さい(収量が低く、同じ品種でまとまった量を確保しにくい)などだ。

 国産大豆の収量は10アールあたり約150Kgで、米国の約半分。主要産地のうち、九州を除く、東北、北陸では年々減少傾向にある。

 新品種の開発も進んでいない。2010年の栽培面積トップ3の「フクユタカ」、「エンレイ」、「タチナガハ」はいずれも1970~80年代に開発された古い品種だ。

 1996年にGM大豆が市場に登場して今年で17年。2001年に「遺伝子組換え不使用」、「非遺伝子組換え」という任意表示が認められてから12年が過ぎた。

 「遺伝子組換えではない」国産大豆は国産振興、自給率回復にとって追い風だったはずだが、この間、関係者はなにをしてきたのだろうか。

 2012年9月発表の農水省生産局「大豆をめぐる事情」を見ても、国産大豆の欠点を克服し、実需者の要望に応えるような力強い対策は見えてこないのだ。

執筆者

白井 洋一

1955年生まれ。信州大学農学部修士課程修了後、害虫防除や遺伝子組換え作物の環境影響評価に従事。2011年退職し現在フリー

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一時、話題になったけど最近はマスコミに登場しないこと、ほとんどニュースにならないけど私たちの食生活、食料問題と密に関わる国内外のできごとをやや斜め目線で紹介